ファットボーイ&ファットガール_12




「う、……ちょ、わたし、ど……っ」

「……ん?」


「どうしてたら……いいのかなって……」

「思うままに、感じてくれたらいいけど……?」















ファットボーイ&ファットガール














12.





なに?今の、カッコ良さげなセリフ……。

今のブン太が言ったの?

この、(普段は)デリカシーの無いブン太が?


「それって……どう……」

「シー。あんま喋ると、ムードないだろぃ?」

「ご……ごめ」


ゆっくりと押し倒されていく中で、すでにわたしはパニックだった。

わたしの額にキスした後、鼻先にキスして、目尻にキスして、次はどこかと思ったら、ブン太は手を握ってきた。

絶対がっついてきていきなりおっぱい掴まれると思ってたわたしは、わたしの体温を確かめるように手を重ねてきたブン太に目を見開く。

仰向けのわたしと、ベッドに腰をかけたままでわたしを見下ろすブン太。

どうして手を握られているだけなのに、こんなにゾクゾクするんだろう。


「ブン太……?」

「ん?」


「……し、しないの?」

「ううん、するよ……けど、ちょっとおまじない」


「おまじない?」

「うん。俺が伊織のこと、一生懸命愛すから、それが全部全部、伊織に伝わりますようにって」


「……ッ」

「まあ……緊張、してんのもあっけどな」


照れたように笑ったブン太は、そうしてゆっくり手を離した。

離れたブン太の両手はわたしの頬を包んでいく。

ごくごく小さな声で、好き、と呟くブン太に何故だか泣きそうになる。

確かめるように丁寧に落とされたキスは、今までのどんなキスよりも柔らかくて、愛されている気がした。


「伊織……」

「うん?」


「怖い?」

「ううん……平気」


「少し落ち着いてくれた?」

「うん」


「じゃあ、俺もう我慢出来ないから……けど、やだなって思うことあったら、言えよな?」

「うん……ありがと」


シャツの中に、ブン太の熱い手の感触が入ってきた。

お腹を撫でるようにして、ずるずると上に捲り上げられていく。

クーラーの風を素肌に感じて、なのに熱くなっていく体がおかしな浮遊感をまとっているみたいだった。

首筋に唇を押し当てられながら、気が付けば、下着の上から胸を包まれていた。

でもそれが、思っていたよりも優しくて。

気を遣って、優しくしてくれているんだなとわかる。なんて愛しいんだろう。


「超……やわらけ」

「そ、そうなの?」


「ん……気持ちよくない?」

「さ、触られてるって感じ……かな」


「じゃあ、こうしたら?」

「ッ……!、んっ……あ」


布を一枚隔てた上から、爪を立てるようにしたブン太の指先が先端に感じられて、ズクッと体の奥が凝縮されたような気分を味わう。

体感したことのない心地良さが声に出て、少し恥ずかしい気持ちになった。


「……やべ……超かわい……」

「ハ、ァ……き、もちいい……と、思う」


「ふふっ……うん、嬉しい」

「ぁ、……ん」


でもそんなわたしをかわいいと言ってくれるブン太が、またキスを落としてくれた。

素直な気持ちを、いつもからは考えられないような甘えた声で伝える。

千夏から散々言われていたのだ……気持ちいいときは、恥ずかしがらずにきちんと伝えるべし、と。

でもやっぱり恥ずかしいから、限りなく吐息に近い声で。


「外すな?」

「うん……」


ぱちっと、ホックが外されたのがわかった。

お腹いっぱいに食べて少し苦しくなっていた胸が急に楽になって、だけど今から起こることへの期待と不安で胸がいっぱいだ。ドキドキが全身に流れてる。

そんなわたしに気付く様子もないブン太は、ガッと男らしくTシャツを脱ぎ捨てた。

同じように、わたしの服を下着ごと脱がせる。

万歳の格好のまま、脱がされた後は腕を撫でるように下ろされた。

その手が触れる度に、肌が赤みを増していくのが自分でもわかった。


「可愛い、伊織」

「て、照れる……言われなれて、ないし……」


「もっと可愛いとこ見たい」

「もっとって、ど、どう……」


「もっと、気持ち良さそうにしてるとこ」

「あっ……ぅ、……ん、……」


今度こそダイレクトに、ブン太の手がわたしの胸に触れて、それどころか、ちゅ、と音を立てながら先端を舌で転がされた。

どんな感じなんだろうって、思ってたけど……どうしよう、すごく、気持ちいい。

自然と出る声が恥ずかしくて抑えるけど、それでも体は正直に反応して、身を捩らせる。

今こんな状態で、最後らへんなんてどんなことになっているんだろうと、考えなくてもいいことを考えてしまった。

ブン太がせっかくカッコ良く、思うままにと言ってくれたんだから、素直になればいい?


「ブン太……っ」

「ん?なに、伊織……」


わたしを見つめるブン太の視線が熱くて、とろけそう。

言葉にするのを躊躇っていたら、短いキスをたっぷりと注がれていった。


「……っ、大好き……愛、してる……」

「…………俺も……愛してるよ」































……イキそう。

ずるいって……そんな顔で、甘えた声で、目ぇうるうるさせて、息切らしながら……今日、いまこの瞬間に、初めての「愛してる」はずるいって……伊織……死にそうになる、マジ……。


「ずっと愛してるよ……伊織のこと」

「はぁ……、うん、あっ……」


セックスってこんなだったっけ?

してる最中に、相手のことこんな風に想ったことなんか一度もない。

愛しくて、聞こえてくる控え目な声が可愛くて、愛してるなんて口にするほど気持ちが高ぶったことなんてない。

今までのは、なんだったんだろっつーくらい、頭がふわふわしてる。

眉間に皺を寄せて苦しそうにしてる顔が、どんどん赤くなっていくその肌が、信じられないくらいにドキドキする。

これまでは、ただ、出したいだけだったんだけど……伊織とのセックスは、ただ、愛し合いたい。それだけ。


「ぅ、ん、……ブン太……っ」

「良かった……ちゃんと濡れてる」


「やだっ……恥ずかしいよ……そんなこと言わないでよ……っ」

「だって嬉しいじゃん。こんなの、俺しか知らない伊織だろぃ?」


「あっ……、ぁっ」

「恥ずかしがんなって。も少し、脚、開いて」


伊織のナカ、超あったかい。

触れたとき、愛撫しやすくなるように伊織がちゃんと感じてくれてたのがわかって、ほっとした。

演技だったら笑えねーし、演技じゃなかったとしても、濡れてないのは笑えねー。

だけど俺の中指は、するっと伊織に溶けていった。

動かす度に揺れる伊織の体と、俺を切なそうに見るその視線がたまんねえの。


「ン……んっ、っ」

「……気持ちいい?」


色っぽく僅かに開いてる唇に割って入って、舌を絡め取るようなディープキス。

口を離したら恥ずかしそうに頷いたのが超かわいくて……もう一回、長いキスをした。

あー、俺ってこんなキス出来んだな……こんな優しくて気持ちいいキス、したことあるっけ?

本当に好きな女とする度に、男ってすげー成長すんのかも。

だってこんな優しい気持ちになったことなんかねーし。

相手が気持ち良かろうが良くなかろうが、とにかく俺を気持ちよくしてくれって感じだったもんなー。

最低だな……よく考えたら。


「ブン、太……?」

「うん?」


「なに、ぁっ……ン、か、考えてるの……?」

「え……」


驚いて伊織を見たら、伊織は両手を俺の首に回して、しがみつくように震えた声で言った。


「今は……他のこと、考えちゃヤだよ……」

「……伊織」


一生懸命そう言った伊織が愛しすぎる。

他のこと考えてたわけじゃねーけど、確かに、ちょっと自分の変化に驚きすぎてたかも。

今は自分のことよりも、目の前の伊織のこと、いっぱいいっぱい愛さなきゃ、だよな。


「ごめんな……言い訳すっと、俺、こんな気持ちになったことなくて、ちょっと驚いてたっつーか」

「え?」


「うん……伊織が、ホントに愛しくて、しょうがねえんだなって……っ」

「ひゃっ……あっ、ブン太……っ」


太ももにキスして、閉じようとする脚を広げて、伊織の愛液を吸い上げるようにキスをした。

伊織の声が大きくなって、俺の頭を堪えきれないようにぐしゃっと掴む。


「ブン太、待っ……あっあっ……ん、ハァ……ぅ、ッ……!」

「だめ。待てない。もっと可愛いとこ見たいって、言っただろぃ」


「言ったけど……っ、ン、ぁ、あぁ……ッ……」

「可愛い……もっと、見たい」


もっと感じて欲しいから。

もっとしてやりたい。

もっともっと、伊織を見たい。

俺の知らない伊織の部分、俺しか知らない伊織にしたい。

想いが弾けたみたいになって、俺はただひたすら、伊織を愛した。









びっくりするくらい長い間、見られて一番恥ずかしいところを愛撫された……しかも、口で。

音を立てて愛撫し続けながら、ブン太はわたしの胸も優しく包んで、だけど意地悪に揺らした。

千夏の貸してくれた(厳密には仁王の)DVDのおかげで、あるかもしれないとわかってはいたけど……こんなに長いなんて思ってなくて、しかもこんなに気持ちいいなんて思ってもなかった。

それになにより、ブン太が愛してくれてるのがわかる。

きちんと伝わるから、ただ愛撫されてるって感じじゃなくて。

感情の波が体に伝わったみたいに、わたしはだらしないくらいに声を出した。


「ハァ、ハァ……は、ずかし……」

「良かった?」


「ぅ……うん……気持ち、良かった……」

「ふふっ。もー、超カワイーなお前!」


「わっ……ん……」

「ん……伊織ももっと、舌出して」


突然覆いかぶさってきて、ぎゅっと強く抱きしめてきたブン太が、途端に真面目な顔になってキスをする。

言われた通りに、ブン太からもう一度触れられた唇の間を割って、わたしも舌を積極的に動かした。

ああ……こんなキス、自分からするなんて、相当わたしも……良くなってきちゃってる。


「伊織……」

「ん……」


「も、我慢出来ない……俺」

「うん……きて」


頷いたら、ブン太はわたしの体中にキスしながら下着を脱いだ。

準備を終えると、確かめるようにブン太の熱いモノが入口で彷徨う。


「ちょっと、痛いかもしんねーけど……」

「大丈夫……だと、思う」


「ん……ゆっくり、優しくするから」

「うん」


お互いの意思を確かめ合うように言葉を交わして、言葉にならない部分はキスで誤魔化した。

何度言ってもいい足りない「愛してる」の気持ちは、この瞬間、確かに伝わってくる。


やがて、ゆっくりとブン太が入ってきた。本当にゆっくり。

……正直、痛い。……ものすごく。


「伊織……?」

「う……ん、い、たい……」


「ごめんな?えっと、……力、抜いてみて」

「うん……うう……いったい……」


「えっとじゃあ、あ、深呼吸してみ?ゆっくり、な?」

「うん……すぅ〜〜〜〜はぁ〜〜……」


何度もこんなことを繰り返しながら、ブン太がようやく最後まで入ってきたのはしばらくしてからのことだった。

だけどブン太は、焦らず同じリズムでわたしを愛してくれた。

ただ痛いだけのその行為も、ブン太の気持ちが嬉しくて感動する。


「はっ……あ、……伊織……まだ、痛い?」

「うん……でも、大丈、夫……」


「ごめん……俺……はぁ、はっ……すっげえ気持ちい……も、いっちゃいそ……」

「うん、いいよ……っ、う、……い」


「ごめ……最後ちょっと、優しくなれね……かも……、はぁ……っ、……ん、はっ……!」

「ッ――!」


突然動きが激しくなったブン太が、体をより密着させるように強く抱きしめてきて、耳元で声を荒げた。

吹きかけられる息が熱くて、それが愛しく感じてしまう。

ブン太がわたしを何度も何度も愛してくれた気持ちが、今ならわかる。

好きな人を良くしたいって、少しでも体感すると、その貪欲さが増すんだ、きっと。

次はもっともっと、わたしも積極的にブン太のこと愛したい。


体は痛いのに、心が気持ち良かった。

慣れていけば、どっちも気持ちよくなるのかな……

でも、どうであれこんなに素敵なら、何度抱かれたって……いい。





*





「なあ、伊織さ」

「うん?」


「……そのー……どうだった?」

「えっ」


わたしとブン太が愛し終えた頃には、花火も終わりを迎えようとしていた。

ブン太の腕枕の中で、最後は盛大に打ち上げられている花火たちを見る。

なんて贅沢な夏休みの始まりだろう……と、思ってた矢先。


「どうって……わ、わかんないよ。誰かと比べようがないし」

「バカ、そんなのわかってるって。でも、嫌な気分だったとか、痛いだけで全然良くなかったとか……ぶっちゃっけ、どうかなって」


不安そうにわたしを見るブン太が可愛く見えてきた。

全部マイナスな方向に考えているブン太に、すごい覚悟で挑んでくれたんだなと笑いがこみあげそうになる。


「ぶっちゃけるとさあ」

「お……お、おう」


わざとらしく鼻から溜息をつくように吐いて、不満を漏らす前置きのようにふてぶてしい表情を作った。

ブン太が構えてる。何言われるんだろうって。

あらゆるリスクを想定して、なるべくショックを受けないように準備しているのが伝わる。


「チョー!……痛かった」

「う……うん」


「今も、痛いし、最中はただ、痛いだけだった」

「う……」


しょぼ、と少し頭を下げて視線を逸らす。わたしを見ることなんて出来ないってか。

ああ、やっぱり愛しいなあって思ったら、自然と体が動いていた。


「ッ!……伊織」

「……でも、ブン太が最初で良かった……本当に本当に、良かったって思う。痛いだけでも、心がすごく気持ちよかった。次はきっと、どっちも気持ち良くなれると思うな。わたしも、ブン太のこといっぱいいっぱい、良くしてあげたいって思うし。だから寧ろ、わたしが痛がってばっかりでごめんね?」


上に覆いかぶさるようにしてキスをしてそう言ったら、ブン太は目を丸めて、わたしの言葉に唾を飲み込んで。

どうしたんだろう……ブン太の丸まった瞳が、揺れてる?


「伊織……」

「あはは……ちょっとハズカシー……わっ!」


「ずっとずっと、俺の傍に居てな……ホント、めちゃくちゃ……愛してるから」

「……うん……わたしも…………愛してるよ」


強く強く抱きしめて、わたしの耳元で囁くブン太の声は……ほんの少しだけ、震えていた。






















fin.
≠following link novel
 - Bunta Marui「ファットボーイ&ファットガール」
 - Keigo atobe「love.」
 - Masaharu Nioh「遥か彼方」
 - Syusuke Fuji「きみが慾しい」
 - Yushi Oshitari「Twice.」

recommend>>love._12



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