小説 | ナノ

近頃の学園ではそこかしこで教師の悲鳴が上がっている。

「みんな…はしゃいでるなぁ…」

それを仕組んだ私といえば………屋根の上で団子を食べて学園内を眺めていた。
むむ、この4色団子うま!あの新しい甘味屋さん当たりだな。

「っ、椛……」
「あ、先生こんにちはー」

下から私の名前を呟く声が聞こえたので覗き込んでみれば、木下先生が顔を引きつらせ廊下で立ち止まっていた。
団子を手に持って挨拶すれば先生は身構えた。

「…」
「…?」

数拍の沈黙が流れる。

「…椛」
「はい」

再度名前を呼ばれたので、さっきは団子を食べながらだったし軽い調子で挨拶したのが駄目だったのだろうかとキリッと真顔を作って返事する。片手に食べかけの串団子を持ってるのは許して欲しい。

が、私はそうやって真面目に装ったのに木下先生は目を左へ右へと落ち着かない。

「どうしたんですか?」
「いや、その…何もしないのかと思って…」

どうやら警戒されていたらしい。
まあ、他の先生方がくのいち教室上級生の悪戯の餌食にされてるのを側で見ていれば身構えるのも仕方ない。
木下先生は私の分としてくのたまの子達は標的から外してくれてるようだから、周りが色んな目に合ってる中で自分だけ無事なのは余計に身を固くするだろう

少し考えた素振りをしながら団子を咥える。
先生は屋根の上にいる私を未だ強張った表情で見上げていた

「んー…じゃあ、何かやった方が良いですか?」
「せんでいい!」

即座に否定ですよ。

「えー?なんだぁ…先生から言ってきたから悪戯して欲しいのかと思ったのにぃ」

ひくひくと厳めしい顔を引きつらせて木下先生は「んな訳あるか」とか呟いていた。

「まったく、木下先生は思わせ振りですねぇ。そんなに私に構われたいんですか?」
「はぁ!?」

団子を食べながら頬に手をあてしなを作り、やれやれと首を緩く振る。
と、下から怒気を含んだ声が上がった。
チラリと見てみれば、木下先生は普段から怒った顔のくせに更に般若みたいな表情になっておられた。
いやん。超怒ってる

「教師をからかうのも限度があるぞ!椛っ降りてこい!儂が説教してやる!」

拳を振りかざしながら怒鳴られ、一生徒である私が敬愛する先生に逆らう筈もなく、食べ終わって串だけになったのを咥えたまま廊下へと飛び降りる。

「はーい。お説教ですね」
「何じゃそのふざけた態度は!お前は今から部屋で正座して話を聞いて貰う」
「おっと…」

額にいつも以上に血管を浮き上がらせ串を取り上げたかと思えば、その逆の手で私の腕を掴んできた。
やだなぁ、二の腕掴むなんて乙女の気持ちが分かってないと思いません?
ちょっと先生に怒ってあげないと。

「せ、先生…?先生の部屋で二人っきりですか?私的にはちょっとまだ早いっていうか…心の準備が…、ね?」
「ぶっ!?」

頬を染めモジモジと告げる。目線は斜め下で最後の「ね?」の部分だけ恥じらいを漂わせつつ見上げて小さく首を傾ければ完璧だ。
対する木下先生は私よりも顔を真っ赤にして噴き出した。…先生ちょっと汚ないですよー

「な、なん…っ!?」
「先生…痛くしないでくださいね…?」

動揺する相手に追い討ちをかけるべく、小さく震え涙を湛えた目で見上げた。
今度は私以上にワナワナと体を震わせ始めた木下先生。
教師とは常に生徒の上をゆく存在だと体を張って証明してるんですね、把握。

さぁて、雷が落っこちる前に離脱しようかなー

「こンの、馬鹿娘がぁぁーっっ!!!」
「やーだ、先生ったら説教の話でしょ?何深読みしちゃってるんですか」

ビリビリと辺りに木霊する大声を浴びせられ、思わず笑ってしまう。だって怒るとこまで過剰なんだもん。
でも、この怒声と共に鉄拳制裁までされちゃうのは勘弁なので、怒りで緩んだ手から二の腕を救いだしてそのまま脇を通って先生の背後に回る。
振り返られる前に耳許で囁き残して、屋根に跳躍しくのいち教室の敷地へ走った。

「先生と遊ぶの楽しいですけど、私も暇じゃないんで失礼しまーす」

後方からまた怒号が鼓膜を揺らした。



「あ、串……」

まあ、木下先生が代わりに捨ててくれるよね!


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