HUG -Help!-



さっき、あいつと手え重ねとったなあ。

「あ! こんなとこにおった。探したやないのー」
「……」

中学ん時なんか、こんなことなかったのにな。

「蔵ぁ? どないしたん? DVD借りに行くんやろ?」
「……ん」

どっちの指が長いとか、第一関節が違うやの、はははっ……どうでもええやろ。

「へこんでんのん?」
「……ん」

違うで。気に入らんって思っただけや。
お前が離れて行く気がして、怖なっただけや。

「そうなん……カワイソやなあ、蔵」
「……ん」

ああ、俺の頭をしゃいしゃいと容赦なく触ってくるお前の手があったかい。
なんでやろな……ここ最近、沸々と出てくるこの甘ったれた感情は。
こんな人のぬくもりやったり、優しさやったり、そんなん一切考えんと、俺はずっとパーフェクトでやってきたはずやのに。
そんなときにあんなん見せられたら、たまらん気持ちになるやろ?

「蔵がこんなん、珍しいなあ?」
「……ん」
「テニスで嫌なことあったん?」
「そうやない」
「そうやないの?」
「ああ、そうやないねん」

ホンマにそうやないから厄介や。
テニス以外のことでぐったりしとる俺なんかお前も見たなかったやろに、堪忍な。
俺の、ひとりでなんでもやったるでっちゅうあの頃の勇ましさはどこに行ったんやろな。
ひとりやあかんって思うようになったんは、なんでやろな。
いつから、なんやろな……。
気が付いたらお前の手、握りしめたなってたんやで? 敵わんわ。

「び、びっくりした……蔵、どないしたんホンマ? 手え、冷たい」
「冷たいやろ? いろいろ思いつめながらこんなとこ居ったで、冷えてしもたんや」

長いこと友達やっとるけど、手え握られると、やっぱりびっくりするもんなんやな。
今のうちに好きなだけびっくりしとき。
この後もっとびっくりされて大声あげられたら、それこそ敵わんからな。

「ホンマに蔵、今日は寂しい感じなんやね……慰めてくれる女の子おらんのん?」
「……わかっとるやろ?」
「ようけおるー」
「ははっ。言うてくれるなあ。おるわけないやろ……」
「うそよー。蔵が呼んだらすぐにっ――
――お前しか」

立ち上がっていきなり抱きすくめた俺に、結局びっくりしたお前の声が、愛しい。
エクスタシーや。いやいや、ふざけてへんよ。ホンマで。

「蔵っ……なんっ」
「最近なあ、気が滅入ってしゃあなかって」
「どどないしたん、どない……」
「不安になんねん」
「え、えっ」
「妙に女になってくお前を見とるとな、誰かに、取られそうやって」
「は……」
「今までは、傍に居ってくれるだけで感謝やったんやけどな……独り占めしたなってきた」
「ど、どういう……蔵、ど、どきどきするやんっ」

はははっ。
お前めっちゃ正直やな。顔、真っ赤にして。
どきどきするやなんて、アホやなあ。そんなん直球過ぎて俺、めちゃめちゃ興奮するやろ?
ホンマ好きやで、そういうとこ。
言うたかて、俺もめっちゃどきどきしてんで。そう見えんかもしれんけどな。

「お前が必要やねん。助けて欲しいんや」
「助けて欲しいって……な、なにしたらええの? わたし……」

いま、俺に抱きつかれてめっちゃ混乱しとるお前よりも、ずっとずっと前から、俺な。

「なんもせんでええよ」
「え、なんも?」
「ん……ただ、頷いてくれたら……唇、かわええな。食べてしまいたいわ」
「ま、まま……待って、蔵、心の準備……」
「待てへん。お前を見るたびに、胸が苦しいんや」
「く、蔵……」
「この苦しみから俺が逃れる方法は、たったひとつしかないって気付いたんや。今日」
「え、きょ、今日っ……!?」

思い立ったら吉日、っちゅうてな。

「お前を俺のモンにするしか、ないやろ」

――せやから俺のこと、助けて?





fin.



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