小説 | ナノ

「ねぇ、ひゅごふふぇさん…」

背中に向かって呼び掛ければすごーく嫌そうに振り返られた。
わぁ眉間に皺。

「それは俺の事を呼んでるのか?」
「うん。」
「食いながら喋るのやめろ。」
「えー」

仕方なく食いかけの饅頭を皿に置く。
それを見計らって凄腕さんは「で、なんだ?」と訊いてきた
腕を組んで私の話を聞く体勢をとってくれたので、こちらも背筋を伸ばし真っ直ぐ見つめる

「うーん…最近凄腕さん成分が足りない気がする!」
「………あ?」

ヤンキーみたいに片眉を上げられた。人相悪いわぁ

「意味が分からん」
「凄腕さんが足りなくなると代わりに甘味が欲しくなる乙女の気持ちを分かって下さいよ…!」
「知るか!」

わっと両手で顔を覆うが、件の彼からはつれない返事。
酷い。お団子買ってこないと許さない。

「甘味って…ただ単にお前が食べたいだけじゃないのか」
「何故バレた…っ!?」
「ああ、本当にそうなんだな…」

ハッと凄腕さんを見たら呆れた表情で見下されてた。
一応恋人に向かってその顔どうなんだろう…
好き合ってるはずなんだけどなぁ…確か。うん、あれ?実は私の勘違いで私の片想い…?おう…なんてロンリネス…

「お前の面倒は俺が一生みてやるって言われたのはまさか夢…?」
「はあっ!?」
「帰れないなら俺の傍にいろ、って抱き締められたのも幻か…」
「んな…っ!」

やだ…私の妄想力なら有り得る…って事は全ては私のイリュージョン…なんてメランコリック…愛の罠ね。

「おまっ、ちょっと黙れ!」
「あれ、凄腕さん顔が真っ赤で大変そう」
「誰のせいだっ誰のっっ!!」

なんか怒られた。ハテナマーク量産である。

「ああっもう…!今度餡蜜屋に連れてってやるから…」

なんだと。許す。

「でっへへ、ありがと凄腕さんラビュー!」
「うわっ、くっ、くっつくな!」

また耳まで真っ赤にした愛しの人の胸に飛び込みぐいぐい擦り寄る。
凄腕さんは腕を上げて狼狽してた。
感謝と歓喜と愛情をハグで伝えてるんだけどな!

「じゃあ…代わりに饅頭あげましょうか? 」
「なんでだよ…食いさしなんているか。」
「遠慮せずに!あーんします?」

腕を伸ばして先程の饅頭を手に取り、凄腕さんの口許に持ってく。

「このままでいいから饅頭はお前が食べろ!」
「そうですか?わーい」

饅頭美味しいし凄腕さんとイチャイチャできるし幸せ。

「部下の人達に取られてばっかで悔しいんですよー…」

あー…私も忍者目指したらもっと一緒にいられるかなぁ。
でも平成育ちには生活するだけで一杯一杯だし…いやぁ凄腕さんに拾われて良かった良かった。

「椛…」
「はい?えっと…」

見上げれば凄腕さんもこちらを見ていて表情も険しくないからびっくりした。
そっと私の背中に手が回される
ゆっくり顔が近付いて額同士がコツリと音をたてた。

「椛、俺は……」

凄腕さんの真っ直ぐな瞳が至近距離ですぐそこにある


「せんぱーい!」
「ぎゃああぁぁあっ!」

ガラリと無情に戸が開けられた。瞬時に顔を離した凄腕さんマジ忍者。
戸の前に立ってるのは白目さん。
しかし、凄腕さんに至近距離で叫ばれて私可哀想。耳ぱーんてなったよ。

「えっ…せっ、先輩が椛ちゃんを襲っている…!?」
「ち、違っ、これは…!」

凄腕さんが慌てて両手を離して勢い良く万歳する
くそぅ。白目さんタイミング悪すぎる。白目じゃなくて黒目になっちゃえ!

「いただきっ!」
「ぎゃっ!」
「…い゛!?」

上から、私、白目さん、凄腕さんの順番だ。

ガツン。と結構派手にぶつかったからか、凄腕さんの口が切れている。
ペロリと己の唇を嘗めれば饅頭と血の味がする。
茫然と口許を手で押さえる目の前の人。

「い、今…先輩と椛ちゃん…く、口吸…」

震える手で指差す白目さん。
素早く立ち上がって白目さんにわざと肩を当てて部屋を出た。

「白目さんのバーカ!」

捨て台詞を残して駆け出す。
凄腕さんと同じく口許を押さえる。緩むのは抑えられない

キスの続きはまた今度に取っといてやろう
凄腕さんの部下はみんな一度忍装束洗濯し忘れて休めばいいよ!


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