HUG -Don't Let Me Down-








こんなに大切だと思えるのは、あなただけ。

「どこに行かれるんですか?」
「どこだって比呂士には関係ないでしょ」

そんな物言いすら愛しく思える。
喧嘩をしたところで、結局、私はあなたが好きだ。
――あなたは違うのですか?
そう聞けばまたいつものように、比呂士はずるいと責められるのでしょうね。

「私に関係ないとは、穏やかじゃないですね」
「怒ってるんだから穏やかなわけないじゃん。っていうかその口調、ホントにイライラするんだけど」
「それが好きだと言ってくれたじゃないですか」
「今は嫌い」
「……では、私はどうすれば?」
「そうやって聞くのもホントに無い!どうすればいいのかくらい自分で考えてよ!」

そうおっしゃいますが、あなたはいつも突然に機嫌が悪くなるのです……。
さて、今日も何が原因かわからない。
しかしどうしたものか。
彼女はもうすでに玄関で靴を穿いていて、今にも私の部屋を出ていきそうだ。
どう宥めてもいつも余計に怒らせてしまう私は、もうあなたに縋るしかない……突飛な考えだろうか。

「少し待っていただけませんか?」
「それ、引きとめてるつもり?わたし買い物に来たお客じゃないんだけど」
「わかっています」
「ああもうその返し!むかつく!」
「お願いがあります」
「なん……ッ!」

体は自然と動いていた。
あなたを引き寄せて腕の中に包めば、こんなにもすぐに静かになる……やはり、愛しい。
ああ、どうして今まで気が付かなかったのか。
今日の原因は、デート中のあの人か。なるほど、なるほど。嫉妬深い人ですね、全く。

「私を見捨てないでください」
「へっ……」
「お願いですから、私を、見捨てないでください」

どれほどあなたが怒ったところで、あなたが私を愛してくれているのは知っています。
怒るというのは、愛ある証拠だと知っているからです。
そしてあなたが誰よりも私を心から愛してくれているから、私も同じだけの愛情をあなたに抱くのです。
いえ、今更もしあなたほど私を愛してくれる人が現れようとも、あなたに敵うはずもない。

「生まれて初めてなんですよ」
「……比呂士、どうしちゃったの……?」
「終わりのない恋をしているのは、初めてなんです」

きっと永遠に続く恋なんです、私はそう信じている。
あなたに出会った瞬間から。
あなたほどの優しい女性を、私は知らない。
だから、どうか私を見捨てないでください。

「あなたしか目に入りません。どうしてわかっていただけないのですか?」
「……っ、原因、わかってるんじゃん……」
「今、気付いたばかりですが」
「はあ!?」
「ああ、怒らないで。気付いただけでも許してください」
「なにそれ。いっつもいっつも、比呂士はさ……っ!」
「好きなんですよ。あなたのことが」
「……っ」
「だから、つい他の女性と比べてしまう。今日のは、そういうことです」
「調子良すぎ――!」
「――あなたは私のこと、好きではないのですか?」
「……ま、また、そうやって……!」
「私は、好きです。愛してます。誰よりも」
「……っ、……ずるい」
「ずるくても、結構」
「もう!」

――つまり、すっかりあなたの虜なんですよ。





















fin.



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