ボイル_03


3.


わたしから迫ったキスの比じゃなかった。あの事件の日にしたキスとも、比べ物にならない。
景吾の本気のキスは、激しくて、甘くって、それなのにどこか、優しくて。

「ん……あ」
「伊織、俺につかまれ」
「あ、うん……」

首に手をまきつけると、すっとわたしの膝の下に手が入れられ、そのまま一気に抱えられた。
恥ずかしくて顔をそむけたかったのに、止まることのないキスが、それを許してはくれなかった。
ベッドまでの移動のあいだも、寝かせられてからも、景吾はずっとわたしの唇を求めた。心臓が、はちきれそうになる。

「けい、景吾……」
「お前には……ほとほと呆れる」

わたしの頭を抱え込むように見下ろして、唇を触れ合わせたまま、ささやくようにそう言って、すぐにまた、吸い付いてくる。
ちゅく、と唇から漏れる音と甘い息に、気がおかしくなりそう。

「ん、は……」
「俺のほうが……よっぽど我慢してたに、決まってんだろ」

訪れた解放とともに、景吾がじっとわたしを見つめていた。頬にあたる景吾の鼻先が熱をもっているのがわかる。そしてまた、キスを落とした。
足のつけ根にぎゅっと力が入っていく。もうすでに、自分が潤っているのがわかって、困惑する。キスしただけなのに、気持ちよすぎる。

「伊織……」
「ん……うん?」
「決めてたんだよ、俺は。今日、お前を抱くってな」

首筋に、景吾の舌が滑っていく。そのまま服の上から、あたたかい手が胸を包んだ。
やさしく握りしめるように、円を描いて、ゆっくりと胸のボタンが外れていく。
全身に伝わっていく熱が、湿り気を帯びていた。こんなに体温があがってしまって、大丈夫だろうか。

「変な誤解もされたくねえから、時間が経つのを待ってた」
「だから……なにもしてこなかった?」
「お前とあれ以上のキスして、止まれると思うか?」
「え……」
「だから今日だって、このザマだろうが」

ふ、と笑った景吾につられて、笑みを返した。これから起こることに緊張と恐怖がないまぜになっていても、景吾となら、どうなってもいいとすら思える。
顔中に注がれるキスが優しい。景吾の本当の想いがわかって、涙が出てきそうになる。
やがて、するすると服が脱がされていった。ブラジャーとパンティだけになったわたしにそっとシーツをかけて、景吾も下着だけになる。
めくられたシーツのなかで、触れ合う肌のなめらかさに、気持ちいい、とお互いがつぶやいた。

「あったかい、景吾」
「ああ……だな」
「でもちょっと……緊張する。はじめてだから」
「ふっ……お互いさまだろ?」

ものすごく余裕に見える景吾だけど、そういえば、お互いさまのはずだった。大好きな人と、お互いがはじめてつながれる幸運に、震えてしまいそうになる。

「大丈夫だ、無理はさせねえから」
「うん……景吾」
「ん?」
「愛してる」
「……知ってる」

微笑んで、ゆっくりと、ねっとりと、舌を絡ませてきた。
自然と、ブラジャーに手がかかる。胸元に優しくキスをして、また唇にキスをして、やがて背中に回された指先から、パチ、と控えめな音が聞こえて、胸にかかっていた圧が一気にほどけた。

「綺麗だ」
「ん……」
「お前ほど俺を魅了させる女なんて、どこを探したっていない」
「嘘……んっ」胸に、唇が触れた。
「俺がお前に嘘を言ったことがあるかよ?」

景吾の唇が、硬くなった乳首に吸い付いてきた。舌先で優しく撫でるように転がされて、強く手を握りしめられる。じわじわとあがってくる快感に、わたしも強く手を握りかえした。

「は、あ……景吾っ」
「もっと聞かせろ、その声」
「んっ、あ」

今度は反対の胸に、愛撫が落ちていく。さっきまで愛撫されて硬くなった部分を、景吾の長くて綺麗な指先が弦を弾くように左右に揺らして、まだ胸を愛されているだけだっていうのに、もうどうにかなってしまいそうだった。
景吾はときどきわたしを見つめては、ピクッと反応をしたときの愛撫を、何度もくり返す。一瞬だって冷めることを、許してはくれない。

「景吾……はあ、あっ」
「キス、気持ちいいな?」
「う、ン……」
「伊織、舌、出してみろ」
「へ」
「えーって、ほら」
「あ……え、ンッ!」

景吾の言われたとおりに舌を出すと、しゅるっと音を立てて、舌を思い切り吸われた。
じゅ、ぷ、というキスの音が部屋中に響いていて、めまいがしそうな快感が襲ってくる。

「はあ、あ……」
「伊織……力、抜けよ?」
「んっ、あ、ああっ」

景吾の舌がうごめているあいだに、太ももに手が伸びていて、ゆっくりと下着のなかに、景吾の指先が入ってきた。
とろっとした感覚が上下に動いていく。濡れているのはわかっていたけど、想像以上にその指が滑っていった。恥ずかしくてきつく目を閉じてしまう。
ただでさえ、景吾に触られてると思うだけで、さっきから落ち着かない鼓動がどんどん強まっているのに。

「あ、ああ……景吾、う」
「ずいぶんと濡れてるな、伊織」
「恥ずかしい、よう……う、んっ、あんっ」
「俺が欲しいって言ったのは、お前だろ?」
「そう、だけど……恥ずかしい、あっ……う」
「そんな余裕、ないくらいにしてやるよ」
「ダメ、も……あ、あ」
「まとわりついてるぜ、俺の指に」

その指をそのままに、もう片方の手でするする下着を脱がされる。そうして股を開かせるように、景吾は体を挟んできた。わたしのそこを覗き込むように、景吾が顔を近づける。
たしかめるようじっくりと、ナカに指先が侵入して、わたしの腰がビク、と震えた。

「ひゃ、ああ……景吾、や、あ、見ないで」
「それは、無理な相談だな」
「恥ずかしいってばっ……ああ、もう、ああっ」
「こんなに、綺麗なのにか?」

舌先が、わたしの花弁を弾いてきた。まるでキスをするように、唇と一緒にうごめいていく。

「あ、や、やあっ、景吾っ、ダメッ」
「言ったろ、俺がほしいって」
「言ったけど……あっ、ああっ!」
「俺もお前がほしいって言ったの、忘れたのか?」
「あ、ああっ、や、あ、おかしくなるっ」
「なれよ、その姿を俺に見せてくれ」

その行為があることくらい、わたしだって知っていた。それでも羞恥で身もだえてしまいそうだ。でも、そんなことはおかまいなしとばかりに、景吾の舌が、上にも下にもまんべんなく揺れて、卑猥な音を立てていった。
容赦なく揺れる自分の腰が快楽を増長させる。同時に、わたしのナカに入ってきた景吾の指先も、さっきよりも奥へきて、柔らかい部分を何度も撫でる。
わたしの腰が大きく揺らぐのを見て、景吾の花弁へのキスが、深く、激しくなっていった。

「あ、景吾……もう、いっ」
「イクか……? いいぜ、何度イッても」と、わずかに頭を揺らして、舌をわたしのそこに這わせた。
「あ、ああ……イッちゃ……! あ……ああっ……」

イクと宣言してから1秒もしないうちに、あっけなく果ててしまった。
自分で慰めたことしかない絶頂とは、なにもかもが違っていた。気持ちよすぎて、どろどろになっている。

「いい顔してるぜ……伊織」

景吾は果てた体を楽しむように、最後に優しくそこにキスをして、体を起こした。
まだナカに入れたままの指を静かに揺らしながら、わたしに覆いかぶさるように熱いキスを送る。

「ン、あ……景吾ぉ。も、指、ダメ……」
「ったく、わがまま言いやがって」

ゆっくりと、ナカに入ったままの景吾の指が離れていった。
その中指を、景吾はなんのためらいも見せずに舐め取りながら、わたしを見下ろした。

「よかったんだろ?」
「……ん」

こくっと頷くと、ふ、とまた景吾が笑った。覆いかぶさっているときに当たる景吾の熱が、さっきよりも強く、硬くなっていることに気づく。
何度だって絡まる舌に、ぎゅうっと握られる手に、いままで以上の愛しさがこみあげてくる。愛したい、わたしだって、景吾を。

「……ねえ、景吾」
「ん?」
「わたしも、その、していい……?」
「……なにをだ?」
「その、だから……景吾の、それ、あの……それ」

目はそらして、指先だけで下のほうを指すと、さっきまでいじわるにわたしを見下ろしていた景吾の目が、一瞬で丸くなった。

「……そ、聞くな、いちいち、そういうことをっ」

慌てるように視線を逸らす。いきなり今日、してくるとは思ってなかっただろう。
だけど、断ってはこない。してほしいんだと思ったら、あの景吾が、急にかわいく見えてきて。
わたしは首に手を回して、自分からキスをした。そのまま体勢を変えるように起き上がってから、景吾に覆いかぶさるようにじゃれた。

「ン……本気で、言ってんのか?」困惑している。
「景吾ってば、かわいいの」
「余計なこと言ってんじゃ……ン」

わたしのどこに、こんなSっ気があったんだろうと、自分でも少々驚いた。
唇に、景吾がしてくれたようなキスをして。
首筋に、景吾がしてくれたようなキスして。
逞しい胸元に、筋肉質な脇腹に、景吾がしてくれたように、わたしもキスを落としていく。

「あ……伊織」
「大好き、景吾……」

やがて太ももに触れながら、景吾の熱い部分に触れた。

「ああ……俺も……ン」
「痛かったら、言ってね?」
「……わかった」

下着の上からキスをすると、景吾の腰がビク、と揺れる。ああ、わたしだけじゃなくて、景吾だってこんなふうに感じるんだと思うと、その頃にはもう、完全に調子にのっていた。
大好きな景吾の香りにまじって、ただよってくる、汗の匂い。それは芳しくて淫靡な香りだった。ふくらんだ部分に強く唇を押し付けると、景吾の吐息がゆっくりと漏れていった。

「は、あ……」
「脱がし、ちゃうね?」
「ん……」

わたしがそこに手をかけると、上半身を起こして、景吾は自分から下着を脱ごうとした。
手伝うようにして脱がせて顔を向けたら、たくましく屹立したものがそこにあった。
そっと触れて、わたしはそれに舌を這わせた。景吾の汗の味が、口のなかに広がっていく。

「あ……伊織」
「好きだよ、景吾」
「ん、ああ……」

つけ根から、中心部、くっきりと形を変えている先端まで、まんべんなくキスをしてから、つつみ込むように咥えると、景吾がわたしの頭にそっと手を添えてから、誘導するように、わたしの頬を撫でていく。

「は、あ、伊織……」

じゅぷ、じゅぷ、と上下させて、ときどき景吾の目を見つめた。
ひどく困惑した表情で、景吾は眉間にシワを寄せて、ときおり天井に顔を向ける。
先端から出てくる景吾の愛液が、わたしの唇の滑りをよくしていった。

「気持ちいい? 景吾……」
「ん……ああ、たまんねえ」
「よかった……ン、ん」
「はぁ……ダメだ、もう……伊織、挿れたい」
「ン、んっ?」

愛撫の途中で、景吾がわたしの両頬をつつんで、ペニスから唇をはがした。
ちゅぷ、と音をたてて行き場をなくしたわたしの唇は、景吾の舌に絡め取られた。
体を抱きかかえるようにして、景吾が覆いかぶさってくる。
どこに用意していたのか、避妊具をさっとつけると、脚のあいだに腰をすべりこませてきた。
ああ、いよいよひとつになるんだと思うと、少し落ち着いてきていたはずの胸が、また高鳴りだす。

「痛かったら、言えよ。すぐやめる」
「うん、大丈夫」
「無理は絶対にするな、いいな?」
「うん、ありがとう景吾」

景吾は優しいキスをしながら、わたしの愛液を、そこにまとわりつかせた。
先端を少しだけ進むと、案の定、鈍い痛みがその先を拒んだ。

「い、つ……」
「大丈夫か?」
「うん、ゆっくりなら」
「ああ、急がない……」

体をまっすぐにして、景吾はつながっているところをたしかめるように、わたしの上にある花弁を指先で優しく揺らす。

「ああっ……ん、景吾」
「こうしたほうが、痛みもやわらぐだろ?」

気持ちよくてあふれ出ていく愛液が、景吾の侵入をスムーズにしていた。
景吾ってホントに……こんなところまで、知識豊富で、ジェントルだ。

「あっん……」
「伊織……入っていってる。わかるか?」
「う、うんっ」

痛い半分、気持ちよさ半分、幸せ全開で、じっくり時間をかけて入ってきた景吾の吐息が、荒くなっていく。
ピタ、と股のつけ根同士が密着するころには、長い時間が過ぎていた。

「はぁ……動くぞ、伊織」
「うん、あっ……あんっ」
「は、ああ……っ」

重なる吐息、離れては絡まる舌と、汗ばむ肌。
たっぷりと時間をかけたのに、わたしたちの熱は冷めることなく続いて、お互いを激しく求めている。
それが嬉しくて、幸せで、愛しくて。泣いてしまいそうだった。

「はぁ、……からみついてくる、な、伊織」
「ん、言わないで、景吾……あ、あっ」
「気持ちいいって言ってんだよ、いいだろ?」
「う、だって……恥ずかし……あ、あっ、景吾、んっ」
「お前は? 痛くないか?」
「うん、も、大丈夫……わたしも……気持ちいっ、い」

ゆっくりと出し入れされ、奥に突かれるたびに、わたしのナカがきゅぅっと締まっていく。
擦れる感触が全身にひびくように、悦楽が広がっていく。
わたしを抱きしめる景吾の力が強くなって、密着する肌に、これ以上ない愛を感じた。

「伊織、俺は……」
「う……ん?……あっ、はあっ」

目を細めて、わたしを見つめて、景吾が陶酔の表情を浮かべた。
その凄惨な美しさに、見惚れてしまう。

「こうしてお前と、体を重ねて」はぁ、と言葉を切るたびに漏れる息が、愛しい。
「うん……あ、ン」
「もっとお前に溺れちまうのが、怖かった」
「えっ……」
「でももう、それも終わりだ」
「景吾……」
「もう、とっくに溺れちまった」

腰の動きが早くなった。奥に突かれる衝撃が強くなるのと同時に、さっきとはまた違う快感が体中を駆け巡っていく。

「あっ、あっ……! 景吾、あぁっ」
「はぁ、伊織……愛してるっ」
「景吾っ、ん、あっ! ああっ、い、ああっ!」

激しい動きに、足の先が伸びていく。意識がどんどん天に昇りそうで、声も大きくなっていった。

「ああっ、あっ! 景吾、あっ、ああっ!」
「今日くらい、俺のわがままを聞いてくれるよな?」
「えっ」
「キスして、伊織」

景吾の言葉とは思えない、甘えたような懇願に、愛しさが爆ぜた。
首に手をまわして、噛み付くようなキスを送ると、どろどろになった脳内から足のつま先まで、ビリビリとした刺激が流れていった。

「ん、あっ、ああっ、景吾、景吾っ、イッちゃう……!」
「ああ、もう俺も……イク……!」
「あっ、んっ! ああっ……!」

大きく声をあげた瞬間、果てるのと同時にあたたかな手に抱かれた。
わたしたちは息を切らしながら見つめ合って、何度も、何度も、深いキスをした。





「景吾、今日、泊まりたい……」

ベッドのすぐ傍にある時計をみると、そろそろ19時になろうとしていた。
名残惜しくて景吾に甘えた声を出すと、ピシャリとした返事が戻ってくる。

「バカ言え。インターンが帰ったとたんにそれじゃ、あの人の立場がねえだろ」
「ふうん……景吾は美人に優しいんだね」
「お前な、まだくだらねえ嫉妬してんじゃねえだろな」

景吾の腕枕。素肌のまま抱きしめ合っているのに、いつもの調子の会話に笑いそうになる。
あんなに激しく愛し合ったのに、素に戻ったらあっというまなわたしたちは、らしいと言えば、らしいかな。

「ちょっといじわる言ってみただけー」
「ったく……ほどほどにしとけ」
「いいじゃん。だって景吾、わたしを甘やかしてくれるんでしょ?」
「だからと言って、あんな真似は二度と許さねえからな」
「も、だから誤解だってばー」
「誤解だろうが勘違いされるような質問してんじゃねえよ」

景吾だってヤキモチやいてるじゃん、と言いたいところをぐっと我慢した。
甘ったるいこの時間を、壊したくはなかった。
なにかのきっかけで急にヒートアップするわたしたちだから、なにがきっかけになるかわからない。景吾はどこか天然だし、わたしは結構、短気だし。

「でも今日、幸せだったな……」
「ん……俺もだ」
「ホント?」
「ああ、最高の誕生日だった」
「ふふ。わたしは、景吾でよかったって、思ったよ?」
「アーン? なんのことだ?」
「わたしのはじめても、おわりも。一生、ずっと景吾だけだもんね」
「……ああ、当然だ」

ねだるような視線を感じてそっと唇を近づけると、少し微笑んだ景吾のキスが優しく何度も落ちてくる。このぬくもりに包まれて、このまま眠れたら、もっともっと幸せなのに。
だけど、帰らなきゃいけない。そういえば母にだって、そんなに遅くならないといったばかりだ。母は、遅くなったっていいとか、言ってはいたけど。

「伊織」
「うん?」
「……21時くらいまでなら、いてもいいんじゃねえか」
「へ? でもあの人の立場がどうこうって」
「2時間くらい、どうってことねえだろ」
「景吾、あの……なんで急に、覆いかぶさってきて……」

いつのまにか熱っぽい吐息が首筋にかかって、そのまま、あの息も止まるようなキスが送り込まれた。やっと唇が離れた隙に、彼は有無を言わさず、ひと言。

「俺の誕生日だからだ」

愛で満たされた体が、もっと深く、堕ちていった。





fin.
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