HUG -I Want To Hold Your Hand-








お前だってもう、気付いてんだろ?

「ねえブン太ってさ」
「あー?」
「明日なんかあるって言ってたよね?」
「……ああ、まーな」

駆け引きのつもりなら全然やる気しねえから、その様子窺うような視線、やめとけって。
今の俺にはどんなお前だって起爆剤になんだから。
もしかして予測して困ってんのか?
どんだけ困ってたって、俺は絶対言うぜ。絶対、な。

「映画、何見るんだっけ?」
「あれだよ、今流行ってるやつ」
「そりゃそうでしょうね」
「えーっと、なんつったっけな。ほら、漫画が原作だとかなんとかの」
「あ、わかった。今流行ってるやつだ!」
「はあ?突っ込んどいてボケんなよ。笑える」

ったくよ、すでに超愛しいんだけどどうしたらいんだ?
どんどん惹かれてくんだよ、こうやって話す度に。
もう理性も何もかも奪い去られそうで、チョーコエーもん。
笑いながらどさくさに紛れて少しだけ触れる肩も、ときめいてしょうがねえし。
こんな幸せな気持ちにしてくれんの、お前しかいない。
こんな幸せな気持ちを、隠しきれてるはずもない。
でさ、俺、思うんだよ。
お前にすら、この気持ち隠しきれてねえんだろなって。

「わー!ブン太、すぐそやって頭ごしごしする!」
「犬みてーなんだもんよ」
「種類は?」
「パグ」
「失礼じゃない?さり気無く失礼じゃない?」

こんな好きで、隠しきれるワケねえだろぃ……?
あー、やべー。
明日のつもりが、今日になりそう。
我慢、我慢だ丸井ブン太!

「あのさ」
「んー?」
「別れるんだろ?あいつと」
「……うん、まあ……その予定」
「なんだよ、歯切れワリーな」
「そりゃ、別れなんか、楽しいもんじゃないし。言い出し、難いし」
「でももう付き合ってらんねえんだろ?」
「うん……もう、気持ちは冷めちゃってるから……」
「じゃあそう言えばいいだろぃ」
「相手を傷つけるのが怖いんだよ」
「キレイゴトだな」
「……っ、そんな言い方、ないよ……」
「ごめん。じゃあ、言わなくてもいいようにしてやろっか?」
「へ?――ッ」

あれ?
明日しようと思ってたのに。
ワー、俺って全然ダメだな。我慢って言葉理解してねえ。
だってさ。
他の男で頭悩ましてるお前なんか、許せない。
まだ俺のモンになってるわけでもないのに、この独占欲。
全部お前のせいにしてやる。お前が俺を、期待させっから。

「ぶ、ぶ、ブン……っ!ちょ、まずいよ!ガッコ……!みんな見てる!」
「これで来週には学校中に噂が広まるだろぃ?」
「バカバカ!離せ!」
「待ってりゃあっちから言ってくる戦法。にんにん」
「ふざけてないで!」
「ふざけてなんかねーよ。いや、ちょっとふざけてっけど」
「ブン太!」
「こうしたいのは、今の俺の気持ちだから」
「……っ」

わかってたんだろ?俺の気持ち。
明日、映画の帰りに俺が告白してくるだろうってこともさ。
ホントは明日なんて待てないくらい、ずっとこうしたかった。
だから明日はお願いだから、死んでも『離せ』なんて言うなよな。
むしろ抱きしめてって言ってよ。
俺が告白するときは、もっともっと強く、お前を抱きしめたい。
……ただ、抱きしめたいんだよ。

「ブン太……フライング」
「知ってる……ごめん」
「……映画、楽しみだね」
「ん……すんげー、楽しみ」

――だからその心ごと、俺に預けて。






















fin.



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