小説 | ナノ

忍たまにとって、くのたまは恐ろしい存在だ。くのたま最上級生は特に恐い。
そのくのたま最上級生の中でも一番近寄りがたいのが彼女だろう。
久高椛、その彼女が髪を解いて櫛を通している。己の黒く艶やかな髪をじっと見つめながら丹念に丁寧に櫛でとかす。

「こんな所でどうしたんだ?」

おばちゃんに薪割りを頼まれたので、食堂の裏手に回れば久高が岩に腰掛け髪を梳いていたので声をかける。
人なんて滅多に通らない場所だったので気になる。
近寄っていけば彼女の瞳がこちらを捉えパチリと瞬く。話し掛けられた事が予想外だったのか口を開くのに暫し間が空いた。

「あ、えっと…私、ですか?」
「お前以外に誰がいるんだ」
「済みません。まさか土井先生が私に声をかけて下さるとは思いませんでした」
「そうか…?」

きっぱりと言われてしまい、思わず頬を掻く。
くのいち教室に属してはいるが彼女も忍術学園の生徒だ。自分としては分け隔てなく接するのが当たり前なので、くのたまがそういう認識を持っているのかと少なからず寂しくなる。 苦笑が浮かんだ。

「私は忍術学園の教師だからな。生徒はみな可愛いよ」
「可愛い……」

呟いて俯く女生徒。さらさら髪が雪崩れていく。
きゅっと膝の上で拳を握り締める様子に、今度はこっちが目を瞬いてしまう

「ど、どうした?」
「先生、あの…私…」
「うん?」

もう一歩近付いて傍に立ちゆっくりと言葉を待てば、彼女は顔を上げ思い詰めた表情を露にした

「子供らしくするにはどうすれば良いでしょうか?」
「ん…?」

子供らしく、
…大人になりたい、とかじゃなく。

「えっと…?久高は子供に見られたいのか?」

最上級生とはいえ生徒なんだし、教師の自分からしてみれば子供の範囲内だと思うのだが…

「私、あまり子供らしくない、みたいで…その…可愛げが無いと言われてしまいまして…」

髪を耳にかけながら溜め息を吐く彼女。
確かにその仕草や雰囲気は上級生の中でも大人っぽい。うちの一年は組の良い子達にも恐いとか冷たい印象を持たれているのも耳に入っている。

「外見で少しは子供らしくなれるかと思案してたんですが、それだと根本的には何も変わりませんから」

成る程、だから何度も櫛を通してはその髪を見つめていたのか。

「私に子供らしさがあれば、両親もきっと喜ぶでしょうし。…後輩達との関係も多少円滑になるかもしれません」

いつも凛と前を見て歩く姿から、周りの評価など気にもとめない質なのかと思っていたが
どうやら私の勘違いだったようだ。

また俯き気味になる頭に手を置けば、柔らかな髪の感触がする
不思議そうに目だけでこちらを見上げる顔は綺麗に整っていて、確かに幼さはないが彼女の中身に触れれば可愛らしく感じる。

「そう装おうとしなくても久高は可愛らしいじゃないか。」
「…初めて言われましたよ。」

本当に驚いたように目を丸め言われたので、笑いが込み上げてくる。その表情だってあどけなく可愛らしい。

「ありがとうございます」

頭を下げる彼女から手を離す。

「言っとくがお世辞じゃないぞ」
「はい。…ふふ、私の事を子供扱いしてくれる人が一人でも居てくれて満足したみたいです」

実に晴れやかに微笑み胸に手を当てる久高。
ぽすり、
先より乱雑に手を頭に置いた。

「土井先生?如何なされました?」

戸惑う声も無視して彼女の髪を掻き混ぜ視線を上げられないようにする。
両手が中途半端に上がっているが、私の手を掴んだりして行動を止める事はしない。

「いや、うん、何だ…とりあえず今は顔を上げないでくれ。」
「は、はい?」

ひとつ深呼吸してやっと乱暴に撫でるのを止める。ほつれた黒髪を手櫛で戻していく。己の髪とは違い傷みのないそれは滑らかな指通りですぐに元通りになった。

「何か粗相を……?」
「いや、違う。むしろ逆だから気にするな」
「…逆?ですか…」

首を傾げながら私を見上げた目、長い睫毛、すっと通った鼻筋、ふっくらと柔らかそうな唇、白い頬に細い首筋
目を逸らしたくなるが寸でで止めて平静を意識する。

曖昧に笑えば、久高はぎこちなく頷いて追及はしなかった。空気を読んでくれて助かる

「あ、土井先生、これからも生徒として可愛がっていただけると嬉しいです」
「ああ…うん。…勿論。」

深々と頭を下げる久高に心から返答が出来なかったのは私がまだ教師として未熟という事なのだろうか



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