きみが慾しい_03


君を見守ることが、僕の役目だと思っていた。

もちろん、それだけの関係になんてなりたくなかったけど。

でも、今の僕にはそれが限界だって知っていたから。

だけどね……もう、見守るだけなんて……耐えれそうにない。













きみが慾しい












3.





「不二?」

「……僕、ここ一週間ちゃんと練習出てるはずなんだけどな」


「あのねえ、あたしは手塚経由じゃないと不二に会いに来ないわけじゃないんだよ?」

「じゃあどうしたの?宿題でも忘れた?」


僕の真横で両手を腰に当てている吉井を見上げると、彼女は口を捻じ曲げた。

意地悪な僕の返答が図星だったのか、少し赤くなっている。


「……不二ってエスパー」


エスパーと言いながら、吉井が指差している古文のノートをそのまま手渡した。

吉井は理数系だから、古文の宿題を忘れてしまった時は大抵僕に頼ってくる。

古文の担当教師が一緒だと、こんな利点があるんだねと、嬉しそうに言っていたのを思い出した。


「ふふ。君との付き合いは長いからね」


本当は笑うのも疲れるくらいに毎日悩んでいるんだけど、笑ってないと益々落ち込んでしまいそうで。

そんな僕を見て何か気付いたのか、吉井は空いている隣の席に腰を下ろして僕に身を乗り出してきた。


「ノート、次終わったら返すね。いつもありがとう。……ところで不二、何か悩んでるなら、聞くよ?」

「想像ついてるくせに、意地悪だね」


「不二に言われたくないなあ」

「そうだね…………佐久間のことだよ」


「わかってる」

「そうだよね……」


いつもの調子で吉井と話してると、僕は自然と饒舌になる。

彼女は僕から話を引き出すのがうまい。

それはもしかしたら、彼女がいつも本当に親身になってくれるから、僕が甘えている証拠なのかもしれない。


「仁王に会いに行ったんだよ。それはこないだ話したよね?」

「うん。あれから一週間だね。そういえば、その結果報告聞いてなかった」


「……佐久間にも、言えてないんだ」

「……ああ……なるほど。さすが、プレイボーイだね……立海の仁王ともなると」


「いや……それなら僕も、こんなにショックじゃない……」

「え?」


どういうこと?と言う台詞をそのまま僕に投げかけるように、吉井は首を傾げて僕を見た。

僕は見たままを話した。

仁王は本気であの彼女を想っているように見えた。

佐久間と付き合ってた時と、同じ顔をしていたから。

おかげで僕は、結局佐久間にその事実を伝えることが出来ないまま、一週間を過ごしてる。

どうしていいかわからなかった。伝えて、佐久間が辛くなるのを、僕は見たくない。

でもそれが、僕のエゴだってこともわかってる。


「……でもいつかは、伝えなきゃ」


気付けば、僕の話を黙って聞いていた吉井が、思いつめたような顔をして僕を見ていた。

それに答えるように、僕はすぐさま頷いて。


「わかってるよ……もうそろそろ、限界だってことも。バイト先で佐久間の顔見てたらね、早く知りたいって表情で僕を見てるんだ。でもそれは、期待の色なんだ。だから余計に、僕は逃げちゃうんだ……」

「でも不二、同時にそれって、チャンスだよね?」


「……そうなんだけど……どうしてだろうね。仁王が今の彼女と仲良くしているのを見た時、僕は……すごくショックだった」

「あ……」


きっと、「はあ?」と返されると思っていた吉井からの答えは、何かに気付いたような間の抜けた声。

思わず、今度は僕が「え?」と返してしまった。


「あ、ううん……なんかその気持ち、わかる気がするかなー……って……」

「……本当?」

「うん、……最初から要らないなら、自分にちょうだいって思っちゃうよね。あの人の心、あたしにちょうだいって……わたしもそんな恋、したことあるから」


そう言ったまま吉井は俯いて、「ごめん、なんか暗いね」とすぐに笑顔を向けた。

吉井が僕にそんな表情を見せたことなんか一度も無くて。

一瞬、肌に纏わりつくような焦燥感を覚えた。


「ねえ吉井……いつも僕、聞いてもらってるばっかりで……吉井も何か相談あるなら……」

「あ、全然ないから大丈夫!ご心配には及びません。ああ、それとね、手塚が昼休憩の時に来てくれって言ってた。じゃね!」


僕の言葉を遮った吉井は、手を振って教室を出て行った。

僕はその吉井の後姿に、少しだけ、引っかかるものを感じていた。




* *




それから約二時間後。


「手塚、どうかした?」

「ああ、不二。少し相談がある」


吉井に言われたとおり、僕は昼休み、手塚の教室へ行った。

昔からそうだけど、彼は相変わらず、何かと忙しそうな人だといつも思う。

今だって、内容の違うプリント用紙を3枚机の上に乗せて睨めっこしている。


「実は都大会前に、立海と練習試合をしたいと思っているんだが」

「立海……」


手塚の口から出た立海という言葉に、僕は敏感に反応した。

もしかしたら……三年前の全国大会のように、僕と仁王が当たる可能性もある。


「ああ。実は大石からは反対されてな。都大会前に無茶したメンバーが故障でもしたらと……」

「いいんじゃないかな」


手塚の言葉を遮って、僕はそう答えた。


「……即答だな」

「うん……大石の意見に背くようで申し訳ないけど、練習試合の立海相手に故障するようじゃ、どのみち都大会で通用しないよ。都大会には氷帝も、それから立海もいる。大会前に彼らを知っておくのはいい機会だよ。相手が立海なら、不足なしってとこじゃないかな」


「……いい眼光をしているな、不二」

「ふふ。相手が立海だからね。やる気も出るよ。あ、練習試合の申込書、作っておいて。僕が放課後、立海に届けに行くよ」


僕がちゃっかりそう言うと、手塚は僕をじっと見つめた。

何か見透かされていそうで、少しぞくっとする。


「……了解した」

「じゃあ、放課後……」


「不二」

「え?」


そっと彼の机から離れようとした僕に、重たい声で手塚は僕の名前を呼んだ。

振り向けば、手塚の視線は机の上にある3枚のプリントに落ちたまま。


「……熱くなりすぎるな」


手塚からの助言とも言えるその言葉に、はっとしたのは刹那。

煤けた僕の心の中に……それが届くことはなかった――――。










手塚から渡された申込書を持って、僕は直接仁王に会おうと思った。

本来、これは幸村に渡すべきものだけど、僕はどうしてか、もう一度仁王を見たかった。

彼女と、二人でいる仁王を……その表情を。

もっと冷静な気持ちで、彼を観察しようと思った。


ところが立海へ向かう途中の氷帝学園近くで、僕は当の本人達を見かけた。

二人の様子はどことなく暗くて、だけど喧嘩した様子もない。

ならばそのまま声を掛けようかと思ったけど、それは躊躇われる程に、二人の距離は密接していた。

ギリギリと、体が痺れるような感覚が僕を襲う。

その矛盾している感情に僕自身戸惑いながら、僕は黙って二人の後を追った。


するとやがて、仁王の自宅に到着した二人は名残惜しい顔をしながらキスを交わして。

仁王は優しく微笑んで彼女の頭を撫でると、小さく手を振る彼女に同じように手を振って家の中に入って行った。

気まぐれな男だな、と心の中で罵る。

何故かはわからないけど、いつもは彼女を家まで送っている仁王の姿を思い浮かべたせいで。

いや、きっとそうしてるはずだ……今日はたまたま、送らなかっただけだろう。


「こんにちは」


僕は自分で思っているよりも醜いんだと、このとき確信めいた気持ちを頭に浮かばせた。

彼女に話しかけてどうこうしたかったわけじゃない。

でも幸せそうな彼女を見ていると、佐久間が可哀想でならなかった。

だから頭で考えるよりも先に、僕の体が、勝手に動いていた。


「あの、こんにちは」

「え!あ、え?」


僕が背後から話しかけたとき、彼女は考え事をしていたのか、僕の声に気が付かないように歩いた。

もう一度声をかけると、こっちが驚いてしまうくらいに驚いて、僕をまじまじと見てきた。

初めてじっくりと見た彼女は、素直に可愛いと言える顔つきで。


「仁王に話しかけようと思ったんだけど、なんだか掛けそびれちゃったから……あ、さっき、君が仁王と歩いてるとこ見て……ごめんね、いきなり」

「え……あ、えっと、雅治の友達?」


僕は怪しまれないように、彼女に話しかけた。

どうしようなんて考えてなかった。

ただ、仁王の表情を見たいと思っていた最初の思いを、僕はすっかり忘れていた。

忘れていて、僕は彼女の表情を見てやろうと思った。

何故だか、まるで僕が仁王に恋してるみたいに、悔しかったから。


「僕、不二周助って言うんだ。仁王に聞いてくれたらわかるはず」


僕の名前を聞いて、ぼんやりとした彼女は、どこかで僕を思い出そうとしているように見えた。

仁王の彼女なら、僕の名前を知っていたとしても、別段不思議はない。

知っていてくれた方がやりやすい……そんな気さえして、僕はわざと馴れ馴れしくする。

仁王にこのことを話してくれたって、構わない。寧ろ、そうすればいい。


「仁王と付き合ってるの?」

「え……あ、はい……」


「ああ、じゃあ丁度良かった……仁王と最近会えないから電話もしてみたんだけど、なんか彼、忙しいみたいでね……これ、うちの部長から」

「ぶちょ……?」


「うん、テニスやってるんだ」

「あ、なる……あ、そうだよね、テニスバック!」


僕のテニスバックに気付いた彼女は、嬉しそうに手を合わせて笑った。

笑うと彼女の可愛らしい顔は無邪気さを増してあどけない美しさを見え隠れさせた。

でもそんなの、佐久間の足元にも及ばない。

君が佐久間よりもいいなんて、僕には思えない。


「仁王といつから付き合ってるの?」

「え?……あ、えっと、もうすぐ一ヶ月……」


「へえ、そうなんだ。全然知らなかったな……仁王のこと、好き?」

「え?……あ、そ、もちろん、大好き……なんて」


一ヶ月で、仁王のことをわかったような気になっているその仕草――。

僕の心の醜さはそうして彼女が笑顔を見せる度に増していって、遂には、彼女の口から出た「大好き」という照れ隠しの小声を衝動として、彼女を黙らせる結果となった。


「そう……」


彼女を傷つけたって、何の解決にもならないって、わかっていたのに。


「今、彼が他の人を抱いていても?」


一瞬で笑顔を消した彼女の顔を見た時、どこかで僕は満足して……すぐに、その場を立ち去った。























「不二くんおはよ!」

「おはよう佐久間、今日もギリギリだね」


「やー、言わないで言わないで」

「ふふ。言わない言わない。内緒にしててあげる」


――――僕はそれで気が済んだか?……済むわけなかった。

彼女が悪いわけじゃないのに……いや、仁王だって……別に悪いわけじゃない。

なのに僕は、あの二人の幸せを壊そうとした。

佐久間がそうして欲しいと願ったわけでもないのに、僕は勝手に、僕の中の正義を作ってしまった。

そのエゴイズムが、僕をさっきから苦しめていた。自業自得だ。


「どうかした不二くん?なんか、元気ない?」

「え……そう?」

「うん、気のせい……かな?」


佐久間はあれから、僕を焦らせないようにといつも笑顔を向けてくれていた。

催促したくても我慢している彼女を見ていると、やっぱりもう限界だと気付く。

ただでさえ、最初の相談を受けてから一ヶ月近くが過ぎようとしている。

いくら佐久間でも、もう我慢の限界が近いはずだ。

彼女の口から言わせるようなこと、しちゃいけない。

ロッカーに消えていく佐久間の後について、僕は率直に伝えた。


「ねえ佐久間」

「うん?」

「こないだ、立海に行って来たよ」


はっと息を呑むような顔をした佐久間は、そんな自分に気付いたのか、取り繕うように僕から視線を外した。

待っていた答えなのに、聞くのが怖い。

佐久間の表情がそう物語っていて、僕は今言うべきだと覚悟を決める。

終わった後でゆっくりなんて、そんな話じゃないから。

言うべきことは、すぐに終わってしまうことだから。


「仁王、新しい彼女がいたよ」

「……ッ……そ……そっか…………」


言った瞬間、佐久間の体が少しだけ震えたように見えた。

搾り出すような声で、なーんだ、というような言い方をする。

芝居が下手な女優みたいで、僕はそんな佐久間を見ているだけで、胸が締め付けられる。


「遅くなってごめんね」


それしか言えなくて、僕が背中を向けてロッカーを出て行く直前。

佐久間は僕の背中に向かって、独り言のように呟いた。


「そうじゃないかなって……思ってたんだ」


消えそうな声だった。

自分を責めているようにも聞こえた。

僕には、そんな佐久間を振り返る勇気が無くて、聞こえないフリして、扉を閉じた。











あれから三日が過ぎた土曜日……部活が休みだった僕は、部屋の掃除をしていた。

せめてバイトが終わった時に言うべきだったんじゃないかってすぐに後悔した僕を慰めるように、佐久間は驚くくらいいつもと変わらない様子でバイトをこなして、僕とも普通に会話した。

そんな佐久間に、今度は僕が落ち込んでしまいそうだった。


「周助ー」

「なあに姉さん」


部屋の掃除は密かにストレス発散が出来ると、僕は思っていて。

そんな僕を呆れるように見ていた掃除が苦手な姉さんが、仕事前に甘えた声を出してきた。

頼みごとがあると、姉さんはすぐにこんな声を出す。


「悪いんだけど、おつかい頼まれてくれない?今日仕事遅くなりそうなんだ」

「それは、飲み会、の間違いじゃない?」


「……これと、これね。間違えないように!お願いしまーす!」

「いってらっしゃい……」


僕の鋭い指摘に一瞬も顔を歪めなかった姉さんはすっかり僕の言葉を無視して行ってしまった。

そんな姉さんの後ろ姿を見て苦笑した僕は、メモされた紙を見てジーンズのポケットに突っ込んだ。

早速ジャケットを羽織る。

ちょうど外の空気が吸いたいと思っていたから、好都合だった。


外に出ると、雲ひとつない青空が広がっていた。

あまりに天気がいいと、やっぱりテニスをしたくなる。

こんな日に部活が休みなんて残念だと思いながら買い物を済ませて、家路についている頃だった。

僕の携帯がメールの受信を知らせていた。佐久間からだった。


――雅治の新しい彼女って、髪の、長い人?


その質問に、僕は胸騒ぎを覚えた。

確かに、仁王の彼女は髪が長い。

でもどうして、佐久間がそんなこと聞いてくるんだ。

佐久間はそれを知りたいんじゃなくて、知った上で、確かめようとしてるんじゃないのか。


――ねえ、今どこにいるの?


その答えは返ってこないまま、僕は焦れて佐久間に電話をしたけれど、出てはもらえなかった。

あるとしたら、僕の中でひとつの光景が浮かぶ。

僕は姉さんから頼まれた荷物を玄関に置いたまま、急いで仁王の家に向かった。

青空に似つかわしくない静寂の暗雲が、僕の心の中に広がっていた。











*  *









「佐久間!」

「!……ふ……不二くん……」


「何してるの?帰ろう?」

「帰らない、雅治と、話すの」


仁王の家の近くにある公園に、佐久間は居た。

ブランコに座って、携帯を見ていた佐久間に僕が声をかけると、佐久間はすぐに僕に振り返って、首を振った。

いやいやをしている、子供みたいに。


「話してどうするの?ねえ、どうしてここへ来たの?」

「雅治と、話したくて……」


「違うでしょう?彼女、見てみたかったんじゃないの?」

「それもあるけど、でも、ちゃんと、雅治と話したくて」


すでに目が潤んでいる佐久間は、興奮状態にあるように見えた。

やっぱり無理していたんだと思った僕は、自分の鈍感さと無力さに吐き気がした。

あんなに仁王が好きでたまらないと言っていた佐久間が、新しい彼女の存在を聞いて普通でいれるはずがないじゃないか。


「何を話すの?こんなことしたら、逆効果だよ?」

「どうして?不二くんどうして、そんなこと言うの?雅治と、話したいだけなの。わたし、雅治と……」

「わかってる、わかってるよ。じゃあ、僕がその機会を作るから、今日は帰ろう?ね?」


顔を真っ赤にして僕に反抗した佐久間を、僕は必死になって宥めようとした。

でも佐久間は、今までに見たこと無いくらい取り乱していて、その手は少しだけ、震えていた。

寒さのせいだけじゃないって、僕にはわかる。


「帰らない、帰りたくな――あ……」


その時、佐久間が僕の後ろ側を見て、何かを見つけたように声をあげた。

心臓が脈打って、僕を硬直させる。

気付いた時には佐久間はもう走り出して、僕はそれを無駄だとわかっていても追いかけた。


「雅治!」


手を繋いで出てきた仁王と彼女に向かって、佐久間は大きな声でそう言って近づいた。

仁王は黙って佐久間を見て、目を見開いている。

同じように、仁王の彼女も佐久間を呆然と見ていた。

そして、後ろから来た僕に気付いて、仁王の彼女が声をあげた。


「……あなた……不二……くん……」


僕を見てそう呟いた彼女に、仁王はすぐに顔を向けた。

何も言わずとも、彼女が僕を知っている経緯を、仁王は知らないことが伺えた。

でもその様子が目に入っていない佐久間は、走ったせいもあって、仁王を見て息切れを起こしていた。


「ま、雅治……わたし、あなたと二人で、話したいことが――」

「――無理じゃ」

「……ッ」


佐久間は、きっと冷静になろうと必死だった。

努めて冷静な声と、表情で、低姿勢だった。

それを仁王は、最後まで聞かないまま、あっさりと切り捨てた。


「どういうことかは知らんが……」言いながら、僕をチラリと睨むように見た仁王は続けた。

「もうこんな真似せんでくれ。俺はお前と話すことは無い」


冷たすぎる視線を佐久間に投げて、仁王は彼女と繋いだ手をそのままにして。

戸惑う彼女を引っ張るように、背中を向けて歩いて行った。

手を引かれた彼女は何か仁王に言っているようだったけれど、僕にはそんなこと、もうどうでも良かった。


「雅治……嫌だ……嘘でしょ……」


佐久間に綺麗な頬に、次から次へと涙が零れ堕ちていく。

うわ言のように仁王の名前を呼ぶ佐久間を、僕は直視することが出来なくて。


「……ッ……不二く……」

「……ごめん、見てられない……」


衝動で掴んだ手首を引き寄せて、佐久間を、抱きしめていた。

初めて触れた佐久間の体は、僕が思っていたよりもずっと小さくて。

凍えてるみたいに震えてて……その振動を感じて、僕は耐えれなくて、強く、強く抱きしめた。


「不二く……不二……くん……ッ」


堰を切ったように泣き始めた佐久間の頭に、僕は頬を摺り寄せるように顔を埋めて。

ずっと隠してきた僕の気持ちも、堰を切ったように氾濫しはじめていた。


「仁王じゃなきゃ、ダメなの……?」


泣いていた佐久間が、僕の声に反応する。

少しだけ肩を揺らした佐久間を無視して、僕は続けた。続けたかった。


「僕が君のこと、守るから……お願い……」


僕のものに、なって――――。





to be continue...

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