So pure





見てはいけないものを見てしまった。

知らなければ幸せであったことも、知ってしまえばあとの祭り。













So pure













なんてことない日だった。

いつものように登校して、勉強して、たまにサボって。

友達と騒ぐだけ騒いだら、家に帰ってあとは寝るだけ。

そんな毎日を送っていて、今日だってそうなるはずだった。

それなのに――――……。


帰り道、喫茶店から出て路地裏に視線を向けたわたしの目に入ってきたのは、雅治とやたらと髪がカールしてるOLのキスシーン。

ねばっこくて、いやらしいキス。

くちゃくちゃって音が、こっちまで聞こえてきそうだった。


その瞬間に、わたしを捉えた胸騒ぎ。

あー……今までずっと、誤魔化してきたのに……やっぱりわたしは、雅治が好きなんだ。





* *





「伊織」

「あ、おはよ」


雅治に出会ったのは中学の頃だった。

考えてみればあれから6年の月日が流れてる。

小学校入学して卒業するまで……とよく例えられるこの歳月に、わたしと雅治は着実にお互いの距離を縮めていっていた。

そして今や、大の仲良し。

どういうわけか、お互い恋愛の話だけはしないできている、変な距離感。

だけど、わたしは学校中の誰よりも雅治と仲良しだって自負してる。


――雅治には、この6年、わたしが知る限り女はいなかった。

わたしが知る限りでは……わたしが知ってる範囲なんて、立海の中くらいだ。


「こないだ借りた小説、返しにきた」

「そんなのわざわざ教室まで持ってくることなかったのに」


昨日みたシーンのせいで、雅治が好きだと認識させられたわたしの頭の中は混乱。

ずっとずっと誤魔化してきたんだと自身で理解した時は思わず笑ってしまった。

一瞬、中学三年の頃に、雅治のことを好きなんじゃないかと思った時があったけど。

それは無理矢理、自分の中で消した。

断られて、辛い想いをしたくはなかった。

でも、いつもどこかで想ってた。気付かないフリ、してたけど。

そう、思えばわたしも、6年好きな人がいない……それって、6年ずっと、雅治が好きだったってこと。


「……なんでお前さん、今日はそんなにつんけんしとるんじゃ?」

「え?別に……つんけんしてる?してないよ?」


「ほぅ?」

「ほ?」


雅治の言うとおりだ。

ずっと友情なのだと信じて止まなかった雅治への好意が、愛情だと知った時。

わたしは突然の激しい嫉妬に襲われて、次に雅治に会った時にどうすればいいのかわからないままに朝を迎えた。

その嫉妬の名残……所謂、それが「つんけん」なわけだ。


「くくっ……ま、いつも通りならそれでいい。ああ、小説、面白かった。ちと、イライラする終わり方じゃがのう」

「だよね。わたしもそれ思うの。もうさー、この小説の話を雅治としたくって!この本読んだ人にしか、わたしの気持ちわかってもらえないじゃん?」


「そうじゃの……なら、今日俺ん家来るか?」

「あ、行く行く!ついでに雅治が面白いって言ってた小説、貸して」


今まで彼に対する想いを友情だと思い込めたのは、雅治と恋愛の話をしなかったからだ。

そして……彼がわたしの前で、女といちゃつかなかったからだ。

彼が女といちゃつく相手は、わたしの範囲では、わたしだけだったから。


「おぅ、ええよ。ちと長いがの。じゃあ放課後、迎えに来る」

「はーい!また後でねー!」


必死にいつも通りの自分を取り繕った会話に、雅治が教室を出てった直後に後悔した。

こんな気持ちで雅治の家に行って、ただ小説の話をして帰るのか。

雅治の部屋でふたりきりになったことは何度もある。

だからこそわかる。

今日は、いつものような感情のまま居れるわけがない。

彼のいつも寝ているベッドに、平気な顔して座れるはずもない。

そのベッドを眺めては、わたしはいやらしい想像を膨らませてしまうのに。

―――そんなこと、わかりきってるのに……。

















来てしまった―――。


「伊織、母親が昨日焼いたタルトがあるが、食べるか?」

「わ!タルト超好き!!何タルト?ねぇねぇ何タルト!?」


「おうおう落ち着きんしゃい。アプリコっちゅうて言いよったから、……あんずじゃの」

「あんず……何それむちゃくちゃ美味しそうっ!!」


雅治の部屋はシンプルだ。

でも殺風景じゃない、このインテリアセンスがいい。

気持ちは単純で、今なら、このインテリアセンスが好き、と思える。

雅治が好きだとわかってしまった以上、もう何もかもが「好き」に置き換えられる。

タルトがあると教えてくれて、食べるか?と聞く雅治も。

マフラーと上着をわたしに預けて、ネクタイを緩めながら紅茶を淹れてくれる雅治も。

なんだよ、もうどっぷりじゃん……よく今まで自分のこと誤魔化してたな。

ずっとずっと、好きだったじゃん、わたし……。


「……?どうした伊織、部屋で待っときんしゃい」

「あいや……いや、手伝うよ。雅治が紅茶淹れてくれたから、わたしがお盆持つ!」


「どういう風の吹き回しじゃ……?いつも人の部屋でのうのうとしちょるくせに」

「だっれがのうのうと……してるね、うん、してるわ、わたし」


「じゃろ?」

「はい」


もう言わなくていいから、という意味を込めて手をかざすと、雅治はきゅっと目を細めて笑った。

その笑い声さえも、切なくなる。

昨日見たあの女が、いつもそれを、耳元で聴いてるんだと思うと。


……当然、いつもはのうのうとしていたわたしが、今日に限って雅治の後を追ってお盆を運ぶお手伝いの提案をしたのは、部屋でひとりになりたくなかったからという理由に限られる。

雅治がいないとこじゃ、いつもの友達のような雰囲気を出す自分がいなくなる。

よりによって、雅治の部屋の中でだ。

それによって、女を剥き出しにさせられて、あれこれと考える自分を避けたかった。


「お……うまい……」

「ん!ホント美味しい!雅治のお母さんて料理上手だよねぇ〜」


わたしが運んだお盆から、雅治がそれを小さな丸テーブルに並べて。

ふたりで同時に口に放り込むと、一気に幸せな気持ちになった。


「ははっ……あの時は張り切っとったんじゃろう。伊織のこと彼女じゃって、勘違いしちょったみたいじゃし?」

「え……」


そこで、タルトを刺したフォークが、口に入れる手前で止まってしまった。

なんで、今日という日にそんな話になっちゃうのか。









前に……一年前くらいだ。

雅治の家で遊んで、夜遅くなってしまって。

雅治の両親は、遅くならないと帰って来ない。

たまたま、わたしが帰る時におばさんと鉢合わせたのだ。

その時、ご飯を食べて行ったら?と声をかけてくれた。

中学の頃から雅治の家に出入りしてたわたしに、おばさんはいつも優しかった。

ただ、雅治の家でおばさんの料理をご馳走になるのはその日が初めてで。


「中学ん時からずっと来ちょるから、ずっと彼女じゃと思っちょったらしい。あの日、声かけるのに随分勇気振り絞ったみたいじゃのぅ。で、後からニヤニヤしてきた母親にからかわれた」

「あ……え、じゃああの、その時に、誤解は解けたってこと?」


ふと……その時、雅治がどんな反応をしたのか知りたくて。

思わず聞いてしまった……。

ねぇ、雅治はその誤解、嬉しかった?


「当然。全否定しちょった」

「……あははっ……あー……良かった」


心にも思ってない言葉を出したら、わたしはひとつ、唾を飲んだ。

それをスタートに。

止まっていた手を動かしてタルトを口に入れる。

さくさくという音と一緒に広がる甘い香り。

ビスケットのようなその生地……すごく、美味しくて―――


「……伊織……?」

「……っ……」


なんでだろう、涙がこぼれてしまった。


「……どうした?」

「ごっ……ごめ……美味しいから……」


口に手を当てて、必死に飲み込む。

紅茶は少し冷めていて、喉を潤すには丁度いい温度だった。

雅治の顔は、見ることが出来ない。


きっと、後ろにあるベッドが気になって、その空気がわたしを動かした。

雅治はこの部屋で、あの女を抱いたことがあるんだろうか。

だからだ。だから、涙が出てしまった。

どうしょうもなく好きな人に否定されていた、-彼女-の二文字。

当然だ。わたしは彼女じゃないんだから。

本物の彼女は、昨日、雅治とキスしてた。


「……お前さんはタルトがうまいと涙が出るんか?」

「そ、そう、そういう性癖があるの。病気なの、病気」


「…………伊織」

「頭おかしーの、雅治だって知ってるでしょ」


大きな溜息をついた後に呼ばれた名前……どうしょうもなく切なくて。

誤魔化さないと、この友情に終止符を打つことになってしまうかもしれないと思った。

もしも、わたしが彼のことを「好き」だと彼が知ったら。

終わってしまう……きっと、6年暖めた友情も。

それだけは、避けたいから……わたしは雅治を見た。

しっかりと、合う視線。

雅治の表情は……そう、これにピッタリな言葉がある。「困惑」だ。


「どうしたんじゃ。やっぱり何かあったんか……?」

「何もないよ。ねぇこのタルトわさび入ってない?」


「伊織」

「違う、逆でからしだったりして。え、待って、今の逆ってどういう意味?」


「伊織」

「あ!わかった!豆板醤だ!あいや、豆板醤は辛いだけで涙は出ないね」


「伊織……!」

「…………っ……に、大きな声……」


これがいつものわたしなのに。

いつもの調子で返したら、雅治が遮るようにわたしの名前を呼ぶ。

そんなに大きな声じゃないのに、誤魔化し続けるわたしは素っ頓狂な声と、それと相性の良い言葉を繰り出した。


「………………話せ」

「何を……」


「なんかあったんじゃろう?朝から様子が変じゃ、お前さんは」

「なんも」


「もう一回なんもっちゅうたらしばくぜよ。なにがあった?」

「なんも」


すかさず雅治からの平手が頭に飛んできた。

もちろん本気じゃない。軽く、ぽてん、みたいな音だ。全然、痛くもない。


「……俺には、話せんことか?」

「………………」

「あー……ひとつあるのう、お互い、話さん事柄が。それか?」


腕組をした雅治は、黙ったわたしにからかうようにそう言った。

どうしてそんな他人事のような声を出すんだろう。


「……それだって言ったら?」

「………………」


バカなわたし。

気持ちを伝えたら雅治との関係が終わるのに。

わかってるのに、どうしてこんなこと言っちゃうんだろう。

何、話そうとしてるんだろう。

でも雅治としたことのない恋愛の話を、してみたいと思う自分がいる。


「……聞きとうないのう、出来れば」

「なんで……?」


「それを話すと、こっちも話すことになる。どうしても、恋愛相談は自分の経験も語ることになるからじゃ」

「………………なるほど、秘密主義でいたいわけだ、雅治は」


わたしも今まで出さなかった話題。

出さなかった理由なんてない。ただ、雅治がその話をしないから。

でも雅治には理由があった。

彼の恋愛は、友達でさえ入れない彼だけのプライベートスペース。

そう突きつけられると、わたしは雅治のことなんて、何も知らないんじゃないかと思う。


「……好きな男でも、出来たか?」

「聞きたくないって言っておきながらなんなのそれ」


だめだ、いつもの空気じゃない。

雅治とふたりでこんな空気を纏ったことなんてない。

体が震えてしまいそうだ。好きな男に、好きな男出来たのかなんて、聞かれて。

多少いらついたようなわたしの口調は、きっと彼にもわかったはずだ。


「気になるじゃろう。あんな顔して、泣かれたら……」

「どんな顔?雅治ってわたしの何知ってるの?」


「八つ当たりは好きじゃないんじゃけど?」

「八つ当たりじゃないよ、わたしのどんな顔、どれだけ知ってるのか聞いてるの」


ヒステリック。

あなたは知らないはずだ。そんなにわたしを見てきてなんていない。

あなたが見ているのはあのOLだ。

彼女とはどこで会ったの?それすら、わたしは知らない。


「お前さんの顔は、いろいろ知っちょるつもりじゃけど?バカな話して、笑った顔も、そうやって、怒った顔も、俺が試合で負けた時、悔しそうにした顔も、今、そうやって泣いとる顔も……」

「なんっ……そ……」

「知っちょるつもり。6年間、ずっと見てきちょるからの」


雅治に言われて、気付いた。

今もわたしが泣いていること。

初めて、見た。

雅治の、ひどく、辛そうな顔。眉間に皺を寄せた、悲しい顔。

彼の友情を傷つけてる。彼が守ってきた友情を、わたしはぶち壊そうとしてる。


「わたしは何も知らなかったよ!雅治の今みたいな顔も、全然!何にも知らなかった!6年間、ずっと仲良しできてるのに、キスする時、あんな顔することだって!全然、わたしは知らなかったよ!」


ああ……言っちゃった。

これじゃまるで、昨日のキスシーンを見たから、わたしが怒ってるみたいだ。

ああ、それじゃまるで、雅治のこと好きだって、告白してるみたい。




「…………お前さん…………なに……言うちょる……」

「最低……ごめん……忘れて今の」


目の前の小さなテーブルに、わたしはそのまま突っ伏した。

腕で頭を抱え込むようにして、授業中の居眠りみたいに。

雅治の今の顔も、初めて見たかもしれない。それは、「驚愕」。


「お前さん難しいことを言うのう?たった今叫んで、もう忘れて、か?」

「………………もう死にたい」

「何言うちょる」


さっきと同じように、雅治はわたしの頭を平手で叩いた。

それから、長い沈黙。

もう顔を上げることなんて出来ない。

涙で目が真っ赤になってるに違いないから。

雅治はどうして黙ってるんだろう。

秘密主義なのに、わたしにバレちゃったから?

だったら、あんなとこでキスなんかするな、バカ野郎。


「………………昨日、のこと言っちょるんじゃの?」

「…………」


「見られちょったんか?俺」

「…………」


無言な肯定だと、雅治はわかっているはずだ。

つまりそれでわたしの様子が変で、その理由は……と考えて、彼の中には、もうちゃんと方程式が成り立っているだろう。

つまり、わたしが彼を好きだという方程式が。


ああ……だめだ。終わってしまった。


「帰る」

「……ちょ……待ち!」

「帰るってば!」


もうこんなとこには居られない。

すばやい動作で立ち上がったわたしは、傍に置いていた自分の鞄を掴んだ。

雅治が同じように立ち上がって、わたしを止める。

もういい、もう話すことはない。友情は破壊された。それで終わり―――


「待てって!伊織!」

「!!」


――――だと、思ったのに。

一瞬、何が起こったか全然わからなくて。

雅治がわたしを抱きしめてた。後ろから、強く。

重たい鞄が、そのまま地面に落ちる。

雅治の選んだセンスのいい絨毯に、鈍い音を立てた。


「………………言い訳くらい、させてくれ」

「何……して――っ……」


耳元に、雅治の息がかかった。

わたしの胸の前で、雅治の手が交差してる。

その力が、さっきよりも一層強くなって、わたしは黙った。


「信じてもらえんかもしれんが、お前さんが昨日見たのは、どうしてもっちゅうて強請られてしたもんじゃ」

「………………は……」


意味がわからない。


「あー……じゃから、ちょっと前に、ブン太にどうしてもっちゅうて誘われて、合コンに行った」

「………………はぁ……」


それもどうだろう、その時も、どうしてもって言われたんだ。

一体この人は、人生で何回どうしてもを言われるんだろう。


「で……酔っ払ったあの女に無理矢理キスされて、その友達にキス場面を携帯に撮られた」

「………………げげ……」


やっぱり、意味がわからない。

それじゃまるで乱交パーティーだ。


「俺が……お前さんのことが好きなこと、ブン太から知れたんじゃろうが、あの女が知っちょって……俺とのキスが良かったから、なんじゃ……その、もう一回どうしてもしてくれっちゅうて……しかもあれじゃ、大人のキスを……。断るなら、写真をお前さんに見せるって……で、キスするなら、この場で写メを消す……ちゅうて……そういうことじゃ……」

「………………」


あれ、なんか今、長い説明の中にすごい言葉入ってなかった?


「………………なんとか言いんしゃい」


すっかり、黙ってしまったわたし。

雅治は、その沈黙を破るようにわたしの体を揺らした。


「……なんで……今までずっと……黙ってたの?」

「なにが……」

「わたしのこと、好きだったんだとしたら―――」


なんとか言え、そう言われたわたしが咄嗟に疑問に思ったこと。

説明された話を信じるとか信じないとか、もうそんなのは通り越した。

わたしは雅治の言葉を、信じるしか術がない。

それよりも、雅治はいつからわたしのことを好きだったのか。

それが長い間なら、どうして今まで、告白の素振りすらなかったのか。


「もしも断られて、伊織が俺の傍から離れるんは、嫌じゃて」

「……っ……」

「……お前さんとの関係、壊したくなかった。お前とそういう話せんかったのも、聞かされて、嫉妬するんが、嫌じゃったから。自分の気持ち、抑える自信もなかったぜよ」

「……雅―――」

「お前にいつも、必要とされちょきたかったんじゃ…………」


わたしの声を遮って伝えられた雅治の言葉は、わたしの心を溶かした。

つい、瞳を閉じてしまうほどに嬉しくて。


「……俺で良けりゃ、これからも、必要としてくれんかの?」

「雅治……」


「いつでも、呼んでくれ……お前さんのためなら、飛んでく」

「どうしよ……もう……ほんとに死んじゃいそ……」


そのセリフを聞いて、硬直しているわたしの体を、雅治は笑いながらさすった。

そんな雅治がどんな顔してるのか見たくて、わたしは、少し振り向こうとする。


「ああ、だめ。今は勘弁してくれ」

「!」


そう、雅治が言ったのと同時に、少しだけ震えている彼の手に気付いた。

それが、雅治の言葉の意味を代弁してくれたように感じる。

もう何がなんだか、信じられなくて、ただただわたしが黙っていると、雅治は、わたしの耳元に唇を近づけてきた。


「初キス、お前さんに取っちょったのに、取られてすまんかったの……」

「えっ……な、ちょ、な、も……!」

「ははっ……顔真っ赤にして、かわいいのう、伊織」


ペテン師の言うことを安易に信じるもんじゃないけど、本当に初キスをわたしの為に取っててくれたんだとしたら、これが顔を赤くせずにいられるだろうか。


「ま、雅治は、いつからわたしのこと……!」

「中1の二学期の中間テストの後くらいからかの……」

「細かいな……!てか長……!」


いつもの調子に戻したくて、必死に突っ込みをしてみたり。

だけど雅治がこうしてわたしを抱きしめている間は、それも意味がない。

相変わらず、わたしの顔が真っ赤だと、雅治はひっそり笑っている。


「のう、じゃけど、伊織……」

「ん……?」


「………………初Hは取っちょるから、安心しんしゃい」

「ぶっ……!!」


思わず声に出して噴出してしまったわたしに、雅治は笑った。

ずっとわたしだけに向けられていた笑顔……これからも、わたしが独り占めしよう。


「伊織……」

「ん?」

「……ちょうだい」


ふと、顎に当てられた手は、雅治の方へと向かって上げられて。

そのまま彼は、わたしの初キスを奪っていった。



















fin.



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