ジェラシー -Syusuke Fuji-










「ッ……不二、いつからそこに居たんだよ」
「ふふ。少し、前から。英二、写真撮ってもいい?」
「やめろよ不二!冗談じゃないぞ!」

感動的なホームルームを終えて、僕は英二のいる教室に訪れた。
今日は、卒業式。
僕のクラスの女の子たちも、いま目の前にいる英二のように泣いていた。
僕はぐっと我慢しているだけで、本当は何度も心が揺れた。
卒業式は、淡くて切ない気持ちになる。中学生の時もそうだった。

「不二ンとこも、もう終わったの?」
「うん。先生が大泣きしちゃって、すごく感動的だったよ」

そういえば、中学の卒業式の時も英二は泣いてたっけ。
思い出して微笑んだ僕を見た英二はそれを察知したのか、顔を赤くして目元を弄った。
昔から、英二のこういうとこは申し訳ないけど、可愛いな、と思ってしまう。

「ンで不二、俺に用?第二ボタンはやんない!」
「欲しがってないでしょう?残念だけど、英二に用じゃないんだ」
「ちぇ、やっぱり。そうだと思った」

口を尖らせた英二がそっと視線を送った先には、僕の好きな、君がいて。
正解とばかりに僕がにっこり笑うと、「やってらんなーい」と茶化して、英二も笑った。
そのとき、君の傍からデジタル音が聞こえてきた。
一瞬視線を離してしまった隙に、と言わざるを得ないタイミング。
急いで視線を君に戻したら、君は目を真ん丸に見開いた状態でその犯人を見つめていた。

「えー、いきなり!」
「いいじゃん!お前いまの顔、超面白かったし!」
「だめだめだめ!今の消して!」
「わかったわかった、じゃあ今度はちゃんとな!」
「そうだよ!ちゃんと撮って!」

僕とはあまり面識のない男子(だけど、君とはクラスメイト)がキラリと光るデジタルカメラを手にシャッターを何度も押していた。
その中の一枚として、選ばれた僕の彼女。
チリチリと、不快な音が僕の胸の奥で響き渡る。

「ふ、不二……ほら、今日で最後だし、な!」
「英二、これ、預かっててくれる?」
「え!ちょ、不二!?」

僕の顔を見てまた察知したのか、英二は何か言い訳めいて僕に囁いていたけど。
僕は自分の手の中にあるカメラを英二に手渡して、何も聞かずに君の傍まで進んでいった。
後ろで英二が嘆きの声をあげている。
今更嘆くくらいなら、クラスメイトの彼をなんとかして欲しかったな。

「なに、撮ってるの?」
「お?」
「周助!」
「おう不二!今お前の彼女ばっちり撮ってたとこ。見る?さっきの超面白れー顔してたんだって!」
「どれどれ?見せて?」
「ちょ、やだ!周助!見ちゃだめ!」

カメラマンの彼の傍で、僕は微笑みながらそのデジタルカメラを手にした。
そして愛しの君を見る。
誰が超面白い顔?もしかして、この可愛い僕の彼女のことかな。

「周助!嫌だってば!」
「いいじゃない。ちょっと見せて」

どうして彼には見せることが出来て、僕には見せることが出来ないの?
そんな顔してもだめだよ。他の人のカメラに、僕の知らない君がいるのはだめ。
だけど僕の気持ちも露知らず。
怒った顔して僕の傍に来て、痛くない程度に腕を叩く君の目が不安げに僕を見上げてる。
あ、やっと僕の瞳の中に君を閉じ込めることが出来た。少し安心したよ。
今日も可愛いね。さっきまで泣いてたの?目が赤くなってる。

「あれ?これどうやって戻すのかな?」
「ああ、それは……」
「あ、ごめん、消しちゃった」
「え!」
「あ、ごめん。もう一枚のも消しちゃった」
「ちょっと周助!?」

不注意で消したフリをして、本当は消すつもりでゴミ箱マークのボタンを二回連続で押した。
他の誰かのカメラに君が映るのはあまりいい気分じゃない。
君は、僕だけの君でいいから。今日のその泣き顔も、僕だけのもの。

「なんだよ不二ー!」
「何やってるの周助ー……」
「ほんと何やってんだよ不二!」
「ごめんごめん。そんなに怒らなくても、もう一枚撮ればいいでしょう?」
「そうだけど!ああ、じゃ二人で一緒に撮ってやるよ!」

当然。出来れば最初からそうしてもらえるとありがたかったな。
気前のいい彼はすぐに機嫌を直して、僕と彼女に笑いかけた。
君は緊張気味に僕の隣で、周りの生徒達を気にしながら赤い顔して微笑む。

彼はカメラマンとして後ろに下がって、しっかりとアングルを決めて構えてる。

そして僕は、彼がシャッターを押すその隙に。

「!!」

君の頬に、小さなキス。















(しゅッ……!!)
(ねえそれ、焼き増しして僕にちょうだいね)
(周助!!)
(良かったら二枚焼き増して。彼女のぶんも)
(周助〜!!)























fin.



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