HUG -LOVE ME DO-








こんなに欲しいと思ったこと、ないんだよ。

「切原さ、こないだ彼女と別れたばっかりって……」
「……そういうの、やっぱ気になる?」

気にならねえわけねえか。
オレが女だったら、ついこないだ恋人と別れたばっかの男なんて、軽い感じがして、なんか嫌だもんな。
しかも、それがオレなんて。いかにもって感じ?
……でも、言い訳してえよ。
それはお前のせいなんだって。

「気に……なるっていうか……だって……」
「つーかオレは、絶対泣かせたりしねえけどな」
「えっ……」
「マジでお前のこと好きだから、絶対、泣かせたりしない」

だからオレのこと愛してほしいなんて、図々しい?
こんなにお前のこと好きになって、前の女と別れたオレのこと、軽蔑すんの?
違うよな?そんなこと、お前に出来ない。
出来るはずないんだって。
あの日、あんな風にオレのこと求めといて、否定なんかさせねえから。

「わたしが、前に相談したこと……言ってる?」
「そう。でもあいつとはもう別れたってことなら、知ってる」
「……っ、切原、でも、わたし……」
「ついでに、まだ引きずってるってことも知ってる……でもオレ、お前と付き合いたい」

何度も、何人も、告白されて付き合った。
でも結局、誰も心から愛することなんて出来なかった。
その度に後悔して、だんだんと相手はヒステリックになって。
ちゃんと、誰かを愛したかった。
新しい恋人を作る度に、その子を本気で愛したくてたまらなかった。
それがどうやっても出来なかったオレの前に、突然舞い降りてきたみたいなあの日。
……やっと見つけた。やっと、わかった。
不思議だよな。何年も前からお前のこと知ってんのに、あんなちょっとしたことで。
――オレが求めてたのは……お前だったなんてよ。

「強引、す――っ!」
「へえ?そんなこと言う?なら、お前はずる過ぎんじゃねえの?」
「切原っ……あの日のことなら、……っ」
「あんな風に甘えといて、離してなんて言わせねえから」

抱きしめた細い体。どんどんあの日の匂いが蘇る。
偶然一緒になった帰り道。
突然泣き出したお前。
思わず抱きしめたオレに、身を委ねるように背中に手を回して。
触れたいと言ったオレに、寂しさ紛らわせてるだけなのって、目を閉じたお前の、あの感触。
忘れられなかった。
ずっと、オレの唇は、あの日から熱くて……お前のこと、求めてて。
いつだってお前のこと、目で追ってて。
気付いたら、こんなに夢中になって。

「切原っ、わたし、ホントに忘れてないんだよっ……!」
「それでもいい。気まぐれでいいから、オレの女になってよ」
「切――っ」

だから、どうか。
愛してほしい。こんなオレを。
今すぐじゃなくていい。ゆっくりでいいから。

――ほら、唇、熱いだろ?



















fin.



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