小説 | ナノ

なんでどうして上手くいかないの。このまま私は忍術学園で忍たまからもくのたまからも好かれて愛されポジションになる筈だったのに。
前までは自分から話し掛け過ぎると嫉妬したくのたまや、友達を取られた忍たまから反感を買うと思って、明るく振る舞いはすれど自分の仕事を中心に忍たま達の邪魔になるような事は避けた。あくまでも話し掛けられるのを待ってた。
漸く、漸く忍たま達から沢山話し掛けられるようになるまで我慢したのに。
なんで今度は私を避けるようになったの?
これもあのくのたまの影響なの?あの女が何かしたの?
私は明るくて親しみやすくて真面目に仕事もしたし、それでいて恋愛ごとには疎いし少し抜けた所もあって完璧だったでしょう?夢小説の王道主人公だったでしょう?
違うの?何か間違えてた??

「教えてあげようか?」

誰……?

「私は貴女。最初からこの物語を知ってる存在よ」

何を言ってるの…?
もしかして、夢小説で王道の神ってやつ?私をトリップさせたのはあなた?

「そうだね。確かにこの世界に貴女を連れて来たのは私。」

やっぱり!
ねぇ、神様なら教えてよ!誰が悪いの?あのくのたまのせいなの?あのくのたまが何か力を使ったんじゃないの?もしかして傍観者じゃないの?

「傍観者、という物は分からないけど。あのくのたまは特別な力は無いよ。特別な力を持っているのは……貴女だよ」

どういう、こと…?
私が……?

「貴女は気付いていなかったようだけど、貴女には補正が付いている。」

それって…まさか天女補正!?
駄目!そんなの誰かから疑われて直ぐにバットエンドになるわ!

「補正…といっても、意識しなければ強力なものじゃなく、人から好印象を得られる程度。それでも、貴女に対して最初から敵意を持つ人間はいない。」

そうなの…?
まあ、不自然なものじゃなければ大丈夫だと思うけど…

「大事なのは使い方。意識して使えば、対象の人間を絶対的な味方にできる。それを使う相手を選ぶ事ね。」

…………、
多数に無作為に補正をかけるのは不味いってのは私でも分かるわ。
でも、それなら誰に使えば…?
一体、誰を味方にすれば良いの…?

「それを決めるのは貴女。ただ、ここぞと言う時に使うのをお薦めするわ」





*****

「ゆめ…………?」

気が付けば、障子越しに日の光が瞼を刺激する朝だった。
布団から身を起こすと、体が軽く、頭もすっきりと冴えている感じがする。

まだ耳奥で神様の声が残ってる気がした。
そう、あれはただの夢なんかじゃない。
まるでこれからの未来が何でも上手くいきそうな予感がする。

高鳴る胸を上から抑え、ひとつ深呼吸をした。

「うん、決めた…!」

私には特別な力があるんだ。
やっぱり私は特別な人間、主人公なんだから、愛される人間になるべきなんだ。




私の朝は洗濯に、掃除に、薪割りの仕事もある。
薪割りの仕事なんて女の力じゃ無理だと思ってたけど、コツを掴めば不格好ながらも何とかなる。

今日も地道に斧を振るっていたら、力加減を間違えたのか割れた薪が少し離れた場所に跳ねて転がってしまった。
ああ、取りに行くのが面倒臭い…溜息を吐いて斧を置いた時、白い手が伸びて薪を拾い上げた。

「天女様、お疲れ様です。」

あの、くのたまだった。

やっぱり、私は主人公なのね。このタイミングで相手から来てくれるなんて……物語が最初から私の為に動いていたんだよね?

例のくのたまはニコリと微笑んで薪を差し出す。
私は斧を置いて空いていた両手でそれを受け取り、少し申し訳なさそうに笑って「ありがとう」と返した。

くのたまは眉を下げて「天女様大丈夫ですか?疲れていませんか?」と訊いてきた。
正直、あんな行動を起こしたくのたまだから挑戦的な態度とか攻撃的なものを予測していたから拍子抜けだ。
けど、神様の”最初から敵意を持つ人間はいない”という言葉を思い出す。

成程、この友好的な様子は補正が利いているからなのね。
それなら、今朝決めた作戦を実行しやすくなる。
ねえ、貴女もきっと嬉しい筈よ

王道の夢小説でよくあるじゃない。
美形のオリキャラが絶対的味方になるって。

ぱっちりの目に瞳は深く吸い込まれそうな輝きで、髪もさらさら絹みたい。肌も白くて顔も小さくて、身体も細いけど出るとこ出てて。
こんな女の子が私の味方で私を一番に考えてくれる。そしてくのたまのリーダー的存在だから、きっとすぐに他のくのたま達も私を中心にしてお姫様みたいに扱ってくれる。
完璧じゃない?

「大丈夫だよ。貴女優しいのね」

微笑みを返すと共に、補正の力を意識する。徐々に、徐々に力を強めていくイメージをする

これで、貴女は私の事を好きになってくれるよね?

「こんなの、忍たま共に任せれば良いのに…天女様の綺麗な手が傷付いてしまいますよ?」

くのたまは数歩ゆっくりと近付いて私の手を取った。そして己の両手で包み込み壊れ物を扱う様にそっと撫でる。

「私は優しくなんかありませんよ。だって…天女様とずっと話したくて機会を窺っていただけなんですから」
「え…私、なんかと?」

顔を上げて私を見詰める瞳は優しげに細められ、愛おしげな優しい色しかなかった。

「天女様はとても綺麗な方ですもの。あの、私…椛って言います。」

名前を名乗ったくのたまは白い肌を僅かに桃色に染めて包んでいた手をきゅっと痛くないように配慮しながら握る。

「天女様、また話し掛けて良いですか…?邪魔じゃなければ」
「勿論よ、椛。女の子の友達が欲しかったの。仲良くしてくれる?」

私も取られていた片手に反対の手も添えて両手で握れば、くのたまは「友達…」と呟きながら、それはもう嬉しそうに花がほころぶような照れ笑いを浮かべた。


勝った。そう確信した。


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