ジェラシー -Yushi Oshitari-










「リュウちゃん、あの星すごく綺麗だね」
「……ああ…………お前、もな」
「……っ……リュウちゃん」
「あー、そこちょっと待って。リュウがちょっとタイミング早い!もっかいやって!」


【夜明けに僕は死ぬ】

……表紙見て淡々としとった俺やけど。
さっき中身見て、目の前でそれ見て、すでにめまいがしそうやった。

「リュウちゃん、あの星すごく綺麗だね」
「……ああ……お前も……な」

ってまたそこやるんかい。
何回やるねん。おい演出、何回やらすねん!!もうやめたって!

「…………っ……リュウ、ちゃん」

さっきよりあいつもリュウちゃんも演技に熱入ってきとる。あー、めっさ気に入らん。
いつまで抱きしめとんじゃ!!もう離せや!!
俺は口に出来へんイライラを心の中で大爆発させとった。
この勢いやったらもう世界の終わりがきてもおかしない。リュウちゃんもろとも破滅したろか!
ああ……あかん、跡部みたいになってもうた。相当キとるな、俺。

「ちょーっと違うんだよなあ。もう一回いこう」

演出の奴はどうもそのシーンの雰囲気が気に入らんらしい。
台本見る限りやったら、ここ、かなり重要やもんな。死ぬって今から告白するとこや。
せやけどそんなん俺の知ったこっちゃないねん。勝手に死ね!ああ、あかん……最低な人間や。

「リュウはもっと力込めて!」
「はい」
「ヒロインは突然のことに何か察知したような顔して。火曜サスペンスみたいな」
「はい」

しょっちゅう罵声が飛ぶ氷帝学園の演劇部稽古場。俺の彼女が所属しとる部活。
舞台が昔っから好きで、目標は白石加代子やって。
……誰か知らん。
とにかく、俺の恋人は今回ヒロイン役として抜擢されたっちゅうわけで。
テニスは雨で中止んなったし、ちょっと覗いてみよ思たらこれや。
見学席に座らされて、ご丁寧に演出くんが台本まで手渡してくれよった。

「……っ……リュウちゃん」
「オレ……」

ってせやからそこ何回やらすねん!!
あー、めっちゃ抱きしめとるやん!リュウちゃん俺の彼女めっちゃ抱きしめとるやん!
もうやめて!やめたって!離したって!!嫌がっとる!絶対ホンマは嫌がっとる!!

「おっけ!ちょっと休憩入ろっか〜!10分ね!終わったらまた同じとこから」

頭がクラクラしてきた思たら、演出くんから休憩の声。
ぱらぱらと、全員が稽古場から出ていきよった。
ただ彼女だけひとり、俺の隣にぽん、と腰をかける。
あー、めっちゃほっとする。待っとったよ。

「侑士、部活は?」
「今日は、中止んなった」

なあ、俺一応、今ごっつい心閉ざしとるから傍目から見たら普通やと思うけど、ホンマは死ぬほど気が狂いそうなんやけど……気付いとる?

「あ、そうなんだ。侑士が稽古観に来てくれるなんて珍しいと思ってたんだ」
「ん……」

気付いとるかもしれんし気付いとらんかもしれんけど、彼女は何事もなかったように微笑みを返してくれた。どっちにしてもその対応は正解やと思う。流石や。
しっかし……あー、めっちゃかわええ。
こいつは俺の、俺だけの彼女(のハズや)。
もうこんなかわええコやからヒロイン抜擢とか当たり前やけど、他の男に触れられるんは我慢ならん。
だいたい俺はこの稽古場には滅多に顔を出さん。
やって関係者やないし、こういう演技をどうしても想定してまうから見たないし、本番でさえあんま見んようにしとる。
せやけど今回は大丈夫やと思っとったんや。
やってタイトルが【夜明けに僕は死ぬ】やで?誰もこんないっちゃいちゃシーンあると思わんがな。

「侑士?」
「ん?」
「なんか、顔青いけど大丈夫?」
「…………」

お前のせいやー……とは言えへん。
言うたらこいつを夢と俺の狭間で悩ませることんなるし、俺は聞き分けないって嫌われたらたまらんし、俺はこういう時に知らん顔して嫉妬もせんと「ようやってるやん」とか言える器のデカイ男に憧れとる。
……一生かかっても無理やって思うけど、憧れとる。
せやからもし、もしも、もしもキスシーンとか将来的にあったとしても……俺は……!

「侑士?考え事?大丈夫?ホントに具合――」
「――せやったら……」

なんかいろいろ考えとったらホンマに具合悪なってきた……。
こいつは俺の恋人や。プライベートは俺の独り占めや。
……わかっとってもやきもち焼きは治らへん……はー、しんどい。

「俺にもぎゅー、させて?」
「えっ……侑……」
「はあ、めっちゃ暖かい」
「侑士、ゆ、ね、侑士……もうすぐ誰か戻ってきちゃ……っ!」

チュ、とキスしたら真っ赤な顔。
もっかいチュ、としたったらおずおずと俺の肩に顔をうずめよった。
愛されとるなあって実感……せや、こんな顔、俺にしか見れんし。

「なあ」
「うん?」
「頑張ってな」
「……うん!」

ぐっと堪えて応援するで。
お前のために。















(……なあ)
(うん?)
(俺が夜明けに死ぬときは、星空とかどうでもええから、一晩中エッチしよな)
(……最低)
(なんでや!いけず!)




















fin.



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