▼ カフェ・モカ
若、本日も私は前世の妖怪の名に恥じぬよう立派に人間として生きております!
人狼?窮鼠みたいなものか?
動物もどき?猫娘みたいなものだろう。
「コイツが、ハリーの従兄弟か…」
「お前がハリーの……ストーカーだっけ?」
「違う!!」
凄く全力否定されたんだが違うのか?
ハリーを振り向けば「シリウスは名付け親だよ!」だと必死に言われた。
少し前にハリーの周りをうろちょろしてたんだから似たような物だろうに。と思いはしたが口には出さず、代わりに「すまない」と謝っておく。
俺の気持ちの籠っていない謝罪に黒い男はひくりと頬を引きつらせ、隣の茶色い男は苦笑を浮かべた。
「で、そのハリーの親の友人共が俺に何用だ。」
皆目見当もつかない。お偉いさん方からの尋問とやらはこの前無事に…無事に?終わって、俺が魔法使いではないと分からせたはずだし。
「ダドリー、君を騎士団に招こうと思ってね」
「やだよ」
心底嫌だと顔面に表して断れば、笑顔で告げた茶色い男は固まった。
黒い男も目を見開いて固まっている。
「い、嫌なの…?」
「当たり前だ。再三俺は魔法使いじゃないと言ってるだろうに」
恐る恐る訊いたハリーにきっぱり告げてやった。
俺は魔法使いではない、元妖怪なのだ。そこの所の縄張りはきっちりしておきたい。
「だ、だけど、ハリーを助けてくれたお礼をしたいと皆言っていて…」
「お礼?」
妙な話だ。騎士団とはハリーの保護者団の別称か?
「俺は別に己の界隈を管理しているだけだ。」
自分の縄張りにいけ好かない奴が入り込めば排除するのは当然な流れ。
そして従兄弟のハリーを助けるのも当たり前ちゃあ、当たり前だ。血の繋がりのある身内だからな。
俺以外の野郎共は言葉を失くしたように口を開かない。
「ハリーがこちらに帰った時は俺が周りを警戒してやる。」
ポンと彼の頭に手を置けば、驚いたのか俺を眼鏡越しに見上げてくる。
「だから、まぁ、好きな時に連れて行け」
俺の中で話しはそれで終わったので背を向け自室へと戻る。
「ありがとう」
後ろから聴こえた声は誰のだったか。
とか何とかやり取りしたのはいつだったっけ。
学校が休日な俺は近くの小さな川でザリガニ釣りに興じていた。たまにはこんな暇潰しも良い。
「おっ、おお?」
急に尋常じゃない引きがきて、これはもしかすると川の主でも当たっただろうかと渾身の力で引き上げれば…
ざばぁっ
「…」
「…」
人間が釣れた。しかもコイツ見た事ある。
「あー…と、シリアルだったか?川遊びは夏場にやろうな?」
「シリウスだっ!しかも遊んでない!」
濡れた髪を掻き上げざばざば俺に近寄る男。そうそう、シリウス。ハリーの…えーと…そう、ストーカーな。
「どういう事だ…俺はさっきまで神秘部で戦って…アーチの向こう側に倒れてしまい…」
ブツブツ呟いていて完全なる不審者だ。幸い辺りに人はいないが、他人のふりをしたい。
「そしたら、…首の浮いた男に紐持って追いかけられて…」
ん…?
「おい、」
「あ?」
ずるり、と影が揺らめいた。
「もう一度話せ」
「ぎゃあ!?何すんだ!」
暴れる男を影でぐるぐる簀巻き状にして、俺はわざわざ言葉を繰り返す。
「今のところもう一度話せ。詳しくお聞かせ願おう」
「わ、分かったから…!解放しろ!」
優しく声をかけたのに、奴は失礼にも顔色を悪くして喚いた
何なんだ。私は組一番の優しい妖怪として名を馳せていたというのに。人間とは気難しい生き物だ。
「ふむ、では話を聞く前に水なりお湯なり浴びてこい。ザリガニ臭くて敵わんわ」
「ザリガニ臭い!?」
ショックを受けたのか叫んでいたが、ドブ臭いと言わなかっただけマシだろうに。