no joke








「伊織か…?」

<手塚くん!…今…到着したの?>


「ああ、今、空港に着いた」

<私、もう部屋にね…>


「ああ、今すぐ帰る。そこで待っていてくれ」

<うん…!>













no joke













高校を卒業して、すぐにプロに転向した俺をずっと支えていてくれたのは、俺のひとつ下の後輩の、伊織だった…。

学生の頃に彼女に出会い、青学のマネージャーとして働いてくれていた彼女と気持ちが通じ合えたのは、ほんの一年前のことだ…。


学生の時とは格段に違い、プロの世界は厳しい。

俺はその厳しさを超える為に 幾度となく海外遠征へ行く。

そうした忙しい日常の中で ほぼ遠距離をしているような状態の俺達は、恋人としての時間を二人で共有できることは滅多に無い…。

こんなに胸が高鳴るのは…紛れも無く伊織の存在がそうさせている…


俺は…三ヶ月ぶりにお前に会える今日を きっとお前よりも…楽しみにしていた。


「手塚くん…っ!」


俺の住むマンションで今日だけ待つ伊織に俺はすぐにでも会いたかった。

その想いでチャイムも鳴らさないままに鍵を開けて中に入ると、その音に気付いたのか伊織はリビングから大きな音を立てて俺に向かって飛びついてきた。


「伊織…久しぶりだな」

「…会いたかった…手塚くん…」

「ああ。俺もだ」


久しぶりに触れた伊織の温もりが俺の寂しくしていた心を癒す。

力強く抱きしめると壊れてしまいそうな肩を俺の腕の中に包んで、伊織が今ここにいるという事を暫くそのまま確かめてから、俺はそっと胸に顔を埋める伊織を見つめて静かにキスをした。

触れる唇が熱を持って、音を立てているかのように脈を打つ。

その唇をそっと離すと、伊織はまた俺の首に手を回してぎゅっと抱きつき、可愛らしい声を出した。


「ねぇ手塚くん、帰ってきて早々悪いんだけど…買い物に行かない?…」

「ん…?ああ、夕食のか?」


「うん!!手塚くんが帰ってから、好きな物作ってあげたくて…一緒に買い物するのも、なんか、いいかなって…疲れてるのに…ごめんね?」

「いや、構わない。それなら、すぐに行こう」


良かった!そう言って嬉しそうに微笑む伊織を見て、俺も思わず微笑んだ。

いつも表情が硬いと言われている俺がこうして自然に笑うのはきっと伊織の前だけなんだろうと、いつだったか、唯一俺達の関係を知っている不二に言われたことがある。


そうだな…自分でもどうかしていると思うくらいに……俺は…伊織のことを想っているようだ……。





* *




「伊織、これを頭から羽織っていろ」

「でも、手塚くんが…!」


「俺はいい。…しかしまずいな…本降りだ…伊織、走れるか?」

「う、うん!」


買い物を終えて外へ出ると突然、それまで晴れていた夜空から雨が降ってきた。

それは小雨から本降りへと変わり、俺達は急いでマンションへと向かった。

そうして玄関を開けた時にはすでに伊織も俺もずぶ濡れになっていた。

これでは風邪を拗らしてしまうかもしれない…。


「…伊織、風呂は?」

「うん、手塚くんが帰ってくる前に入れておいたよ」

「ならすぐに入れ」

「えっ手塚くんは…?」

「俺は後でいい。…体を拭いてお前が出てくるのを待つ」

「そんな!手塚くんのほうが大事な体なんだから!ダメだよ!そんなの!きゃっ!」

「危ない!」


俺に抗議した伊織が、その雨のせいで靴を滑らせそのまま俺の胸に倒れてきた。

俺は咄嗟に伊織の体を、そのまま玄関口の廊下へ座るようにして受け止めた。

水の弾く音が俺の胸で聞こえた時に俺がその背中を抱きしめると、冷えた体に服が張り付いていて、その白い肌が妖艶に透けている…。


この肌に触れて…今すぐにでも…お前を抱きたいと思う俺は…おかしいだろうか?


「大丈夫か?…」

「うん…ねぇ手塚くん…い、一緒じゃ…ダメかな…?」


「…いいのか…?」

「うん…」


恥ずかしそうにそう言いながら、伊織はすっと立ってバスルームへと向かった。

そのまま俺も立ち上がり、伊織の後へ続いて、その場へ向かう。

脱衣所で俺の視線を気にしながら伊織は背中を向けたまま俺に言った。


「先に…手塚くん、入ってて」

「…どうしてだ?」


「そ…そんなこと知らなくていいから、とにかく!!」

「?…わかった」


伊織に言われるがままに俺は先に風呂場へと向かった。

湯船の中へゆっくりと入り、冷えた身体を温める。


久々にこうして自分の家の風呂に浸かるのは、思った以上に落ち着くものだな…。


「手塚くん…入るね…」


バスルームの外から聞こえてきた伊織の声に俺は、ああ、と返事をした。

人一倍、恥ずかしがりである伊織の事を考えるとこの状態が奇異だと感じた。


振り向かずにこのまま背を向けた状態で居てやろう…。


そう思って動かずに居た俺の後ろから、伊織は入浴剤を放り込む。


「やっぱりちょっと…恥ずかしいから…」


そう呟いて、ばしゃばしゃと湯船に手を突っ込んで掻き回す。

次第にお湯は透明から乳白色に代わり、それを確認すると、伊織がゆっくりと湯船に浸かってきた。


暖かい、気持ちいい。そう言って俺に微笑んでは、時折顔を赤くする。


お前のそのままの姿を…俺だけのものにしたい…


ついさっき伊織に久々に会い…次第にこみ上げてくる俺自身の欲望がどんどん迫ってきていた。


「それにしても…ここのお風呂は嘘みたいに広いよねー」

「ああ…そうだな…実家よりも広い」


向かい合っている俺から距離を置いて、天井を見上げながら伊織が感心したように言う。


「鏡も大きいし…ふふっ…手塚くんに似合わず、まるでラブホテルみたいね」

「………そうなのか?」

「うん、ラブホテルって大きな鏡があったりして、それでこれくらいの広さのお風呂があって、後は大きなサイズのベッドがあってね…って…手塚…くん…?」


伊織がそうして話している間、俺はゆっくりと伊織に近付いて、バスタブの脇に乗せてある伊織の手にそっと触れ、そのままゆっくり俺の目の前に持ってきた。


「……やけに詳しいんだな………」

「えっ…」


俺はその手の甲に唇を寄せて、伊織の目を見つめた。


「この状況で、俺にそうして嫉妬させて…一体お前はどうして欲しいんだ…?」

「えっ…!ち、違うよ手塚くん!私は、TVで見て…!!」

「そんなことだろうと思ったが…もう遅いな…」


一瞬でもお前の過去を俺以外の男との想像をさせた俺の醜い嫉妬心が、もう制御できないところまで来ているようだ…


「ひゃっ」

「……」


伊織の手を自分の方へ強引に引き寄せ、ゆっくりと互いの吐息が混ざり合うかのように近づくと、俺の唇を伊織のその唇に掠める様に重ねた。

啄ばむ様な優しい口付けから、徐々にそれは激しさを増す。


「んっ…て…手塚く…」


俺の突然の行為に驚きながらも、それに答える伊織の唇が開く。

俺はそれを見て、その唇を割るように舌を入れて絡ませた。 

お互いの身体が少し揺れるせいか、その度にお湯が音を立てる。


「んっ…ふっ…」


悩ましい伊織の声がこだまして、俺の理性は完全に制御出来なくなってしまった。

そうして伊織の身体を持ち上げて壁際のバスタブの脇へと座らせると、俺は伊織の首筋へと舌を這わせ、少しだが、きつく吸い上げた。


「手塚く…あっ…」

「もっとその声を聞きたい…」


俺は耳元でそう言ってからそのまま胸の膨らみを包んだ。

指の間にある突起を挟みながらゆっくりと円を書くように愛撫し、その胸元へ舌を滑らせ、そのままそこを、またきつく吸い上げる。


「あっ…あん…」

「相変わらず…お前は綺麗だな…」


やがて舌を滑らせながら、今度はその突起を口へ含んでゆっくりと転がす。

伊織の身体がその先端に触れる度に 敏感に反応していた。

俺はその酔っているような伊織の目を見つめ、もう一度深く口付けた後、彼女の秘部へと頭を落とし、その脚をゆっくりと開かせた。


「あっやっ…恥ずかしいっ!!…」

「伊織…お前の全てを愛している…だから…」


そう言い、俺はゆっくりとその先端に舌を転がした。


「あっ…んっ…!!」


伊織の身体が小刻みに震えはじめた。

俺はすっと手を伸ばして、その震えている脚を下から持ち上げて支えた。


「手塚く…そんな…あ…見ないで…」

「綺麗だ…伊織…」

「だめ…あっ…んんっ!」


ピチャピチャと卑猥な音が浴室中に響き渡る。

執拗に攻めながら伊織を見上げると、その音に顔を赤らめ唇をぎゅっと瞑っていた。


「やっ…はぁっ…あ…手塚くん…もう…ああっ…」


俺の舌に伊織の甘い蜜が絡まってそれをすくうように何度も転がす。

やがて堪えきれなくなったそれは痙攣し、伊織は俺を拒むように思わず脚を閉じようとする。

俺はそれをさらに拒み、果てたばかりの伊織の中へゆっくりと指を侵入させようとした。


「いやっ…手塚くんっ…もうっ…」

「だめだ…もっと…お前のその顔が見たい…」


果てた時のお前の表情が…俺の欲望を駆り立てる。

…懸命に瞑っていた唇が気が抜けたようにぱっと開いて、その顔が酷く色っぽい…。


「あっ…そんなに…動かさないで…ああっ!あんっ…!」


今、痙攣したばかりの伊織のそれはクチュクチュと音を響かせて俺の指を離さまいと熱く、きつく締め上げる。

くるくると俺がその二本の指を掻き回すと伊織は耐えれないのか俺の首に手をまわして、しがみついてきた。

そんな伊織が…俺には狂おしいくらいに愛しく……

…俺はそのまま舌を出して伊織の乳房に口付け、その突起を舌で回した。

すると俺の首にかかっている伊織の手に力が入り、少し身体を離すと、目を細めて切ない表情で俺を見上げてキスをねだる。

その表情を見て、俺は激しく食いちぎるようなキスを落とした。


「んっんんっ…んっんっ…」


伊織は苦しそうに喘ぎ、その腰を時折、無意識に動かす。

その姿にすっかり欲情している俺自身に、伊織の手がそっと触れてきた。


「んっ…はぁ…伊織…」

「ぁあんっ…手…塚くん…」


伊織はその手をゆっくりと滑らせ、奥に手前にと上下させる。

その時に体中に走った快感が…俺を堪えきれなくさせた。

俺は乱暴に伊織を抱えて立たせると反対を向けさせるようにして、その綺麗な背中に舌を這わせながら、後ろから胸を掴んで愛撫した。


「あ…はぁ…ん…」

「伊織…もう…」

「ん…来て…手塚くん…」


その声を合図にして俺は自身の根元を握り、それを伊織の蜜にまとわり付かせてから伊織の秘部に擦り付けた。

ヌチャヌチャと卑猥な水音が浴室中に響き渡るのと共に、固くて熱い俺自身をそのまま中へと―――――――






















―――――――――その時


「おかしいな…玄関が開いてるってことは、居るはずなのに…」

「おーぃ、手塚〜?いにゃいの〜?」

「…あ、風呂かな??」



バタンッ



聞きなれた声がして、俺も伊織も一瞬にして硬直する。


≪手塚くん…今の声…≫

≪…あいつらだ…≫


≪…どうしよ…≫

≪………≫


この膨れ上がった情熱を俺にはどうすることも出来ず、だがあいつらがそこにいる今となっては、もうこの先へ進むことなどそれこそ出来はしない…。

俺は伊織から手を離し、少し冷えてしまった彼女の身体を湯船の中へ浸からせてから腰にタオルを巻き、あいつらの相手をするべくそのまま風呂からあがった。



「あっ!手塚〜!やっぱり風呂だったのか?」

「何のつもりだ?ここは俺の家だぞ。勝手に…」

「だって開いてたんだもんね〜、大石♪」

「ああ、玄関、開きっぱなしだったぞ。手塚にしてはちょっと油断しすぎじゃないのか?はははっ」

「帰れ」

「え…手塚、何怒ってるにゃ…?」

「いいから今すぐ帰れ」

「それはないだろ手塚!久々に帰ってきたっておばさんから聞いて、ほら、こうしてメシも買ってきたんだ!英二も俺も、お前に会うの楽しみにしてたんだぞ!」

「…お前達な…人の迷惑を…」

「あー!手塚、これって、ウィンブルドンの!?」

「本当か英二!その写真、俺にも見せてくれよ!!」


俺が二人と話をしている間に伊織は二人の死角を狙い寝室へ向かった。

俺は適当に着替えになるものを寝室へ持って行き、伊織はそれに着替えると何事もなかったかのように出て来、そして俺達の関係をまだ知らない二人に説明した。

だが………。


その発表に驚いてはいたものの、あいつらは気を使うことなく午前になるまで帰らなかった。

伊織は疲れたのか、そのままソファで眠ってしまい…俺は伊織を抱えて胸に抱き、そのまま貴重な一日を明けさせてしまった……。


伊織…お前を最後まで…抱きたかった…。


あいつらは…今度グランド300周だな…。





















fin.
Count Number 7900:Request from M様



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