Dearest
君が居てくれる。
それだけで充分。
Dearest
「ただいまー」
「おかえり」
鍵が回る音を聞きつけて、あたしは玄関へと走った。
そこに居たのはもちろん侑士。
この広い部屋の主だ。
あたしが迎えに来ることを想定してか、侑士は満面の笑みを浮かべて両腕を広げて待っていた。
「え、えと、」
「何や伊織、ここは躊躇せず飛び込むところやろ」
ん、と促すようにもう一度大きく腕を広げる侑士。
甘え下手なあたしだけど、今日はせっかくの誕生日だ。
素直に侑士の腕の中に収まることにした。
侑士の胸に体を預けると、ぎゅうっと強い力で抱き締められる。
「堪忍なぁ…。こんな日に残業なんかさせよって…跡部のヤツ!」
「忙しいんだもん、仕方ないよ。早い方じゃない」
「伊織は欲がなさすぎなんやって」
そう言いながら、侑士は何度も髪の毛にキスしてくれる。
侑士はあたしの誕生日に早く帰って来る為に、今日までの1ヶ月間信じられないようなハードスケジュールで仕事をこなしてくれたのだ。
今日も定時で帰宅とはいかなかったけれど、その侑士の気持ちだけでも感謝しなくちゃいけない。
「侑士疲れたでしょ?」
「俺のことはええんやって。今日は伊織の誕生日やろ?ほら」
「あ!」
侑士がニヤっと笑って、鞄の中から取り出したのはあたしが大好きな銘柄のワイン。
誕生日プレゼントの希望を聞かれたときに、あたしがお願いしたものだったりする。
目を輝かせたあたしに、侑士が眉毛を下げて優しく笑った。
「ホントにこんなんで良かったん?」
「いいのいいの!すっごい嬉しい!ありがとう侑士!」
「どういたしまして」
リビングまでの廊下を手を繋いで歩く。
当たり前のように侑士のスーツを脱がすと。
侑士があたしの手首を掴んだ。
「…ちょっとエロいシチュエーションやな」
「…何言ってんの」
じっとあたしを見つめる侑士の瞳はいつになく熱っぽい。
視線が外されないまま、侑士の指が優雅な手つきでネクタイを緩めた。
今更ながら、その様子にドキドキしてしまって。
「侑士、ご飯…」
「先にこっちが欲しいなぁ…」
侑士の長い指先が、服の上からゆっくりと鎖骨をなぞる。
体が熱を持ち始めて、恥ずかしさから思わず顔を逸らしてしまう。
それを見計らったかのように、耳のすぐ下あたりに侑士の唇が触れた。
「……ッ」
「伊織…ええ匂い」
ちゅ、っと頬にも唇が触れて。
次の侑士の行動を予想して、あたしはそっと目を閉じた。
「!」
キスされると思っていたのに、唇に触れたのは予想に反した冷たい感触。
びっくりして目を開けると、楽しそうに笑う侑士と目が合った。
あたしの唇に触れたものは、どうやら侑士が今持っている――。
「鍵…?」
「結局今日も早く帰ってこれんかったし、料理も伊織に作らせてもうたしな。ワインだけや俺の気が済まんから、もうひとつプレゼント」
手のひらにその鍵が置かれる。
あたしはそれをまじまじと見つめるけど、何の鍵が検討もつかない。
侑士の部屋の合鍵はもう何年も前に貰ったはずだ。
「プレゼントって…これどこの鍵?」
「家の鍵やで?」
「家の鍵って、あたし侑士の家の鍵持って―――」
「俺らの、家の鍵」
あまりにも普通に言うものだから、一瞬聞き逃してしまいそうになった。
侑士の言葉を理解するのに時間がかかって、呆然としているあたしに。
侑士はまた優しく笑って、触れるだけのキスをしてくれた。
「…俺、もう伊織と別の家に帰るの嫌やわ」
「ゆ、」
「誕生日おめでとう…一緒に暮らそう?」
抱き寄せられた瞬間に、涙が零れ落ちた。
侑士の匂いに、満たされていく。
あたしの手の中にある鍵は、きっと今までで一番のプレゼント。
「侑士…ありがと…」
「…俺の方こそ、一緒に居ってくれてありがとうな」
侑士が居て、笑ってくれる。
あたしの毎日はそれだけでキラキラと輝くんだ。
侑士を好きな気持ちと、侑士がくれる愛情が。
あたしの人生を明るく照らしてくれる。
こうして侑士と年を重ねていけること、本当に幸せに思うよ。
「な、伊織」
「ん…?」
「とりあえず、今日は目一杯伊織を可愛がってええ?」
「…ばか」
これから先も変わらない笑顔で、おめでとうって言ってね。
来年はきっと、二人の家で。
*fin*
親友のワイティさんの誕生日祝いに捧げます!
せっかくの誕生日だからね!甘めでね!
久々忍足さんだったので、何だかとっても恥ずかしかったです(笑)
お誕生日おめでとう!
まだまだ結婚せずにあたしの面倒見てね(笑)
変わらずに大好きです(*´∀`*)
お誕生日おめでとうー!
08/11/05 柚子
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