小説 | ナノ


「すき、です。僕は君を愛おしく想う」

さらり、と髪を撫でられる。
優しい色を灯した茶色の瞳が細められ、私を射抜く視線。

駄目だ駄目だ駄目だ。
こんなの間違っている。この運命は狂っている。おかしいおかしいおかしい。

その指先から逃れるように、一歩二歩と後退る。

「無理です…」

震える唇を叱咤して、拒否の言葉を紡ぐ。
短い台詞。情けない、もっと上手い言葉は見つからなかったのか。

途端に歪む顔。綺麗な眉が悲愴な形に崩れた。

私がそんな表情をさせてしまったのか。
どうして、
その顔は望美を想ってするものだったでしょう?
私を思って悲しい顔なんかしないで。
それは望美を想ってしてよ。

信じたくなくて、逃げ出した。
走って走って、与えられた自室に駆け込む。

戸を閉じ、明るさを遮った部屋の中でずるずると座り込んだ。

どうしよう、
どうしよう、

八葉は龍神の神子のものなのに。
神子を好きになり、神子を一番に考え、神子を守らなきゃいけないのに。

じゃなきゃ、
不幸になってしまう。

八葉を救い、幸せにするのは神子の役目だ。

何も力を持たない私にはとても出来ない。
ましてや、八葉を好きになるなんて私には…

「無理、だ…。」

はやくはやくはやく
望美ちゃんを好きになって。
望美ちゃんが救って。
平和に、幸せに…

祈るように両手を合わせ握った。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -