HUG -All You Need Is Love-








どんだけ考えたって、それがすべてや。

「たまには酒でも飲まん?」
「たまにー?いっつもじゃん」
「週末なんやから、楽しもうや」
「まあ、確かにね。でも侑士と暮らし始めてから、太りっぱなしだよー」
「太ってもかわええからええやんか」
「そう言ってるのはあなただけなんですよ……」

嘘やろお?とわざとらしく俺が返したら、むすっとしながら腹をパンチされた。
俺が笑うと、同じように笑い返してくる。
なんちゅうかわええ女やろうか。
これ以上の女は世界中探したっておらへん。いやいやホンマに。

「そいや昨日後輩がさ、先輩はどうしていつもそんなに笑ってるんですかーって」
「ふうん?で、なんて答えたん?」
「うん、別に意識してるわけじゃないからわかんなくてね。でも笑ってた方が楽しいよって返した」
「もっと分かりやすい説明したらんとー。あかんわ」
「そう?でも難しいよね。言葉で説明するのって」
「え、簡単やで」
「簡単なん?」

俺の真似してイントネーションを変えて、首を傾げてグラスも傾ける。
乾杯と同時に当たり前のようにキスをしたら、腕に閉じ込めてしまいたくてたまらんようになった。
やってめっちゃかわええんやもん。

「わっ、なに!ビール零れる!」
「愛や。すべてはな」
「へ?」
「その後輩、いっつもつまらん顔しとんやろなー。そんなん聞くってことは」
「侑士鋭い!そうなんだよ。なんか、ぶすっとしてるの。毎日つまんないんだって」
「それはお前がつまらんからやって言うたり」
「えー!言えないし!」
「ほな、愛を浴びろって言うたり」
「それも言えないな……引かれそうで……ははは」

笑とるけど、俺の着眼点、結構ええと思うで。
毎日つまらんと思とるヤツが、無理やり楽しくしようとしたって無理な話や。
人間、誰もが無力やもん。
せやけど、その無力さを全部帳消しにしてくれる秘めたるパワーが人間には備わっとる。
その全てが、与えて与えられる愛やっちゅう話。
お前はちょーっとバカにしとるようやけど、これ、ホンマで。

「愛、ねえ……」
「お?」
「こやって侑士の胸に抱かれてると、事実、そうかもなあって思うよ」
「おお、ええこと言うやん」
「だって太るのってすごくネガティブな事件なのに、幸せだもんなあ。気にならないっていうか、気にしろって話だけど、なーんか、どうでもいいっていうか。昔は1kgも気にしてたんだけどな」
「ん、幸せ太りってやつやな」
「それはやっぱり、愛があるから、それでどうでもよくなっちゃってるってことなのかなと」
「わかったか?ほな明日、後輩に教えたり」
「うーん、やっぱり引かれそう。ははは」
「はははーちゃうわ」

憎たらしくて愛しい唇をもう一度塞いだ。
こそばゆい笑い声がだんだん消えて、ゆるやかな波を互いが求める……なんちゅう愛しい夜やろう。

「な、引かれてもやっぱり教えたり」
「ふふっ。うん。今、わたしも同じこと考えてた」

せやろ?
結局のとこ、な。

――愛さえあれば、それでええねん。





















fin.



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