小説 | ナノ

「あらぁ?お咎め無しですか」

コテリと首を傾げれば、上座に座る学園長は「ふぉっふぉっふぉっ」と何か可愛い笑い声を上げた。

「くのいち教室で習った事を実践したまでじゃ。なぁにも悪い事はない!それに面白いもんが見れたしのぉ」
「光栄でございます」

ニヤニヤと木下先生を横目で見る学園長に、出来るだけ綺麗な笑顔で頭を垂れた。
木下先生の厳めしい顔が視界の端に見えるが、今は触れないでおこう

「さて、椛さん」
「はい」

少し滑舌が悪い老婆姿の山本シナ先生に名を呼ばれ背筋を正す。

「貴女の言動自体についてはこれで話が終わるのですが…」

一旦台詞が途切れたので、「と、言いますと」と続きを促す。
山本先生はニッコリと笑う。何だか楽しそうである。

「貴女の影響なのか、近頃忍たま達の様子が妙みたいで…」
「えぇ…私忍たま共に手ェ出した覚えないです」

何を言われるのかと構えていたのに、身に覚えのない事を言われ目を眇める。
忍たまの先生方がドタドタとずっこけている

「椛…なんか忍たまに対して扱い雑じゃないか…?」

山田先生が口許を引きつらせながら訊いてきたので、首をぐりんと巡らせて顔を向ける。先生方が少し肩をビクリと揺らしていた。

「それは!」
「そ、それは…?」
「私の好みが年上だからですっ!」
「「…っだぁ!!」」

ゴロゴロと先生方が畳に転がる。私は真面目に言ったのに。
学園長と山本先生は二人揃って「ふぉっふぉっふぉっ」って笑ってる。…可愛い。

「それで、忍たま達の様子とは…どのように?」
「それがですねぇ…」

キッと表情を引き締め問え問えば、山本先生がふがふがと喋り出す。…癒される。
いやいや、くのたま代表として話はしっかり聞かないと。これを友人達に持ち帰って話すんだから尚更。

「くのたまの子達を前にすると逃げ出す子がいるようです。特に下級生に多い。上級生は平静を装ってるようですが、くのたまの子達に近付かないようにしてるようで」
「…あぁ、」

多少は心当たりがあったので相槌に小さく頷く。
でも、これは以前からくのたまを怖がる忍たまの行動として時々あるのでそこまで気にしていなかった。
私のこの前の言動で弄ばれたトラウマが蘇ったのかなぁ?

「そして一番の問題が…上級生のくのたま達に反応するだけではなく、お手伝いさんも避けるようになってましてねぇ」
「お手伝いさんというと…天女様、ですか」
「えぇ。あんなに慕っていた彼女に対して急に態度を変えたものですから。…何か分かりますか?」

山本先生が私に意見を求めていらっしゃる。
学園長の隣に座る山本先生を真っ直ぐ見つめ返す。私にどのような答えを求めているのか、目で問い返した。

「貴女はくのたまの中でも人の感情の機微を読むのに長けている。その貴女に訊きます。忍たま達が何を思っているのか」
「畏まりました。その前にひとつ…」

山本先生の言葉に、目を閉じ頭を下げる。姿勢を直し瞼を上げれば先生方の視線が集まっていた。
正面の学園長に視線で促されたので、遠慮なく口を開く。

「これ、笑っても良いんですか?」

良いなら大笑いもんなんだけど。

「…は?」

一番若い土井先生がポカンと聞き返してきた。

「だって、下級生のみならず上級生の忍たまも、って…プフーッ!」
「もう笑ってるじゃないか!」

怒られた。

「椛さん、では貴女は把握できたという事ですか?」

山本先生が朗らかに笑って問うてくる。
あぁ、もう駄目だ。我慢ムリ。

「あっはは、簡単ですよ!忍たま達は女を意識してしまうのでしょう。だから、天女様や私達くのたま上級生と接するのが恥ずかしいんですよ!これは傑作!あーっはははは!お腹痛い!捩れちゃうっ」

堪えきれず笑い出せば止まらなくなり、お腹を抱え笑った。ひーっ息が出来ない…!

「な、なるほど…」
「これで全て納得できますね…」
「まさか、こんな理由とは…」

私が笑う側で先生方が溜め息を吐いてガックリ肩を落としていた。

「それにしても、忍たま上級生になっても色に弱い者が出てくるなんて…悪戯のしようがありますねぇ」
「…ぐっ、それは…」

涙を拭いながら言えば、男性の教師陣が顔を引きつらせる

「大丈夫ですよ。私達くのたま上級生は暫く忍たま達に近寄らないでしょう」
「おや、鬱憤は晴れましたか」

山本先生は彼女達の機嫌が悪かった状況をお見通しだったようだ。
他の男の先生達が首を傾げるのを見ると、男の人は疎いなぁと苦笑が漏れる。

「はい。ご心配はいりません。」
「ふむ、宜しい。椛さん、貴女にくのたま達を任せましょう。この件では貴女が一番良く立ち回れそうですから」
「御意。」

再度頭を下げて命を受ける。

「貴女への話は以上です。何か問題があれば報告しなさい。」
「はい。」
「では、もう戻って宜しい。」

山本先生の退室の令に学園長も頷いたので、軽く頭を下げ立ち上がる。
障子を開けて出た後に、くるりと振り返ってニコリと笑みを浮かべる。障子をまだ閉めない私に先生方は怪訝そうに見上げてくる。

「これは事後報告になり申し訳ないのですが…、私達くのたま上級生は授業で習った色の術を忍たまの代わりに教職員もしくは学園の関係者の方々に実践することになりました。」

山本シナ先生は「あらあら」なんて言っているが、その他の先生は学園長を含めみんな目を大きく見開いて目玉が落っこちそうだ。

「今の忍たまに実践するわけにはいかないし、学園長先生は実践を悪い事だと仰らなかったし問題ないですよね!それでは失礼します!」

音もなく障子を閉める。
踵を翻し足を進めた時には庵から「はぁーっ!!?」と大絶叫が上がっていたが、学園長が己の言葉を早々になかった事にはしないだろうし。
先生方が「やっぱり忍たま達を実践相手にしてくれ」なんて、もっと有り得ない。

これで悪戯し放題!
早くあの子達に伝えなきゃね。



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