小説 | ナノ

「あ!ドクササコのすご腕忍者の部下だ!」

折角の休日に一般人として町に出て団子でも食おうと思ってたのに、後ろから馬鹿みたいに声を投げられる

バッと振り向けば、予想通り忍術学園の忍たま一年生がいた。

「略してドす部下!」

ご丁寧にも指を差して言ったそいつの口を塞ぐべく駆け寄る

「お前な…!こんな町中で忍者とか言うなよ…!」
「むぐむぐ…!」
「だいたい俺は私服なのに何で気付くんだ…!」

口を抑えつつ小声で言ってやる。
忍者の卵ならそういう所ぐらい分かって欲しい。プライベートだぞ!

町人達はこちらをチラリと一瞥するが、立ち止まる気配がない事から先程の忍たまの発言を気にする奴はいないらしい。
チビを抱えたまま笑って誤魔化せば視線を寄越す奴もいなくなる。

「兵太夫くん…?その人は…?」

ギクリ。
若い女の声がかけられ、振り返る。また忍術学園の関係者か?

「椛さん!」

チビが元気よく呼んだ相手は、茶色の長い髪を左肩の前に纏めて流した柔らかい雰囲気の女性だった。
少し垂れた目がこちらを見ては首を傾げる
気構えて振り返った先で柔和な風貌があったもんだから力が緩んだのか、俺の手から忍たまがすり抜け女性に駆け寄る。

「椛さん、コイツはドクササコ忍者の白目の奴です!」
「え?」
「だから!そういうのは町中で口にするなって…!」

睨み付ければ、忍たまのチビは「あっ!」と自分の口を慌てて覆う。
…そんな動作されたら怒るに怒れない…。

「えっと…?」

女性が戸惑ったように俺と忍たまを交互に見た。
忍たまが女性の袖を引く

「ドす部下って呼ばれてもいます」

今度は小声だったから許そう。

「ドす部下…さん…?」
「あ、白目の方でお願いします…」

なんだか忍者学園のお気楽な空気に流されてる気がするが、手を挙げて訂正しておく。
どうせ呼ばれるなら白目の方がマシ。

女は頷いて「白目さん」と確認するように口にした。

「はぁ。もう…、休日だから団子を食べに来ただけなのに…」

まさか忍たまに絡まれる事になるとは。ガックリと項垂れる。

「団子?偶然だね。じゃあ一緒に食べよ!ね、椛さん」
「うん。私達もお団子食べに来たんです。良かったら是非」

「は…?」

ニコニコ笑う女と子供。




「白目さんそれ一口ちょうだい!」

どうしてこうなった。

「兵太夫くん、私のも食べる?」
「食べるー!」

現在、団子屋で俺と忍たまと女性で3人並んで座って団子食べてます。なんか仲良さげに。

「白目さんは餡団子好きですか?」
「あ、はい」
「どうぞ」
「あ、どうも」

なんだかなぁ。
でも、手渡された団子は美味い。
ちょうど飲みたい時にお茶も渡してくれる。

「あらら、兵太夫くん口のとこ付いてる。こっち向いて」
「んー」

それにしても気のきくこの女の人はくのいちだろうか?
忍術学園の関係者だろうけど、さっきから名前である椛という情報以外まるで分からない。

「…あ。白目さんも餡子付いてますよ」

黒目がちの目がこちらを見上げたかと思えば、柔く微笑み手拭いで口許を拭かれた。
優しい手付きが離れていってやっと状況を理解する

「……っ!?」

熱くなる顔を見られまいと彼女から視線を背け、俯けばニヤニヤ笑う子供と目が合った。

「白目さんってば…」
「これ食べておけ!」

言い終わる前に口に団子を入れる。
美味しそうに食べ始めたので助かった。



「それじゃあ、白目さん今日はありがとうございました。ご馳走になっちゃって…」
「白目さん太っ腹ー!」
「いえ、いいんで…」

なんか疲れた。
頭を下げては微笑む女と、ぶんぶん手を振る子供と別れる。
やっと一息吐ける。あの二人と一緒にいたら呼吸がし辛い。

「白目さーん!」

何故か忍たまが走って戻ってくる。
立ち止まれば、ぐいっと手を引かれて前のめりになってしまう。
子供は俺の耳許で囁いた。

「椛さんは忍術学園の事務員をやってますから、いつでも会いに来てください」
「………な、え?」

なんで俺が会いに行かなきゃいけないのだ。
もうこんな落ち着かない気分はごめんだ。

「なんなら、僕がお団子のお礼って事で椛さんと白目さんを引き合わせますから」

怪訝な顔を忍たまに向ければ、ニヒッと悪戯に笑った。

「白目さん、椛さんに惚れたでしょ」
「はぁっ!!?」

大声あげて仰け反る。
ボボッと顔が火を噴いたように熱い。
やばい、これじゃあ図星みたいじゃないか

「椛さん恋人いないし、今がチャンスですよ!」

そう言い残し笑い声と共に忍たまは走り去っていく。その先で彼女が待っていて不思議そうに小首を傾げていた。
戻った子供と手を繋ぐとこっちを向いてまた頭を下げる。
遠い距離なのにあの柔らかな瞳が見えた気がした。

背を向けて早足に帰る。
頬はまだ熱い

「嘘だろ……」

頼りになる上司に相談するべきか。

それとも忍たま…兵太夫に協力して貰うべきか。


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