「すき、です。僕は君を愛おしく想う」
さらり、と髪を撫でられる。
優しい色を灯した茶色の瞳が細められ、私を射抜く視線。
駄目だ駄目だ駄目だ。
こんなの間違っている。この運命は狂っている。おかしいおかしいおかしい。
その指先から逃れるように、一歩二歩と後退る。
「無理です…」
震える唇を叱咤して、拒否の言葉を紡ぐ。
短い台詞。情けない、もっと上手い言葉は見つからなかったのか。
途端に歪む顔。綺麗な眉が悲愴な形に崩れた。
私がそんな表情をさせてしまったのか。
どうして、
その顔は望美を想ってするものだったでしょう?
私を思って悲しい顔なんかしないで。
それは望美を想ってしてよ。
信じたくなくて、逃げ出した。
走って走って、与えられた自室に駆け込む。
戸を閉じ、明るさを遮った部屋の中でずるずると座り込んだ。
どうしよう、
どうしよう、
八葉は龍神の神子のものなのに。
神子を好きになり、神子を一番に考え、神子を守らなきゃいけないのに。
じゃなきゃ、
不幸になってしまう。
八葉を救い、幸せにするのは神子の役目だ。
何も力を持たない私にはとても出来ない。
ましてや、八葉を好きになるなんて私には…
「無理、だ…。」
はやくはやくはやく
望美ちゃんを好きになって。
望美ちゃんが救って。
平和に、幸せに…
祈るように両手を合わせ握った。