ここにいるよ




――今なにしてんだろう。

そんなことばっか考えてる。
あいつがくれたシルバーのネックレス。
ベッドに寝転んで右手で天井に掲げてずっと見つめてる。
そのまま額にそっと触れさせたら、俺の心みたいに冷たかった。

『ブン太……なんで?』
『別に。あの女とヤリたくなっただけ』
『……終わりにしたいってことだよね』
『つかもう俺が他の女に手え出した時点で終わりっしょ』

あんな顔、初めて見た。
泣かせたことなんて一度も無かったもんな。当たり前か。
お前の最後の一言、今でも目に染みる。

『次の子には、こんな別れ方させちゃダメだよ…』

そのまま走って帰ったお前の後姿、忘れられない。
あれ以来会ってない。
あいつの親父さんとの約束通り、俺はあいつを捨てた。酷く傷付けて。
お前が大好きなお前の親父さんに嫌われてから、いつかこんなことになんじゃねーかって思ってた。
大学教授の娘だもんな……俺に釣り合う訳ねーって、わかってたけど。
別れなきゃ娘を勘当なんて言われたらさ…俺、ああするしかなかった。

『ブン太の腕、大好き』
『なんだよいきなり?』
『いっつも、こうして守ってくれるもん。ぎゅってしてくれる。守ってくれるブン太の腕が好き』
『そういう時は、腕じゃなくてブン太が好きっていうもんだろぃ?』
『そうかも…! うん、大好きだよ、ブン太』
『ん、俺も。お前のこと、マジ、超好き』

今まで何回思い出したかわかんねえ、俺らふたりだけの時間。
ことあるごとに好きだとか、愛してるとか言い合って、その度にキスして、抱きしめた。
俺のその3年間――2年前に、俺が自分で壊した。
壊さなきゃお前のこと、守れないって思ったから。
お前が大好きって言ってた、お前のこと守れる俺で居たかったから。

「…会いたい――」

声になりきってない掠れた音が部屋の中に消えていった。
なぁ、今どこにいる?
忘れられないお前のこと、ずっと探してる俺は、ここにいる。
たった一ヶ月、ふたりで住んだアパート…出来ることなら、会いに来て。
俺、お前が来るまで、ここにいるから。





fin.



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