小説 | ナノ

「どうして…私は普通の女の子なのに…」

遂に彼女はポツリと溢す。
縁側に1人寂しそうに座って、その目は何も映さずまるで綺麗なガラス玉。その小さな背中には重すぎる天女という肩書き。

その光景を充分離れた場所から見詰める私はダンダン地面を殴った。
膝から崩れ落ちたような体制でそりゃあもう目一杯地面を叩く。

「な、何をしてるんだお前は…」

引きつった…むしろ引いた声が降ってきて、顔を上げれば廊下から見下ろす同学年の忍たまの姿。こちらを見る表情は何とも形容しがたく複雑な顔。

「立花か……どうした?いつもより顔色悪くね?」
「どうしたは此方の台詞だ。中庭で何をやっているんだ」

眉間に皺を寄せ、いかにも理解しがたいとこめかみを押さえる立花。なんだ顔色悪いの私のせいなのか。
だけどな、こっちだって好きでこんな奇行をしてるわけじゃなくてな!あの子を見てたらどうしようもなくてだな!っていうか元を正せば、あの子があんなに鬱ぎこんでるのは忍たまどもの「天女さま素敵!天女さまは特別!」とかって奉り上げる言動が起こりじゃんかよ。つまり忍たまのせいで私はこんなにやり場のないモヤモヤが溜まってるんだよ!
…とは言えない。

「…世知辛い世の中だよな」
「は?」

立花のなんだコイツ理解不能。的な視線を受けながらも静かに立ち上がり足に付いた土埃を払う。

どうするか。立花と接触したのをチャンスとして 、あの子が天女ポジションから無事外れるように何か言うべきか?
…いや、今がもう危ういバランスを取っているのに下手な事は言えない。何かをつついて、例の男装忍たまの所に傾倒しまっては一気に分が悪くなる。

「ああっ、もう面倒臭いっ!」
「っ!?い、いきなり何なんだ…!?」

頭を掻きむしれば立花がビクッと肩を揺らす。
ちくしょう、こんな細くて青白い奴を始め逆ハー補正なんぞに引っ掛かる忍たまどもの挙動を把握して1人でも少なく相手側の駒にならないように根回しするとかひたすら面倒!
駒取りだとか計略だとか元々苦手なんだよ!思わず重量感たっぷりの溜め息が漏れる

「殴ってどうにかする方が得意だし…」
「ちょ、どういう意味だそれ。というかお前情緒不安定か?」

保健室まで付き添ってやろうか?とかいう必死な問い掛けをBGMにまた考えを巡らす。
そうだ、頭を使うんだ私。あの子の前で力業なんて振るえない。むしろあの子の前に二度と姿を現せるわけないじゃないか。あああ何でくのたまの善からぬイメージ植え付けちゃうかな忍たまのお馬鹿たちは!また泣かれちゃ困るし気まずいわ!
だから私は裏でこっそり静かに手を打たなきゃいけないんだ。しんどい!

「おい!」

急に大きな声が聞こえ私は思考の淵から戻ってくる。目の前には青白い顔。

「立花顔色悪くね?」
「それは先程も聞いた。」

だって視界いっぱいにその顔見ると心配になるわー。

「全く…何度声をかけても心ここに在らずという感じだし…一体何を悩んでるんだ」
「ん?まあ…」

立花が話しかけてんのは分かってたんだけど、私も切羽詰まってるから返事なんて考える暇無かったわ。って言ったらキレるよな…

「どんな悩みかは知らんが、誰かに相談ぐらいしたらどうだ?妙な行動起こすより有意義だと思うぞ」
「妙な行動、って…」

失礼な奴だな。まあ、確かにそうだよね!否定はできんよね!

「立花意外とお節介だねえー…」
「そこは素直に優しいと言わんか。」
「そんな君に早速相談しても良い?」
「無視か。…まあいい、なんだ?」

切れ長の目を伏して1つ溜め息を吐かれたが、続きを促されたので遠慮なく訊いてみるとしよう。
今の私に必要で、だけど足らないもの。



「立花みたいに腹黒になるにはどうすりゃ良いの?」
「お前喧嘩売ってるのか?」
「いや、超真剣なんですけど。」
「終いには私泣くぞ」

真顔で泣くぞと言われた。
こっちだってあの子を救う為に必死なんですー!


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