愛し愛され、喜怒哀楽


「愛を、受け取りに来ました!」

「ふふっ、いらっしゃい、伊織」




愛し愛され、喜怒哀楽




「やっと会えた・・・」


周助のマンションに上がった私に後ろから突然抱きしめて、そう呟く。

どうしてこんなに愛しいんだろう、どうしてこんなに愛されているんだろう。

たまに不思議になるくらい、周助とは相思相愛。


私の肩を後ろから包んでいるその腕に、そっと手を置いて・・・私は胸が熱くなる想いを隠し切れずに、静かに言った。


「私も、会いたくてたまらなかった」


ついこないだまでは課題で追われて会えなくて、それが終わったら今度は実習で・・・

毎日のように会っていた私たちに、この期間は辛すぎた。

今日だって、いつぶりだろう・・・周助に会うのは・・・。

――――――こんなに、愛してるのに・・・。


実習先で出来た友達にそうぼやいたら、笑われちゃったけど・・・でも、いつだって傍に居て、いつだって触れ合っていたい。

それが私と周助のペースだし、そうじゃないと壊れちゃう。


「ん・・・?なんかいい匂いがするー・・・」

「・・・気がついてくれた?」


そうして後ろから私の顔を覗き込むように、周助が首を傾げて聞いてきた。

もしかして・・・


「えっえっ・・・もしかしてお昼・・・!」

「スペシャルランチです、姫。ふふっ」


私の手を取って、深くお辞儀をした周助に、からかわないでよって言って笑った。

彼はそんな私にまた、あははって笑って、ベランダに案内する。


周助のマンションのベランダはとっても広くて、軽く食事が出来るスペースを、随分前に二人で作った。

私がこの部屋に泊まった翌日、天気のいい日はここで朝食を取る。


「わぁ・・・」


思わず歓声を上げた私に、周助は笑って私の腰に手を回した。

薄く透き通るようなブルーの雲ひとつない空の下で、アンティークなデザインのテーブルにキラキラと輝く料理の数々!


「こ、これ全部、周助が作ったの!?」

「ん・・・だって伊織、疲れてるでしょ?」


「だ、だけど外で食事すればいいのに・・・!」

「ダメだよ。外食じゃ僕の愛情が入ってないじゃない?」


そう微笑んで、ふっと耳元にキスを落とす。

そのキスのくすぐったさに、私は思わず肩をすくめた。


「あ・・・もしかして今の、僕は嫌がられたのかな?」

「違うよ〜、くすぐったかったの!」


「ふーん。じゃあお返しして?」

「え?」


「ん・・・早く」

「周助・・・」


目を閉じた周助が、私に合わせるように膝を屈めて待っている。

何度も何度も周助と唇を重ねても、伝わりきらない程の愛をこうしてまたせがむ周助がどことなく、いつもとは違う可愛さを漂わせていて。

私は思わず笑ってから、軽く口付けた。


「ふふっ。ありがとう。じゃあ、早速食べようか」

「うん!」


一度部屋に入ってから、食器を二人で持ってベランダに向かう。


「今日はこれもあるよ。昼間っからって感じだけどね」


笑いながら、彼は冷蔵庫からシャンパンを取り出してきた。


「わー!すごい!」

「だって伊織、お酒大好きだもんね?」


「あー!また人を酒豪みたいに言う!」

「間違いじゃないでしょ?」


もーーぅと言ってふてる私の頭をそっと撫でながら、カワイイ・・・と呟く彼の瞳を直視して、思わず呼吸が止まりそうになる。

たまに突然、こんなふうに男の顔になる周助が、本当に大好き。


周助はそんな私に、またふっと笑顔を見せてからイスをひいてくれた。

その優しさにまた癒されながら、私は甘えてゆっくり腰を落とした。


涼しい風が、さーっと時折流れ込んでくる。

その風邪に目を細めながら、周助が作ってくれた彼にしては甘口な(?)食事を口にした。


「すっ・・・・ごい!おいしい!」

「ふふ・・・良かった。ちょっとだけ母さんに手伝ってもらったけど」


「え、お母さん、いらしてたの!?」

「うん、さっきまで。伊織の為にランチを作ってあげたいって言ったら材料買って来てくれたんだ」


「エーーー!!お礼言わなきゃ!」

「あははっ・・・うん、じゃあ今度、実家に行こうよ、二人で」


「うん!でもこれ、周助がほとんど作ってくれたんでしょ?」

「もちろんだよ。僕の愛情たっぷり・・・じゃなきゃ癒してあげれないでしょ?」


「ううううう、周助ぇ・・・大好き・・・美味しい・・・」

「ありがとう。喜んでもらえて良かったよ」


食事が終わって、シャンパン飲んで・・・・隣には大好きな周助がいて。

実習で疲れ果てていた私には極楽すぎるこの週末。

そんな事を考えながら、傍にあるデッキチェアーに寝そべる。

信じられないくらいの幸せを味わって、のんびりと外を眺めながら気持ちいい晴天の下、私がぼーっとくつろいでいると、周助が突然に席を立って、奥から何やら持って来た。


「なあにそれ?」

「うん、デザートがあるんだけど・・・」

「えっ!本当に!?」

「うん、本当だよ。あ、でも待って伊織!」

「えっ・・・!」


大きなお皿の上にしてあるシルバーの蓋を私が品もなく取ろうとすると、周助にその手をぐっと捕まれて阻止されてしまった。


「慌てん坊さんだね、伊織は」

「あうー・・・食い意地が張っててごめんなさいー・・・」


「・・ねぇ、ゲーム、しない?」

「ゲーム?」


きょとんと聞き返した私に、そう、ゲーム。と言いながらニコニコした周助が、すっと自分のパンツからスカーフを取り出す。


「あー!それ私の!」

「ふふ、そうそう。これも、伊織の忘れ物」

「口紅も忘れるしスカーフも忘れるし・・・私ってばほんと・・・」

「慌てん坊・・・?」

「ひゃっ」


そう言った周助に、突然後ろからスカーフを目に当てられて、私はびっくりしてしまった。


「えっえっえっ・・・・?」

「僕が、伊織の口に美味しいデザート運んであげるから、伊織はそれがなんだったか当ててみて?」


そう耳元で囁かれて、思わず顔が真っ赤になってしまう。

だ、だってそれってなんか・・・なんか恥ずかしい・・・。


「ひゃああ!」


視界を無くした私は、また突然に周助に抱きかかえられてびっくりしてしまった。

彼は私をそのままゆっくりと立たせながら私を座らせるように誘導した。

目には見えないけどちゃんと分かる。

デッキチェアーを少しだけ起こした状態で、周助が座っている上に、後ろから抱きしめるようにして私を座らせているってこと。


「じゃまずこれはなーんだ・・・?」


金属系の食器がカツンと鳴るような音がした後、すぐに私の唇に何かが触れた。

条件反射的に口をあーんと開けると、そのまますっと私の口の中に少しだけ冷えた物が入ってきた。

もぐもぐと噛みながら、その甘酸っぱさに顔を綻ばせて、私はにんまりして言った。


「苺!」

「ふふっ。ご名答」


「次、次〜!」

「はいはい、ちょっと待ってね」


なんだか楽しくなってきた私は、はたから見てたら絶対にヤラしいこの状態をものともせず、彼の腕の中で最高の幸せを味わっていた。

そうして何品か、当てたりはずしたりしていると・・・


「次はすぐわかってくれなきゃお仕置きだよ?」


と周助が耳元で呟く。


「へ?」


なんだろうと思って私が待っていると、ヌルッとした感触で私の唇に何かが触れた。

ううん、何か、なんて。


「んっ・・・・」


周助の舌が私の唇を舐める。

その快感に思わず吐息が漏れてしまった。


「しゅっ・・・すけ・・・・」

「カワイイ・・・伊織・・・愛してるよ・・・」


そのまま顔を両手で包み込んで、深く私に口付ける。

容赦なく私の口の中に入りこんできた周助の舌が静かに暴れて、チュッチュッと音を立てた。

その熱い熱いキスに身を委ねて、目の見えない私が手探りで彼の首に手を絡めると、自然とお互いが体勢をずらして、私の正面に周助がくる。

そのまま背中をぎゅっと強く抱き寄せて、壊れそうになるほど舌を絡めあった。


「ん・・・周助・・・」


やがて唇を離した周助に、私が名残惜しそうな声を上げると周助は、くすくすと笑って、何かごそごそっとした後、もう一度私に唇を寄せた。


「・・・・!?」


優しいキスからまた次第に流れ込んできた彼の舌に

もう一度たっぷり酔おうと角度を変えた時、私の口の中に何か入ってきた。

そのまますっと周助は唇を離して、私の目隠しを取ってくれた。


「ふふっ・・・ちょっと舌に刺激があったかも」

「くぉれ・・・」


私がそれを軽く唇で挿んでから恐る恐る目を下に向けると、まだハッキリ見えてもいないのに私の目頭が熱くなる。


「ふゅぅふへぇ〜・・・うううううっ・・・うっく・・・」

「あははっ。もう泣いちゃった。慌てん坊の次は泣き虫さん?」


「ふぁって・・・ふぁって・・・ううううううっ・・・・・」

「・・はい、じゃあそれ貸して・・?」


私の唇に挟まっているものを取って、周助はニッコリした後、彼の来ているニットセーターできゅっと拭いてから、私の左手を取って、薬指にそっと嵌めてくれた。


「あと3週間もすれば、実習も終わりでしょ?それで伊織が就職して、落ち着いて・・・それからでいいから・・・」

「うっ・・・周助ぇ・・・」


目の前にある胸に私が頭を埋めると、周助は優しく撫でながら、伊織・・・と私の名前を呟いた。

それに反応して、私がふっと顔を上げると、私を見つめてニッコリして。


「僕を幸せにしてくれる?」


優しい笑顔で、でもどことなく真面目な顔で・・・彼は私に首を傾げてそう言った。


「ふ、普通逆でしょーーー!!うぇぇーーん」

「あははっ!だって、僕が伊織を幸せにするのは当然でしょ?」


そう言ってまたきゅっと私を抱きしめる。

微かに、彼の胸板からトクトクトク・・・と音が聞えてきて、私の胸も次第に高鳴っていった。


「嬉しい時も、悲しい時も、辛い時も、いつも僕の傍にいて欲しい・・・この先、ずっと・・・ずっと・・・愛してるよ伊織・・・だから・・・お願い・・・」


私はただ頷いた。

何度も、何度も、周助の胸の中で頷いた。


「う、嬉しい時も、悲しい時も、つ、辛い時も・・・ずっといる!!」

「ふふっ・・・うん・・・ありがとう・・・良かった」


そう言って私の顔を覗き込んだ周助の笑顔が、どことなく安心しているように見えて。

周助でも、緊張したのかな?って思った。


「結婚しよう・・・今度、その報告も兼ねて・・・僕の実家に行こうね?」


チュッと私の唇に触れて、見つめながらそう言った。


周助・・・私、あなたのこと、幸せにしてみせる・・・・

嬉しい時も、悲しい時も、辛い時も、そして・・・楽しい時もいつだって・・・

ずっと一緒にいたい。

きっとずっと一緒にいる。

大好き、大好き・・・愛してる・・・周助・・・・。




fin.
------------------
【不二色】柚子様:20000HIT記念夢




[book top]
[levelac]




×