小説 | ナノ

何日か前、忍たま教室の近くに天女様が降ってきたらしい。正確には、ずーっと先の時代の女の子が何故か時を越え私達の時代にやってきちゃったのだとか。帰り方が分からないという彼女を学園長が不憫に思い雇った。と噂で聞いた。
そして、誰が言い出したのか忍たま達が「天女様」なんだと言い出した。
その頃からだろうか、私のクラスメイト達の機嫌が悪くなっていったのは

今日は学園長がありがたーい話をしたいだとか何とかで、朝から全生徒がグラウンドに集められて、学園長の若い頃の話とかを聞いていた。それなりに面白かった。
それが先程終わったのだが、殆どの生徒が未だこの場に留まっている。

「天女様!」
忍たま達にすっかり定着した呼ばれ名の彼女は、今や忍たま達に大人気。所謂アイドルってやつ?忍たま四年のアイツらとは違い自他共に認める…って感じの。

「なぁんか、気に入らないわね」

隣から聞こえた声に振り向けば、同室の彼女だけじゃなくくのいち教室の上級生達が揃って不服そうな顔をしていた。

「何がぁ?」
「何、って…この状況よ」
「そうそう。なんか面白くない」

柳眉を顰めたり、可愛らしく唇を尖らせたり、憂いを帯びた目を伏せたり
各々見目麗しい仕草ながらも口々に文句を言い出した。

「だって可笑しくなぁい?確かに天女様は可愛らしいけど…」
「働き者だし」
「愛想も良いけど…」

そう言葉を重ねる友人達は割りと天女様の事は認めている口振りだ。
だが、「だけど…ねぇ?」と顔を見合わせ、一斉に唇を開いた。

「「「私の方が可愛いのに」」」

くのいち教室では女を最大に魅せる術を習う。それは化粧だったり舞踊だったり所作だったり様々だ。
それらの術を身に付け専門にしたくのたまには当然に自信がある。特に最上級生である私の同級生達は矜持がある。
だから彼女達は可愛い自分達を差し置いて、忍たま達が天女様に首ったけなのが気に入らないんだろう

「えぇー?みんな、そんなに忍たま好きだったっけ?」
「いや別に。」
「ちやほやされないのが嫌なだけで」
「忍たまに執着はないけど」
「でも私達に靡かないのは腹立つ」

えー…。即否定された。コンマ1秒で。

「じゃあ別に良いんじゃなーい?忍たま達は見る目がなかったって事で」

確かに私も自分の可愛さには自信あるけど、天女様みたいに忍たま達に群がられたいとは思わないし。複数侍らすより、一対一の駆け引きのが燃える。

「ちょっと、椛…」
「なぁに?…みんなしてコッチ見て怖いんだけど」
「アンタ楽観視しすぎよ」
「そうよ!忍たま達を切り捨てたら、次から誰に悪戯しかけりゃ良いの!」
「忍たま以外に誰を色で弄べば…!」

すごく真剣な表情で、拳握りながら言われた。

「……えっと、じゃあ先生方とか?」
「……無理じゃない?」

私の提案にみんな半目で応じてくる。呆れた顔に今度は私の機嫌が下がる

「無理じゃないよー!私が証明するよ」
「証明?」
「ん。実践してくるから、見ててよー?」

そう告げ、私はくのたまの集団から離れ、教師陣が集まっている所に向かって歩く。
どうやら先生達は生徒達が中々戻らないのを放っておいて、自分達は職員会議をやってるらしい。ざっとメンバーを確認する
そういえば、新野先生は買い出しで今朝から不在って言ってたな…
頭の中で流れを決めた所で、わざと足音をたてて近付いた。

「あの…」
「ん?」
「どうした椛?」

私に気付いた先生方がこちらを振り返る。
そこで私はゆっくりとした動作で、一番近くにいた木下先生の袖を弱々しく引き苦し気に息を吐く

「あの…新野先生は…?」
「新野先生は今朝から出ている。」
「そ…う、なん…ですか…」

困ったように返され、こちらも目を左右させながら伏せる
また下手な呼吸を繰り返せば、木下先生の武骨な手が私の額に当てられた

「気分が悪いのか?」
「いえ…何だか苦しくて…少し痛いんですけど大丈夫、です…」
「痛い?どこが痛いんだ?」

先生達が会議を止めてこちらを見ている。木下先生が顔色を窺おうと俯き気味だった頭を上向かせようとする
それに口角を僅かに上げて遠慮がちに微笑み、ゆるゆると首を振る

「でも、先生方に迷惑が…かかってしまうので」
「こんな時はかけて良い。儂らを頼りなさい」

いつも厳しい木下先生が静かな声で告げたので、頭を支えている両の手をやんわり掴み下ろさせる
熱っぽい息を吐いて、虚ろだった瞳に力を灯し真っ直ぐ見上げた。

「先生…、胸が痛いんです…私おかしくなっちゃったんでしょうか…?」

手にぎゅっと力を込め、木下先生の手を握りこんだまま片方の手を自らの胸に当てる。必然的に木下先生の右手も私の胸に触れて、ビシリ、と見事に固まる。
後ろの先生方の目が驚きで見開かれる。
木下先生の顔が徐々に赤くなった時、後方からきゃあきゃあと歓声が上がる

「きゃー!流石よ椛!」
「先生の反応バッチリよー!ナイス椛!」

他にも後輩達の黄色い声が聞こえてきて、漸く我に返った木下先生が勢いよく両手を上げて私の手を振り払う。
私はくるりと振り返り、くのたまの集団に向けて薄く笑ってやる。ドヤ顔である。
そのままピースサインをすれば更に歓声が高まったが、後頭部に衝撃がきた。

「っこの、バカタレッ!!」

すぐ背後で木下先生が怒っている
叩かれた勢いのまま頭を俯かせ、後頭部を両手で押さえる。じわりと目に涙を溜めゆっくり振り向き先生を見上げた

「痛ぁい…先生酷い…殴る事ないのに…」
「教師をからかうからだ!」

まだ少し赤い顔で怒鳴る木下先生に、ぎゅっと眉間に皺を寄せ、震える手で口許を覆う

「先生…私のこと嫌いになったの…?」
「えっ…い、いや…そんな事は…」

焦って両手を振り否定するが、私はついに溜めていた涙を溢す。

「うっ…!いやっ、違うぞ椛、儂が悪かった…」

参ったように吃りながら謝ってきたので、その体に体当たりし背中に手を回し至近距離で見上げた。

「悪かったって思うなら、頭なでなでしてくださぁい。それで痛いの治りますからー」
「っ……!!」

ぎゅっと抱き着く力を強め、密着すれば木下先生は再度固まり、今度は首まで真っ赤になった。

「椛さん、いい加減にしなさいね」
「はぁい」

山本シナ先生に言われ、素直に離れる
言葉は厳しいが、表情は笑ってるので怒ってはなさそうだ。

「せんせっ、また遊んでね!」

首を傾けつつとびっきりの笑顔を浮かべれば、木下先生の大きな雷が落ちた。てへぺろ!



結果:先生は難易度上がるが悪戯のやりがいがある


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -