遥か彼方_01





「丸井くん、行っちゃったね」

「まあ吉井は、ブン太にとったら最も苦手で好物なタイプの女じゃしの」


「……それってー、二人はそんな感じになりそうってこと?」

「お前さんはどう思う?」













遥か彼方












1.






雅治との出逢いは変哲無さ過ぎた。

恋愛の始まりって、こう……後から考えると凄く美化されて衝撃的だったって思えたりするのに、どんなに思い返しても、やっぱり普通。


「わたしはー……二人がうまくいってくれたらそりゃあ、嬉しいけど……あの二人のラブラブとかちょっと、想像つかないよね?」

「例えば、こんなのか?」


立ち上がって丸井くんの背中を見ていたわたしの後ろから、雅治はぎゅっと強く腕を回してきた。

耳たぶを甘噛みされる。

わたしの友人である吉井千夏と雅治の友人である丸井ブン太。

二人はわたし達が付き合ったことで顔を合わし、初めて言葉を交わしたその瞬間から大喧嘩。

そして千夏が教室を飛び出して丸井くんがそれを追い掛けるという面白過ぎるイベントがあったというのに、それさえ、雅治の誘惑には勝てない。

二人の背中を追いたくてしょうがないのに、甘ったるい喜びが身体を支配する。

そのまま雅治に顔を向けると、簡単に唇を奪われた。


「……ここ、学校……」

「そんな無抵抗じゃ、説得力ないのう伊織」


だって、こんなに好きで抵抗なんか出来るわけないじゃん。

わかってるくせに、何度もキスを繰り返す雅治は優しく笑うから。

ますます好きになってしまう。

これ以上好きなったら、本当に離れられなくなるよ……いいの?雅治。






















何事も面倒臭いわたしは一番のんびり出来る委員を中学一年の頃から選んでいる。

その名も、図書委員。

学校に居れば何かしら委員に入らされることになるのを、わたしは姉から聞いて良く知っていた。

なら最初からそれなりに楽しくて忙しくない委員に入ればいい。

だからわたしは、中学校に入ってすぐ図書委員に立候補した。

休憩、放課後、夏休み、冬休み……委員会の担当教師が見れない時は生徒が当番制で受付をする。

夏休みや冬休みに出るのは嫌だと言う生徒が多い中、わたしはそんなにこの空間が嫌いじゃなかった。

パソコンは何台も完備されているし、氷帝学園の次に図書の種類が豊富な学校だったりもする。

歴代彼氏は大抵スポーツ部に席を置いている人だったから、そんな環境で放課後待つのは退屈しなかったし、受付があるという口実でいつだって好きな人を図書室から眺めることが出来たし、だから、会う時間がたくさん持てた。

もちろん、それが別れの原因になったこともあるかもしれないけど。

それでも、他校生徒も一般の人も平気で入れるうちの図書室は、いい出逢いの場でもあった。

まさにそんな理由で、わたしは今から約一ヶ月前、雅治に出逢った……と言っても、同じ立海の生徒だから然程珍しいことではないのだけれど。

でもわたしが知る中で、あの仁王雅治が図書室に現れたことはなかった。


「すまん、ちと本を探しちょるんじゃけど」

「……いいよ。タイトルわかる?」


「わからん」

「著者は?」


「それもわからん」

「は?」


図書室に入って来るなりわたしに本の在処を聞いてきた雅治に驚く暇はなかった。

へえ、仁王ってこんなとこ来るんだ……と、わたしが思ったのは有名人の彼には相応しくないその程度の感想だった。


「それじゃ探しようがないよ仁王くん」

「くん付け」


「え?」

「いや、佐久間のキャラじゃないのうって思っただけ」


「……じゃ仁王」

「おお、それっぽい」


まあ校内生徒同士、おまけに同級生。

彼がわたしを知っていても不思議ではない。

話を変えてからかうような仕草は、わたしの想像していた仁王雅治そのものだと思った。

雅治はそう言うと、んー……と頭を抱え始めて。

なんとかしてくれと言わんばかりにわたしを見つめ始めた。

馬鹿みたいに整った顔に目眩を起こし兼ねない。

わたしは咄嗟に目を逸らした。


「わかった。探す。じゃどんな本なのか教えて」

「近所の子供が誘拐されるんじゃ」


「それはまた物騒だね」

「その犯人が自分の息子かもしれんっちゅう感じなんじゃ」


パチパチとそのキーワードをパソコンに打ち込んだわたしはそこでぴたっと手を止めた。

読んだことがある気がしたのだ。

確か、タイトルは……。


「仁王、これ……わっ!」

「ん?」


「ちょ、びっくりするじゃん!いつの間に!!」

「いや、打つの早いのう〜と思って見ちょっただけなんじゃけど」


パソコンから振り向きざまに、雅治はすぐそこに居て。

ぶつかる寸前の距離の近さに驚いて、意外に逞しい腕とか、胸板とかにも驚いた。

これはマズい。

いくらなんでも、好きじゃなくても、相手が悪い。

すぐにそう思った。

だってなんかスゴい色気があったから。

そして妙にドキドキしてたから。


「佐久間?」

「ちょ、ちょっと離れて……」


「おう、すまん」

「あ、えっとだから、その本わたし知ってるよ。多分だけど」


「本当か!」

「ん。ちょっと見てくるから、待ってて」


この時は、どうしてあの本がそんなに読みたいんだろう、と不思議になった。

確かに面白そうなあらすじではあるんだけど……わたしも、あのあらすじで買ったクチだったから。


「あ……残念。仁王ー!」

「あったかー?」


図書室にはその時、数人の生徒しか居なかったことで、本来なら大声を出した生徒に注意すべきわたしが大声を出して雅治を呼び、雅治もそれに答えるように大きな声で答えながらわたしの居る所に歩いてきてくれた。


「残念だけど、貸出中」

「あー……そうか。残念じゃ」


少ししょんぼりしたような表情で、雅治はわたしをまた見つめた。

なんだこの人、見つめるの癖なわけ!?なんて、この時わたしは動揺しまくっていた気がする。

思えばもう、堕ちていたのかも。雅治の魅力に。惹き寄せられるような視線に。


「仁王さ」

「ん?」

「なんであれが読みたいの?」


疑問だった。

正直、あれはあまりお勧め出来るような本ではなくて、最初は本当に本当に面白いんだけど、作者の意地悪な仕掛けがあって、読み終わると投げつけたくなるような本なのだ。


「怪訝な顔しちょるのう?柳生に勧められたんじゃ、随分前にの。珍しく熱心に勧めてきてな……そういやここ何年か本は読んじょらんしと思って、あらすじだけ昨日思い出したんじゃ」

「なら柳生くんにタイトル聞いたら良かったのに」


「それがこないだから風邪で休んじょる。おまけに携帯の電源も切っちょる」

「ふうん。それにしても柳生くんて意地悪だね」


「意地悪?」

「いや……こっちの話。あ、ねえもし良かったら貸そうか?あんまりわたしは好きじゃないタイプの本なんだけど、持ってるんだよね」


「それは……名案じゃのう、佐久間」

「でしょ?」


ということで、翌日学校で手渡しする約束をした。

雅治は図書室に取りに来るからと、その日はそれで終わって。

翌日無事に雅治に本を貸して、貸してから一週間後に雅治は怒ったような顔をして、図書室に現れたのだ。


「…………ああ!」

「!……仁王、どうしたの」


雅治は図書室に入るなり、わたしに八つ当たりするように本を投げつける仕草をして見せた。


「なんちゅう後味の悪い本を読ませてくれたんじゃお前さんは」

「あ……くくっ。あはははは。だから言ったじゃん、柳生くんて意地悪だねって」


わかるわかる、なんて調子で相槌を打って雅治を見上げた。

わたしも読んだ直後は、この本を薦めてきた姉に本を投げつけたから。リアルに。


「柳生に物申したら、読むのは自己責任ですよ仁王くん。じゃって。人が悪い男じゃ、あいつは」

「イライラするよねえ、この本。だからわたしはあまりお勧めしなかったつもりなんだけど」


「どこがじゃ?ちゅうか教えてくれ。俺のこのイライラどうやったら納まる?」

「話を忘れるしかないなー、それは。あはははは」


「昨日読み終わったばっかりなんじゃけど?」

「ん、そういう時はあれだよ、違う本に熱中するしかない!」


そのイライラする本のおかげで、わたしと雅治はこの時とっても打ち解けたようになった。

仁王って話してみると楽しい人なんだな、とか、笑った顔が本当に綺麗だな、とか。

そんなことをずっと頭の中で反芻していたように思う。

そしてこの時、結構盛り上がったのをきっかけに、わたしは雅治に本を貸すのが習慣になった。

わたしが持っている本を、雅治が取りに来ては、後日に返す。

それがいつからだったろうか。

最初はゆっくりだった返却ペースが、段々と速くなってきて。

わたしは三日に一度は雅治に会うようになっていた。

だんだんと速くなっていった雅治の本を読み終わる時間は、まるでわたしの心の動きのようで。

わたしは当然のように、雅治に恋をしている自分に気付かされていった。

そして雅治も、わたしのことを想っているんじゃないかなんて期待した。

この男にハマったらヤバイって、ずっと頭の中で警報を鳴らしていたにも関わらず。

わたしは雅治が返却に来るのを、心待ちにするようになっていた。

当番でもない日に、わざわざ受付をしたりして。

受付をしている振りをして、テニス部の練習を図書室の窓から眺めて。

そんな毎日を過ごしていた。

そして、その想いは冬休みの終わる一週間前……雅治からの、びっくりプレゼントをきっかけに叶ったのだ。


「よう佐久間。今日もご苦労さんじゃの」

「仁王も冬休みなのに偉いじゃん。テニスだけには真面目?」


「ん?そうでもないぜよ。テニスは好きじゃからやるが、たまにはサボりたくなることもある」

「なるほど。仁王らし………ん?」


いつものように雅治から返された本に、何か硬い物が挟まっていることに気付いた。

栞忘れかと思ってその場で躊躇いなく本を開くと、栞にしては大きすぎる厚紙がひょっこりと顔を覗かせて。


「…………青春、18切符……」

「二枚、の?」


「……は、初めて見た」

「……感想はそこか?」


唖然と雅治を見上げたわたしに、雅治は呆れたような表情でわたしを見て。

ふっとため息をついてから、その本に挟まっている青春18切符を取り上げて、一枚わたしに手渡した。


「え……?」

「サボらん?一緒に」


「へ……?」

「今から一緒に。俺は部活。お前さんは委員の仕事。一緒にサボって、一緒に、行けるとこまで行ってみんか?冬休み最後の思い出に」


「そ……」

「行こう」


雅治はわたしの手を強引に取って、図書室を出ようと合図した。

わたしは雅治に手を握られたことで慌てるように席を立って。

朝の早いうちだった図書室には誰もいなかったから……こっそり鍵を閉めて。

テニスコートの真田に見つからないように、こっそり二人で学校を抜け出した。


「ねえ仁王、帰りはどうするの?」

「帰りは俺が連れて帰っちゃるぜよ」


「え、で、でもさあ!」

「今まで借りた本のレンタル代くらいに思ってくれちょったらええ」


わたしの頭を弾いて笑った雅治に、わたしは顔を赤くすることしか出来なかったように思う。

電車のホームであたふたしていたわたしに、雅治はそうやって笑っているだけだった。


驚いたのは、電車の中でわたし達が嘘みたいに会話をしなかったことだ。

誘ってきたのは仁王なのに!と、隣でやたら焦っているわたしに雅治は気付いていたんだろうか?

雅治はただわたしの前に座って、ぼんやり外を眺めているだけだった。


「仁王、あの……」

「ん?」


「……なんでさ、こんなこと……」

「サボりたかったんでな」


「……いや、そうじゃなくて」

「真に受けなさんな、ちょっとした冗談じゃ」


あまりにも雅治が喋らないから、電車に乗って、乗り換えて、旅も一時間半を超えそうなところで声を掛けると、飄々とそんな返事が戻ってきて。

四人乗りの座席に二人で向かい合って座って、最初の会話が「こんなこと」って……と、

なんだかわたしが申し訳ないような気持ちになって俯いた時。

雅治がふとわたしの顔を覗き込んできたのは、今思い出してもドキドキする。


「!」

「すまん、驚かせたか?」


「なななななに?」

「いや、泣いちょるんかと思った」


「泣いてないよ!大丈夫だよ!」

「ん……すまんの佐久間。つまらんじゃろ?」


「え……」

「何話してええか、俺もわからんから……緊張しちょる。眠とうなってきたし」


「え、え?」

「……隣、行ってもいいか?」


不意打ちに言われたその言葉に、わたしはびくっと体を震わせるほどだった。

そして雅治は、聞いてきたくせにわたしの答えなんか待たないまま隣に座って。

四人用を占領していた二人は、すんなりと二人用の椅子に座ったという状態で。

でもそんな必要ないくらい、電車の中には人がほとんど居なかった。


「……ちと、寝かせてくれ」

「……!」


雅治が隣に座って、ガッチガチにわたしは固まって、目のやり場に困って、流れる景色を見ていたら。

とん、と右肩に小さな衝撃が走って……ゆっくり、ゆっくり右肩を見ると、そこに雅治の頭があった。


「……に、に、仁王……!ちょ、ね……」

「…………」


絶対にまだ眠りに入ってなんてないくせに、雅治はその時、すっかり寝た振りを決め込んで。

わたしは全身が心臓になったのかと思うくらいに、息苦しい時間を過ごすことになった。

雅治はピクリとも動かなくて、それをいいことに、わたしは時々雅治の顔を観察した。

目を覚ましたらどうしようという恐怖の中で、でも勝手に肩を借りてるのは仁王なんだから、と自分に言い聞かせては葛藤し、睫毛長いなーとか、鼻筋通ってるなーとか。

でもやっぱり、視線は唇に集中してしまった。触れたいと、わたしの唇が疼くのがわかった。


「〜〜〜〜〜〜〜!」


ジタバタしたい思いをどうしたらいいのか、でもジタバタ出来ないとわかっているわたしは、本当に寝てしまった雅治を起こさないように静かに深呼吸を繰り返した。

そしたらちょうど、終点だというアナウンスが流れて。

わたしは咄嗟に雅治を起こした。

起きた雅治は終点の場所を聞いて、驚くでもなく、のんびりと欠伸をしては、「結構来たのう」なんて暢気なことを言っていた。


さすがにわたしはそこまでが、もう我慢の限界だったというか、何も我慢していたわけではないけど、空気に耐えられなかったというか。

だから、誰も居ない田舎の電車のホームに降りた瞬間に、雅治に振り返って言ったのだ。


「ねえ仁王」

「ん?」


「帰ろう?」

「……まだ、そんなに遠くでもないんじゃけど……嫌になったか?」


「うん、嫌になった」

「……………………」


そのわたしの言葉に、雅治は意外にも黙ってしまって。

器用にうまいこと言って返してくると踏んでいたわたしは、雅治がショックを受けていることに驚いた。

驚いて、慌てた。


「だ、だってわからないんだもん。これ、何?ただサボりに付き合わされてるだけなら……その……」

「俺じゃって普通に、緊張くらいする」


「は?」

「寝たこと、怒っちょるんじゃろ?」


「いや……おおお怒ってるていうか、よくわかんな――――」

「――――今日のこと考えちょったら昨日は寝れんかったんじゃ。悪かった」


「い……いや、そ……それって……」

「…………なんじゃ」


告白してるの?って、聞きたくても聞けない小心者のわたし。

そしてあの仁王雅治は実はこんなにも不器用だったのかと、ぐるぐるだった。もう、頭の中ぐるぐる。

だってあの不器用がわたしだけの特別だとしたら、それはすごく嬉しいことだったから。

でも怖い。仁王雅治という男に溺れたら、今までの誰よりきっと、抜け出せなくなる。


「あの、今日のこれって、デート……?」

「……違うんかの?」

「いや、だ、そういうことはハッキリ言ってくれないと……」

「俺じゃって緊張するんじゃって、言うちょるじゃろう」

「だ、だからってさあ、いいいきなりああいう――ッ!」


目をキョロキョロさせて、別に嫌だったわけでもない雅治の行為を批判する直前だった。

わたしの片方の頬が、大きな手で包まれて。

言葉を失ったわたしは、そのまま視線だけを動かして手の主を見た。

雅治は真剣な表情で、少しだけ眉間に皺を寄せて。


「好きだ」

「――――ッ……あ……えと……」

「お前が、好きだ」


心臓が爆発するかもしれないと、本気で思った。

なんて言ったらいいのかわからなくなってしまって、わたしは気が付くと一筋涙を流していて。

雅治はそれを見て、少し慌てたみたいだった。


「ど……どうしたんじゃ」

「ご、ごめん……なんでだろう……う、嬉しかったの……かな」


「……かな、程度か?」

「だって、仁王って、あんま、いいイメージないし」


前回の失恋の痛手があったおかげで。

いや、今までの失恋の痛手が蓄積されていたおかげで。

わたしは十分、恋愛に臆病になっていた。

しかも相手は仁王雅治。

異常なくらいモテる男に、いつ捨てられるのか怯えながら付き合うのはやっぱり怖い。


「……言うてくれるのう、佐久間」

「……浮気とか、されそうだし」

「……ああ……なかなか今のは、堪えるのう」


酷いことを言ってみた。

本当にわたしのことが好きなのか、確かめたかったのかもしれない。

最初からこんな面倒臭い女、雅治もよく受け入れたと思う。


「だって、わたしのこと好きだって言う人は、みんな最初だけなんだよ。最初だけちやほやして、結局、わたしのこと捨てるんだよ。実質的に捨てたのはわたしでも、先に心を捨てるのは相手の方なんだよ。でもね、でも、もうそうなった時はわたし、すっごいすっごい相手のこと好きになっちゃってるから、もうね、本当に辛くてしょうがないの。別れるって決断、下したくないのに、下さなきゃ辛くて、でも下したら下したで辛くて、そうやって、わたしのこと一人にする人ばっかりなんだよ」


ほとんど病気みたいに、わたしは雅治に言っていた。

ちょっとトラウマだったのかも。

今まで「きちんと愛されなかった自分」に。


「…………それがどうした」

「澄ましちゃって……自分は違うって言いたい?みんなそう言うんだよ、最初は」


「うるさいのう。そんな理由で俺のこと拒絶する気か?」

「だって……仁王――――ッ」


雅治の突然の告白に困惑して、ああだこうだと喚くわたしに。

次の瞬間、雅治は黙らせるようにわたしの腕を強く引き寄せた。


「――――それでも俺のことが好きなんじゃろ?」

「仁……ッ」


触れたいと思っていた唇が、強く押し付けられていて。

離れた瞬間、雅治は口ぶりとは真逆の懇願するような顔でわたしを見つめた。


「もう戻れんよ、佐久間……俺とお前さんは、求め合っちょる」
























あの後はお互い、素直になって残りの時間を過ごした。

人目がないところでキスをして、お互いに裏切りはなしだと誓い合って。

そうした青春18切符の電車の旅は、夜の9時に終わりを告げた。


翌日、わたしも雅治もたっぷりと関係者に叱られたのだけれど、全然辛くなかった。


「……のう、伊織」

「ん?」


「あれ、なんじゃろ?」

「ん?……え……丸井くんと……千夏?」


「おぶっちょる」

「おぶってるね……え!嘘!!もう発展!?」


「発展でおんぶは変じゃないかの?」

「何があったんだろ!気になるー!」


校庭から見えたお互いの友人の姿に唖然として、わたしと雅治はその状況を楽しんだ。

その時、雅治の携帯が鳴って。

携帯をポケットから取り出して見た雅治は、ピッと操作してそれを留守番電話に切り替えた。


「出ないの?」

「ん、今は伊織との時間じゃし?」

「うまいこと言って……なんか疚しいことでもあるんじゃないのお?」

「ほう?相手がこれでもか?」

「ん?」


雅治は携帯を開けて自慢するようにわたしに見せた。

目に入った知らない名前に、わたしは笑いながら答える。


「なんだあ、つまんないの!」

「つまらんとはなんじゃ、つまらんとは」


同じように笑いながらわたしを抱きしめて、雅治はくすぐるように首筋にキスをする。

雅治の携帯電話の液晶画面には、「不二周助」と表示されていた――――。





to be continued...

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