雨
「あ…ねぇ、雨が降ってる」
「えー嘘!天気予報、そんなのひとことも言ってなかったのに!!」
彼女との記念日に、彼女とデート。
僕はまず、彼女の大好きなドライブから始めることにしてる。
ふたりのデートはいつもそう。車の中で君を独り占めしてから、ようやく僕が安心するんだ。
「ふふっ…きっと、誰かさんのおかげだね」
「!…ちょっと周助、それどーゆー意味…誰って誰!」
君の怒った顔、大好き。
むっとして、口を尖らせて、つんとする。
決まって、君はいつも同じ拗ね方をして、僕はどうしてか、その表情に癒される。
可愛くて。
「さぁ、どういう意味かな?」
つい、意地悪を言ってしまう僕のせい。
僕が幾度となく繰り返すこの意地悪を笑って君に送り出すと、君はますますふてくされる。
そんな君を見てると、途端に抱きしめて、連れさらいたくなっちゃうな。
「あたし…雨女じゃないも…」
僕のそんな気持ちを知ってか知らぬか…
たまに僕の冗談を本気に捉えて彼女はしょげることがある。
今日はふたりの記念日だから、余計に落ち込ませちゃったのかもしれない。
「あたしのせいじゃ、ないもん…」
あ…どうしよう。
君のしょげた顔も、僕は弱いのに。
「大丈夫!」
「なにが…?」
だから思わずそう言った。
君の、その暗くなった顔を晴らしてあげたくて。
僕の、謝罪の気持ちと本当の愛を込めて。
「君が雨女だって、僕が晴らすよ」
そう、キスした瞬間―――ふと、雨が止んだ。
fin.
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