idol_02



来る日も来る日も、君を見てた。
その瞳に、惹かれていた―――。


「ふーじ」

「英二」


「珍しいじゃん、誰待ってんの?」

「ちょっと、ね」


決勝前。
アップもそこそこに、僕はコートの外で人を探していた。
やっとの思いで、この試合に呼ぶことが出来た彼女を。
そんな僕を見つけた英二が、からかうような視線を送ってきたけれど。
そんなこと気にならないくらい、僕の気持ちは昂ぶっていた。


「もしかして――佐久間?」

「!」

「当たりだ。じゃなきゃ不二がそんな風になる訳ないもんな!」


ケラケラと笑う英二には、残念ながら何もかもお見通しのようだ。
佐久間は、僕の好きな人。
初めて彼女を見つけたのは、もう随分前のことだ。
テニスコートの外、たくさんの女の子達の中に佐久間は居た。
騒ぐ訳でもなく、ただじっとそこから僕らを見つめていて。
ふとした瞬間に重なった視線。
とても、強い瞳をしていた。
生まれて初めて、一目惚れというものを経験したんだ。


「……英二には感謝してるんだ」

「ん?何で?」

「僕と佐久間を繋いでくれたのは英二だから」


佐久間のことが気になり始めていた時。
英二が佐久間と話しているところを見かけた。
聞いてみれば二人は同じ委員会で。
英二をダシにしては、僕は佐久間に何度も話しかけた。


「でも、いつ誘ったんだよ?今日の試合」

「昨日ね、偶然本屋で会って」


「本屋?」

「うん。僕としては、偶然で終わらせるつもり、ないんだけどね」


あの強い瞳で。
優しい声で。
温かい手で。
背中を押して欲しい。
そしたら、僕は今よりもっと強くなれるから。


「あ、佐久間!」

「あ、菊丸君!ふ、不二君も!」


佐久間が僕達を見つけて駆け寄ってくる。
見慣れたはずの制服姿が眩しく感じるのは。
この場所に、佐久間が居ることが新鮮だから、だろうか。


「早かったね」

「う、うん!何だか落ち着かなくて」


僕の言葉に、急に照れたように視線を泳がせて。
慌てたように繰り返される髪の毛を耳にかける仕草。
そんなことが、いちいち僕をドキドキさせた。
可愛い、って言葉が、何度も頭に浮かんでは消える。


「不二、俺先に行ってるね」

「うん」


ありがとう、は英二だけに聞こえるように囁いて。
二人きりになった空間に、僕はゆっくり深呼吸をした。


「え、えと…」

「…一番、見やすいところに、居て?」


「え…?」

「佐久間に、応援してもらいたいんだ。誰よりも」


誰かの存在が勇気になるなんて。
今まで知らなかった。
でも、佐久間の瞳は。


「その瞳」

「え、な、なに?」

「初めて会った時も、その瞳をしてた」

「え?ど、どういう…」

「あの日からずっと…その瞳に僕を映して欲しいって思ってた」


ぱちぱちと、僕を見つめたまま瞬きを繰り返す佐久間に。
僕は小さく笑った。


「ね、応援してくれる?」

「そ、それはもちろん!その為に来たんだし!」

「他の誰より僕を応援してくれる?」

「え、う…うん!するよ!目一杯!応援する!」

「また一緒にアイス食べてくれる?」

「あ、あたしで良ければ…!」

「じゃあ」

「うん!」

「僕を好きになってくれる?」


力強く頷いていた佐久間が、ぴたりと動きを止めて。
しばらくしてから、顔を真っ赤に染めた。
ほら、こんなに可愛い君に。
僕は振り回されてばかりなんだ。


「……ッ!」


呆然とする佐久間の頬に。
一瞬だけ、掠めるように唇で触れて。


「……絶対勝つから、見ていて」


頬を手で押さえて、ぶんぶんと首を縦に振る佐久間に。
僕はもう一度笑顔を向けて。


「…勝ったらご褒美に、さっきの返事聞かせてね」


必ず、手に入れたいんだ。
大事なこの試合の勝利と。
僕だけに微笑む君。


きっと。










他愛も無い短編を書きました、ワイ柚子です。
ふたりで話していてなんとなく出来ました。ほとんど即興です。
ヒロイン視点がワイティで、不二視点が柚子の合作となりました。
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。




[book top]
[levelac]