I'm sorry -Bunta Marui-












「なあお前さ」

「ん〜?…ん!おいし〜!やっぱフレジエだよね!」


ようやくブン太が部活に縛られず、放課後いつも二人で遊べるようになってから二ヶ月が過ぎた。
今日もいつも通り、ブン太が大好きなフレジエというお店のスイーツを買って。
ブン太の部屋でわくわくしながらケーキ箱を開けて、早速ケーキを頬張るわたしに、ブン太がふと声を掛けてきた。


「当然だろぃ!俺のイチ推しだぜ?」

「うん、ここのケーキ最高!…で?」

「あ?」

「いや、何か言おうとしてたよね?」


わたしが余計なことを言ったせいで話が逸れたけど、ブン太は何か言おうとしてた。
わたしがそれを促すと、ブン太は、ああ!と言った表情でこちらを見た後、フォークに刺さったままのケーキを口の中に放り込んで。


「なに?」

「んっめえ〜!…いや、あのな、お前さ、太ったんじゃね?」


口の中の物を無くしてから、突然そう言ってきた。
決して悪びれる様子もなく、というか真顔だ。
そう言われた瞬間のわたしの顔色は、青くなっていたに違いない。
だって確かに太ったのだ。
この二ヶ月で、2キロも…!


「え、そ、そうかな?」

「毎日体重計乗ってっか?多分お前ぜってえ太ってんぜ?」


多分とかぜってえとか、一体どっちだ!小憎たらしい…。
ブン太はスポーツマンだから、例え引退後だろうとやたら体を動かしていて。
いくら食べても太らない。
もしかするとそれは体質なのかもしれないけど。


「そ、そんなことないと思うけど……な」

「いやぜってえ太ったって!こないだHした時も、腹の肉ハンパなかったし」

「…………」


ブン太の言い方は無神経すぎて、わたしは時々結構カチンとくる。
だからケンカが絶えない…そりゃわたしが短気ってこともあるけど、腹の肉ハンパねえはないでしょ!


「あれ?どした?」

「てかさあ、そんなのブン太のせいだし!」

「なんだやっぱりデブってたか」

「ちょっと!!」


ハンパねえの次はデブってた!?
もう最低!!


「あーうるせー!耳元で大声出すなよ!」

「太りました!この二ヶ月!!ブン太のせいだよ!!全部!」

「なんで俺のせいなんだよ。お前がカロリーコントロールしてねえからだろぃ?」

「はあ!?来る日も来る日もスイーツスイーツ!!断ろうとしたら怒るくせに!! 一緒に食べたいんだから空気読んで、無理してでも食えっていっつもわたしに言ってきたのは誰!?」

「や、そ……」

「そうやって毎日毎日ケーキ食べさせといて挙句の果てにはデブ!?冗談じゃない!! じゃあもう食べないよ!!ブン太とのスイーツデートも今日限りだね! 行きたいなら他の女の子と行けばいい!もういいよブン太のバカ!!」


……いくらデブったと言われたからって、わたしだってここまで怒ることなかったのに。
収まりがつかなくなったせいで、最後には自分に煽られて泣いてしまっていた。
机に突っ伏したわたしを、ブン太はどんな気持ちで眺めているんだろう。


「……なあ、顔上げて」

「嫌だ!」

「……っ……」


さっきまで聞こえていたブン太の意地悪な声は、落ち込んだような、宥めるような優しい声になっていた。
反省してるなんてこの声だけでわかるんだから、顔を上げればいいのに、天邪鬼。


「…な、ごめん……そんな怒ると思わなくて……」

「……もういい……」


鼻水と涙でぐしゃぐしゃになっている顔を、今更あげたくないような気もして。
一度天邪鬼に走ったなら、なかなか後戻りできなくて。


「……なあ、でも俺……どんなお前でも、好き」

「!」

「……お前が太ってても、痩せてても、俺、お前のこと、好き」


なかなか後戻り出来なかったはずのわたしのプライドは、この一言で呆気なく崩れ落ちる。
ブン太から告げられる、好き…それだけで。










(わたしも……ブン太のこと好き……)

(……ってかお前、ひでえ顔〜!!あっはっはっは!)

(……〜〜〜〜〜!!やっぱり嫌い!!)




















fin.



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