HUG -P.S. I LOVE YOU-








決めたのは、僕なのにね。

「――周助?もしもし?」
「あ、ごめん……」
「あー、聞いてなかったでしょ?」

おどけて言う君に、声をひそめるようにして笑い返す。

「ちゃんと聞いてたよ」
「はいはい……ねえ、大丈夫?最近疲れてるんじゃない?」
「ん……どうかな。順調なつもりなんだけどな」
「周助、無理しがちだから心配。あんまり自分の体を過信しないでね」
「うん、ありがとう」

おやすみと告げて、僕は電話を切った。
ここ最近、すっかりホームシック化している、らしくない僕。
君は気付いてるのかもしれない。
心にぽっかり穴が開くって、こういうことを言うんだな、きっと。
遠征が始まってから三ヶ月……僕がその話を告げたとき、君は一瞬も顔を曇らせなかったね。

『遠征?海の向こう?』
『うん……その、多分、二年くらい、かな』
『うんうん、そっか!頑張っておいでよ!』
『え……いいの?』
『いいも悪いも、周助のためになるなら、行くべきなんじゃない?それにもう決めてるんでしょ?ホントは』

すっかり僕の心の内を見透かしたような笑顔で、君はそう言った。
どんなに探っても、強がってるところなんか少しも見えなくて。
そんな君に、勝手な僕は寂しくなったのを今でも覚えてる。

『頑張ってきてね。ちゃーんと待ってるから』
『うん……ねえ、いつでも電話してきていいからね?』
『うん。お金貯まったら遊びに行く!』
『うん。僕もなるべく帰るようにする』

おいで、と手を引いたら、人目も憚らずに君はすっぽりと僕の胸に顔を埋めた。
一粒も見せなかった涙に、やっぱり強がりは感じられなかった。
だけど、ずっと君の体が僅かに震えていたことに、そのとき初めて気付いたんだ。
強く抱きしめた僕に、『周助、苦しいよ』って力なく笑う君が、愛しくて。

「……よし、書けた」

思い出していたら結局眠れなくて、君に手紙を書いた。
たくさんの愛をこめて、この手紙を送ろう。
僕が寂しがるなんてずるいよね。寂しい思いをさせているのは僕なのに。
だけどどうか忘れないで欲しい。
僕はいつだって、君に恋してる。
……なんて、読み返して少し恥ずかしくなっていたら、君からの着信。

「もしもし?どうしたの?」
「うん……なんかね、言いたくなったの。もうすぐ寝ちゃうから。寝る前に」
「うん?」
「愛してるよ、周助」

ああ、困った。会いたくてしょうがないや。

「……ふふ。うん。久々に聞いた」
「久々に言ったもん」
「嬉しい」
「うん、じゃあおやすみ」
「え、ちょっと待っ――」

……電話は切れていた。

「僕も言いたかったんだけどな……」

少しだけ苦笑の溜息をつきながら、一度封をした手紙を開いて。

――P.S. 僕も愛してる






















fin.



[book top]
[levelac]




×