ジェラシー -Keigo Atobe-










「忍足、これ変えとく?」
「ああ、堪忍。お願いするわ」
「がっくんタオルここね〜」
「サンキュ!」
「宍戸のドリンクここに置いておくよ〜」
「悪いないつも」

俺の女は世話焼きだ。
別にマネージャーでもねえのに世話を焼く。
やつ曰く、居るだけじゃ迷惑だから出来ることはしたいという思いからだ。それはまあ、理解してやる。
だがここ最近、連中の甘えが酷くなってきているように思う。
おいテメーら。俺の女が優しいからって甘えてばっかいるんじゃねえぞ。誰の女だと思ってやがる。

「景吾は……」
「なんだ」
「汗かいてないみたいだし、タオルいらないでしょ」
「ちょ……待て、俺にも寄越せ」
「え、だって全然汗かいてないのに」
「かいてなくても寄越せ」

加えて頭にくるのは、何故か俺だけぞんざいに扱われているところだ。
俺だけに過剰に優しくするかと思いきや、こいつは最初から俺だけに素っ気無かった。
忍足なら「なんでやねん」と突っ込むとこだ。ったく冗談じゃねえ。

「なにイライラしてんの?」
「…………」

お前のせいだ、お前の。
ったく。だいたい俺を待ってるだけなら部室じゃなくとも教室で待ってりゃいいんだよ。
それを部室に来るからこうやってお前がやらなくてもいいことをやらなきゃなんねえんだろうが。
俺以外の男に甲斐甲斐しくしやがってバカが!

「おいお前ら!」
「なんやあ跡部、いきなり叫ばんといて」
「さっさと出て行け」
「おい何だよ跡部。ちょっとゆっくりさせろよ」
「ジロー起きろ!出て行け!」
「ちょっと景吾、どうしたの?」
「跡部の機嫌が超悪いC〜…………」
「なんなんですか一体。今終わったばっかりだってのにゆっくりもさせてもらえない」

俺の癇癪にまたかという顔をして、野郎共は口々に文句を言いやがる。
うるせえバカ共が。今お前らの顔見てるとむしゃくしゃすんだよ。

「あ、ジロちゃんのタオルここだよ〜」
「あ、サンキュ〜。このまま寝ていい?」
「え」
「出て行けと言ってるだろうがジロー。おい樺地、連れていけ」
「ウス……」

あいつが膝に抱えていたタオルを隣で起きたジローに渡そうとすると、ジローはそのまま膝を借りて寝ようとしやがった。
いい度胸してんじゃねえかジロー。明日覚えてろよ。
樺地に抱えられていくジローを見て、野郎共も諦めがついたのか溜息ながらに出て行く。

「もうなんだよ〜。パソコンで見たいもんあったのに!」
「せやろぉがっくん。俺もや。なんやねんなあ?」
「うるせえ。誰がこの部室の金出したと思ってやがる。さっさと出て行け」

それを言われると何も言えないのか、野郎共はようやく出て行きやがった。
振り返るとお前は完全な呆れ顔で俺を見ていた。しれっと視線を外しやがる。
おい、こっちを見ろよ。

「わたしも出て行きましょうか?」
「くだらねえこと言ってんじゃねえよ。おい、俺のドリンク」
「ご自分でどうぞ」
「な……!」

なんで俺だけご自分でなんだ!!
胸の内がそのまま出たような顔をしているに違いない。
お前はそんな俺を見て、突然噴出した。

「おい……何が可笑しいんだよ」
「い、いや……やっぱり景吾、それでイライラしてたんだなって……あはは。可愛い」
「な……」

俺の気持ちを見透かしてたってか?ふん、気に入らねえ。
なら最初から妬かせるような真似すんじゃねえよ。

「景吾の姿はねー、この部室からだと一番良く見えるんだよ」
「アーン?」
「でもここでぼーっとしてるだけなんて、景吾の顔に泥塗ってるようなもんだもん」

ソファに座る俺の後ろにわざわざ回って、俺を頭を抱えるように抱きしめる。
優しい匂いに包まれて、俺はようやく落ち着き始めた。

「景吾の彼女として、イイ女だなとみんなに思われたいわけです」
「じゃあ俺にも同じように接しろよ」
「それは照れくさいもん。わたしが甘えるのは、ふたりきりの時、景吾の前だけ……」
「……ふん」

右側に来ている髪に触れて見上げると、本当に照れくさそうに笑ってやがった。
ったく……なんて可愛いんだよ、お前は。

「!……え、えっと」
「早くしろよ。じゃねえと白目剥くぞ」
「怖すぎるよ!わ、わかったから……」

目を閉じて合図すると、躊躇いがちに焦るお前が愛しい。
静かに触れた唇は、俺専用のドリンクの味がした。















(……飲みやがったな?)
(だって……景吾レシピ、美味しいんだもん)
(お前が愛込めて作ってるから、だろ?)
(…………景吾って、恥ずかしいね)
(アーン?)





















fin.



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