HUG -Day Tripper-








何度目の夜だとしても。

「体温高いって、言われたことない?」
「どうかの……まぁ、低いほうじゃない」
「雅治と寝てると、すっごい寒い夜も、すっごいあったかいんだもん」
「ふうん?昨日は寒かった?」
「うん、一人だから寒かった」
「さあ、それはどうかの」
「えー?」

一人の夜を説明するのに、わざわざ一人なんて言わん。
どんどん化けの皮が剥がれていくのう。
さあ、ええ口実をいよいよ見つけた気がするぜよ。
おかげで思い切れる。

「お前さん、寂しがりなんやの。見かけによらず」
「んー、時々ね」
「またまた。いつも寂しいじゃろうに」
「えー?なんで」
「毎日誰かに抱かれて、虚しいと思わんの?」
「失礼な!毎日誰かに抱かれてなんかいません」
「ほう?じゃ今日の俺はなんじゃ?」
「雅治は今日だけじゃないじゃん」
「っちゅうことは、その日だけじゃない男が他にもおるってこと?」
「ばーか。何の話!」

なんとかこの女の本当に喜ぶ顔を見たいと、試行錯誤した。
あっちの時だけじゃのうて、ちゃんと、ただ会話しちょるときも。
だがどこかいつも上の空で、どこか、触れると綱から堕ちてしまいそうな危うさを見せる。
それにまた、俺は性懲りもなくどんどん惹かれて。
挙句、しばらく文句も言わんとこんな関係続けとるけど……実はそう、気が長いほうじゃないんでな。

「手強いのう」
「え?」

この俺が危うく、何も見えなくなって、独り思い悩む闇に突入しちまうとこだった。
危険な女……こんないかにも俺の好みの女に、まんまとどっぷり浸かるなんての。
なあ、でもそれはお前の本当の姿じゃない。
もう肩の力抜きんしゃい。気取ったとこで、お前のためにはならんぜよ。
お前がこれまでどんな思いをして、どんな辛いことがあったとしても、俺が全部受け止めちゃるから。

「そろそろ、言うてもええ?」
「ん?……わ、どうしたの雅治?甘えたさん?」

背中を向けたお前の素肌を、撫でるように抱きすくめた。
自然と絡ませてきた手を強く握り返して肩にキスをすれば、甘ったるく柔らかい音が響く。

「もう、俺だけにしんしゃい」
「またあ、何の話?」
「俺はお前さんが思っちょるより、真面目やぞ?信じられんかもしれんが」
「意味がわかんない」
「単純じゃ。他の男と寝てほしくない。お前さんの彼氏になりたいだけ」
「…………なにそれ、怖い」

ほら、それがお前の正体だ。

「なら、毎晩抱きしめて寝ちゃるから」
「冬はいいけど……夏は暑い」
「それは我慢するしかないのう」
「……ねえ、雅治は、いつも優しい?」
「お前さんが俺に優しくしてくれる限りはの」
「……わがまま、怒らない?」
「突飛じゃなけりゃ、むしろ愛しい」
「勢いで言ってない?」
「なら、結婚でもするか?」

もう一度ぎゅっと力を込められた手に、初めて彼女の素直さを見た。
日帰りの夜の沼から、俺がお前を救い出す。

――お前の全てを、俺が引き出してやる。






















fin.



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