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「どうしたんですか木下先生。最近は青い顔で何やら思い詰めていた様子でしたが、今日はまた随分と…真っ赤ですね」

学園一高いあの場から降り、職員長屋に真っ直ぐ向かった木下だが、自室に戻りきる前にたまたま擦れ違った野村に顔を指された。

「いや、まぁ…その、」

モゴモゴと言葉を濁し顔を僅かに逸らす木下の態度に、野村は片眉を上げたがそこまで気に止めていた訳ではないのだろう。
「風邪ですか?早めに新野先生に診てもらった方が良いですよ」
とだけ言い、やはり口籠ったように「あ、ああ…そうしよう」と頷いた木下を不審に思うことなく立ち去っていった。

自室に入った木下は己の顔に手をあてる。
赤い、と言われたそこは確かに熱を持っている

無骨な掌で目許を覆い、深く溜め息を吐いた。


そして、おもむろに手を離し、その掌を見下ろす。

自身の節くれだった手に比べて、先程まで掴んでいた手は細く、白く、滑らかだった事を思い出す。

「〜〜っ」

─ガツンっ

思わず額を壁にぶつけたのは自分を怒鳴り付ける代わりだったが、しかし、何に対しての怒りなのかは曖昧だ。だが、とてつもなく情けない気分に駆られる

壁に頭を預けたまま、口許を掌で覆う。


「…口吸い…されるかと…、」

小さく小さく零れ落ちた声は、それでもしっかり自分の耳には届いて、また顔の熱が上がった。


「あー……学園長のとこに行くべきだろうなぁ…」

掠れた音は怠惰に似た色を含み、低く部屋の中に響く。
うっすらと熱を帯びて。


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テーマ「人外ファンタジー」
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