「あー…、ちょっと、弁慶?」
ゆっくり、ゆっくり、相手を刺激しないように腕を解かせ、胸を押してそっと離れる。
「はい、」
律儀に返事した彼は、離れることは許しても、逃げることは許してくれないようだ。
滑らかな動作で手を掴まれ、指先を絡めてきた。
いや、うん、さっきよりマシだから良しとしよう。
「信じる信じないとかじゃなくね、諦める…とかないの?」
「嫌です。」
途端に泣きそうに表情を崩し、ぎゅう、と手を握られる。ちょっと痛い。
「だってね、私は弁慶のこと恋愛として見てなくてね?しかも、そんな関係以前に、あんまり話したことさえ無かったよね私達。」
「僕は、いつも口説いてるつもりだったんですけど…」
女の人には誰だって優しいし、クサい台詞吐いてるじゃんか!弁慶さんよお
とは言えない。
望美ちゃんのついでに言われてるのかと思ってたんですけど……
「言いましたよね、僕は諦めないって。これからも好きだって言い続けます。それでも駄目だって言うんでしたら…」
手を引かれ、私の指先に己の唇を押し当てる弁慶。
温かく柔らかい感触がそこにあった。