小説2 | ナノ



▼ マリア・テレジア

「普通は死ぬ」
「だよなぁ…」

いつかの茶色い男まで交えて、というより俺を抜いた二人で話し合っており、今しがた茶色い男の言葉を受けて黒い男…シリ…シリアス?は頭を抱えテーブルに伏せた。

うむ、良い加減俺抜きで二人で仲睦まじくくっちゃべってるのを眺めるのは飽きた。
俺にまずは説明すべきだろう。そうだろう。

「で、結局の所お前は生きてるじゃないか。それとも一度死んで生き返ったとでも言いたいのか?」

頬杖をついて問えば、分かり易く狼狽え口を開閉させたが、意を決したようにひとつ頷いてみせる。

「そうとしか思えない。俺は確かにあの時、アーチの向こう側に倒れ、死んだ。」

アーチとやらが何なのかは分からんし、倒れたとかコイツ何やってたんだ?とは思ったが別にこの人間自体にはさほど興味は湧かないので黙っておく。

「だが、その後に見た事もない建物の敷地内に立っていて、この世の物とは思えない…妙な生物たちを見た。魔法界でも見た事ないような奇妙な奴等だ」
「その中の一人が、首が宙に浮かんだ男だと?」

シリ…えーと、シリなんたらは必死な表情で何度も頷いた。

「そうだ!体から頭だけ宙に切り離した男がロープを持って追い掛けてきたんだ!その後は水掻きも持つ半魚人もいたし!周りを氷漬けにする物凄い魔法を使う女もいた!」

かなり興奮気味に話すシリなんたら。
その口から饒舌に語られるのは…私の同胞達だろう。
きちんと若をお守りしているか心配だ。否、若は立派な方だ。むしろ奴等を守ろうとしていないか不安だ……
若!もっと雑に顎で使って良いんですよ!

目を閉じ若に想いを馳せていれば、シリなんたらに肩を掴まれる。

「ダドリー聞いてるのか!?ソイツ等に追い掛けられて散々だったんだぞ!!」
「煩いぞ。追い掛けられたぁ?手ぬるいわ!手足をもがれて火達磨にされなかっただけ助かったと思え」
「ひいいぃぃ…!奴等はそんなに危険な者なのか…!」

シリなんたらが縮こまってガタガタ震えていたが、俺のせいでは無い。うん。

「で、その場所へはどうやったら行けるんだ?」
「この流れで行きたがるか普通!?」

シリ………しりしり何度も面倒な名前だなコイツ。もう尻でいいだろ。

「喚くな尻。俺はその首の浮いた紐男に会って話があるだけだ」
「尻!!!?」

くそ、コイツ俺の見た目よりだいぶ年食ってる癖してなんてチャラチャラ煩いんだ。

「ちょ、ちょっと待って!いくら君が強いからって、それは危険だ。僕としても認められないよ」

急に茶色い男が話に入ってきやがった。
尻の話を聞いていただけで空気みたいに「へー」しか反応しなかった奴が、ここにきて介入してくるとはとんだ間男だな。

「シリウスの話から推測すると、そこは死後の世界って事になる。戻ってこれるか分からないよ?」
「ふん、戻って来れない時はその時考えるさ」

元より、あちらが私の世界ではあるしな。
今は人間の体だが、どうにかなるだろう

「ダドリー…、その時考えるって言ったって…。そもそも、行けるかどうかさえ保証はない。行こうと思っても普通に死んだらどうするの」
「…………む、それは困るな」

盲点だった。
だが、冷静に考えれば間男の言う通り、死んだ後にあちらの世界に行けるかなんて博打も良いとこだ
俺とした事が、もう一度若を一目見れる可能性に容易く思考を乱されるとは…情けない。
奴良組一聡明と讃えられた私が形無しではないか

「もう少し情報を集めたいところだな。魔法界には一度死んで生き返った奴ぐらい、そこら辺にごまんと居るだろう」

魔法と云う大層な名称ぐらいなら、死後の世界も行き来自由になっても良いだろう。
しかし、俺の言葉に絶句する2人の男を見るとそうもいかないようだ。

「いや、そこらに居る訳ねぇよ…」
「ちっ、使えん尻だな。」
「だから、その呼び方は何なんだ!?俺はシリウスだっ!」

思わず口から舌打ちが出てしまったが、喚く尻は情報なしと判断して、隣の茶色い間男に目線をついと移す。

「完全に死んで生き返った、という話は聞かないけど………近い物であれば、」
「ほう…?詳しく話せ」

思案気に眉を寄せながら紡がれるそれに、身を乗り出し促す。
その躊躇いながら口にする様子に、尻も思い当たりがあったのか落ち窪んだ目を大きく開き間男の肩を掴む。

「リーマス、まさか………っ!」

唇を噛んで勿体ぶったが、再び静かに口を開いた。

「魔法界には名前を言ってはいけない人がいる。ソイツは一度滅びたと思ったが、最近になって生きている事が分かっている。」

なんだそれ。名前を呼ぶと何か召喚でもされるのか?

「……まあ、お前も知っていた方が良いかもな。ハリーに大きく関わる人物だ。何と言っても、ハリーがソイツを滅ぼし唯一生き残ったとされているんだから。」
「へぇ…?」

目を細め、視線で話を促すと2人の男は妙に背筋を正した。

「正確には母親の愛のお陰、かな。でも、そのせいでハリーには危険が付き纏うんだ」
「そういう訳だから、お前にも是非騎士団に入ってもらいたいんだが…」
「あ?前も言っただろう。断る。」

片眉を上げ、伺うような男共の視線を睨み付け捩じ伏せると、大袈裟に肩を跳ねさせる2人。

「そ、そうだよね…」
「無理ならしょうがない…」

息を1つ吐き出し「で?」と問い掛けをしてみる。

「ソイツの名前は何なんだよ?」
「いや、言ってはいけないんだって!」

茶色い方が心底驚いた表情で立ち上がる。
でも、名前聞かないと誰だか分からないじゃないか。どうやって捜せというのだ。

「あー…名を知れば、それだけ巻き込まれる可能性があるが…まあ、お前は大丈夫か…」

黒い方は虚ろな目で何やらブツブツ言っている。
教えるんなら早く教えろよ。

「はぁ…、」とむさ苦しくもオッサン2人の溜め息が重なる。

「ヴォルデモート、だ。」

一瞬、それが名前だとは把握できなかった。
…うむ、かなり覚えにくい名前である。

「では、行ってくるか」
「待て待て待て待て…!」

腰を上げた瞬間、何とも必死に身を乗り出した2人に腕を掴まれた。

「何だ?」
「何だ、じゃない!どこ行く気だっ!?」
「この流れで席を立つなんて、嫌な予感しかしないんだけど!?」

どこって、そりゃあその何とかモードに会って死にかけた時の話を聞くしかないだろうに。
そう伝えてやれば、更に掴む力が強まる。
おいこら、一応身体は人間の少年だぞ。なんて事してくれる
跡が残って母親に見られでもしたら、出るとこ出ちまうだろうが。

「君なら本当に何かしそうで怖いからヤメテ!?」

耳元で叫ばれマジこいつら一回沈めようかと考えたが、
いい歳したオッサンの涙目に本気で引いた俺は無言で腰を下ろしたのだった。



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