HUG -Yesterday-








俺にはお前が必要だ。

「別れた方がいいと思うんだ……わたし、達……」
「……そりゃまた、急な提案だな」
「…………」
「……そうしたいなら、そうしろ。引きとめやしねえよ」

大人になりきれない俺に、最後まで涙を流すお前の姿。
昨日の輝きが今日になって途端に色あせていく。
本当は困惑しているのに、取り乱すことすら出来やしねえ。

「最後にね、景吾……お願いが、あるの」
「……なんだ」
「ごめん、少しだけ、こうさせて……」

ゆっくりと近付いて、俺を抱きしめたお前の体は冷たい。
何故そんな残酷なことをする?
突然やってきた悲しみを、理解できないプライドが邪魔して、どうしてか伝えることが出来ない。
重くのしかかる苦しみを、お前に全てぶちまけることが出来るなら……

「……耐えれなくなったのか?俺に」
「…………」
「それほど、俺は無神経だったってことか?」
「ううん……景吾は優しいよ」
「…………」
「景吾は、優しいよ……」
「でも、傷つけてたってことなんだろ?」
「……違うよ、景吾は、優しいよ……っ」

それなら、どうして俺を捨てていこうとする?
震える手で俺を抱きしめて、この感触を刻みつけたまま、結局何も言わないまま、俺から離れていくんだろ?
お前は俺に触れながら、本当はこんな風に泣いてたってことなのか?

「泣くほど、辛い思いさせてたのかよ……」
「違……っ、わたしが、バカなだけだから」
「…………なあ」
「う、ん……?」
「……いや、いい」

本当は触れてしまいたかった。
昨日触れた唇が、今はこんなに遠い。
暢気にお前のことを考えていた、昨日までが懐かしい。
キスをした昨日まで……どれだけ思い起こしても、幸せだった。
お前はそうじゃなかったとしても、俺にとっては、幸せな時間だった。
どうして今日が来てしまったのか。
共に過ごした時間を取り戻したい。
お前からこんなことを言い出すと思わなかった。
俺はどこかで、高をくくっていたのか?
今日突然、こんな苦悩を抱えることになるなんて、誰が予想する?
昨日までは全てが輝いていたのに……終わるのか?その全てが。
もうすぐ――。

「ありがとう。最後のわがまま聞いてくれて」
「…………」

離れていくなよ。

「テニス、頑張ってね。生徒会も。勉強も。全部」
「…………ああ」

もう、戻れないのか?

「じゃあ、ばいばい」

――お前を、こんなに好きなのに。























fin.



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