lip.step.kiss.


放課後はいつも友達に連れられるフリをして、ある人に見とれていた。彼は同じクラスなうえに隣の席。次第に仲良くなったわたしたちを羨やむ声もあったけど、突破できない大きな壁を、いつも感じていた。

「よう佐久間、今日も吉井に連れられて見学か?」
「仁王、サボってると真田に怒鳴られるよ」
「心配せんでも、バレやせん」

テニスコートの網越し、こちらへ来た仁王雅治に冷やかしのような視線を送り、憎まれ口を叩く。一方で仁王の視線はさらに上をいく冷やかしの意味を持っているようで、その奥に光を感じる不思議な魅力があった。わたしは、仁王の目が好きだ。中学の頃からひときわ目立つカリスマ性は、この強い目力にあるんじゃないかと思うほど、どうしょうもなく惹かれてしまう。

「真田は1年に付きっきり。最初が肝心、とかなんとか」
「しっかりやってるってことだ、さすが真田」

全国に名を轟かせるどころか、世界まで震撼させている立海大附属高等学校のテニス部に志願した新入生は、多い。仁王曰く、真田はそっちに付きっきりのようだった。

「ねえ仁王くんさ、今日幸村くんは!?」
「あの男は、今日は来ちょらんみたいやけど。後で来るかもしれんが。残念やの、吉井」

わたしの隣から仁王に話しかけたのは、親友の千夏だ。彼女は昔から、幸村くんが大好きだ。個人的にはちょっと恐れ多くて近寄りがたい存在である幸村くんには変な存在感があって、優しく、水をうったような静けさがあるのに、ものすごいオーラがある。ぶっちゃけ、なんだか怖い。

「そっか、じゃあ帰ろうかな」
「はははっ。まぁそう言わんでもう少し見ていけ。来るかもしれんし。で? 佐久間は、帰りは吉井と一緒?」
「あーうん、でも幸村くん来たら千夏は」
「幸村くん来たら今日も絶対、一緒に帰る!」
「ふふ、らしいよ?」

苦笑いで仁王に視線を送ると、同じように笑って、「幸村はモテモテやの」と言いながら彼は練習へと戻って行った。それはわたし達の合図のようなものだった。千夏は放課後、いつも幸村くんをこうして眺め、待ち伏せては一緒に帰っている。幸村くんと頻繁に下校するなんて、わたしの知るところでは千夏にしか出来ない図々しさだ。でも仁王から聞いた話では、幸村くんもそんな嫌そうじゃないというから驚いた。近寄りがたい幸村くんにベッタリな千夏を快く思わない女生徒も多いなか、わたしはそんな親友を持てたことが、なんだか誇りだった。そんなわけで、千夏が幸村くんに取られてしまった日は、いつも仁王と帰っている。幸い彼とは家も近くで、自信を持っていいなら、わたしは仁王と一番仲のいい女友達だから。





「じゃあ伊織また明日ね! あ、幸村くん待ってよっ!」
「ああ、千夏コケないでね……まったく、慌てすぎ」

結局その日は幸村くんが現れて、わたしは仁王と帰ることになった。嬉しい反面、少し切ない感傷がただよう。何度一緒に帰っても、女友達から昇格することは出来ない。なのに、こうして日々一緒に過ごしていくことで、どんどん彼を好きになってしまうんだから。そんなことがわたしの胸をしめつけるなんて、あなたは全然知らないんだろう。

「なーんか、悩みでもあるんか?」
「え?」
「暗い顔して、どうした?」
「そうかな? いつも通りだよ」

仁王は人の心が読めるのかと思うほど、わたしの胸の内を打ち抜いてくる。ダーツが得意だからなのか?
わたしは何気ない顔して、いつもうまく流している。とはいえ仁王は、わたしの言葉なんて微塵も信じてはいないだろう。考えてみれば、なんでもお見通しみたいな仁王がわたしの気持ちに気づいてないなんてこと、あるんだろうか。常に彼には気のないフリをして、ただの男友達だということを強調してはいるものの、それを仁王がどんなふうに感じているかはわからない。まあ、仁王が気づいてようが気づいてなかろうが、別に何の変わりもない毎日。そんなことどうでもいいくらい、彼の心を支配している人の存在を、わたしは知っている。きっと仁王は彼女のことを、今でも愛しているんだと思う。

「佐久間、焼肉いかん?」
「え、なに急に」
「最近できたとこがあるんよ、知っちょる?」
「ああ、駅前の?」
「そう。どう、今夜空いとる?」
「またアンタはいきなり……」

焼肉は、仁王の大好物。このところ焼肉チェーン店がたくさん増えてきて、つい先々週も隣町の焼肉屋に連れて行かれたものの、仁王は「やっぱりチェーンより単独店のほうがいいな」と口癖のように言う。

「ダメか?」

そんな彼にとってはたまらなく嬉しい出来事だろう、我々の自宅近所に手頃な価格で美味しい『単独店の』焼肉屋が出来たという話は1ヶ月前に知っていた。勘違いデートになることはわかりつつも、わたしは冗談めいて言った。

「ううん、そういう強引なとこ好き」
「おう、俺も断らんお前が好きよ」

嫌味なくらいの笑顔。残酷なほど優しい声。もちろん本気にはしない。本気じゃないのはわかってるから。こういう恋愛ごっこなやりとりは、女友達という肩書の信頼が仁王の口を滑らせているところも、重々承知している……つもり。

「いやんもう、雅治さんたら」
「ああ、伊織さん。僕、6時に駅前で待ってますね」

なんなんだ、このバカなやりとりは。と思ったら笑けてきてしまって、視線をあわせて吹き出した。

「はいはい、承知しました、また後でね!」
「おう、後でな」

沁みるように胸が疼いたせいで、振り返りもせずに手をひらひらとさせながら、わたしと仁王は別れた。





「定、休、日……」

丁寧に筆ペンで書かれた張り紙にがっくりと項垂れる。

「仁王……」
「すまん」
「もっとちゃんと調べてからさー、もうー」
「どうする?」
「どうするって、すっかりお口は焼肉モードだよ」
「そうか、ならイタリアンでも行くか」
「話聞いてた?」
「腹減っちょるやろう? 近場でうまいのあそこくらいなんよ、我慢しんさい」
「まったく……」

腕を引かれて、ずるずると仁王に付いて行く。懲りずに悪態はついてしまうものの、うっかりと触れ合う肌のぬくもりがたまらなく愛しい。本音を言えば、仁王となら何を食べても、どこに居ても、わたしは幸せだ。今夜あたりに思い返して、ベッドの中で切なさと虚しさを味わったとしても、結局は彼の傍に居れることが、わたしには必要だった。

「なんだかんだ言って、お店に来ると一気にイタリアンモードに突入出来るね!」
「単純やな。まぁ、佐久間らしいけどの」

ご近所にはおなじみのイタリアンレストランのテーブルで、わたしは顔を綻ばせていた。いろんな理由をつけては、その笑顔の証明をする。いくら仁王でも、この笑顔の理由が本当は食べ物なんか関係ないなんてことには気が付かない……はず。こんなふうに、わたしはいつも演じているのだ、仁王の完璧な女友達を。一方で自分の健気さに酔うよりも虚しさが勝るのは、ここだけの話。

「それはわたしのイイところです、多分」
「言えちょる。まあ好きなもん頼みんしゃい。今日は俺のおごりだ」
「当然だよね、ラッキー!」
「そう言われると、ちと腹が立つな」
「そうでしょう、そうでしょう」

とか言いつつ、仁王が「おごり」と言い出してくるのは、ハナからわかっていた。いろんな言い訳をしているけれど、本当はそんな理由じゃない。今日、あの焼肉屋が定休日じゃなくたって、誘ったというだけでご馳走する人だ。それが彼なりの礼儀なのだろう。わたしはいつも「当然だよね」と可愛くない返事をして受け入れることにしている、暗黙の了解。本当の気持ちとか、本当じゃないかなんてことは勝手にお互い自己解決する。それがわたしたちふたりの付き合い方で、その距離感が心地いいから、仁王はわたしとつるんでくれるのだ。

「じゃあわたしはアラビアータと生ハムかなー、仁王は?」
「……」

会話を楽しみながらメニューをめくる。そんな当たり前の時間の中で、彼は彼らしくもなく、視線をわたしの後ろに送ったまま、呆然としていた。

「仁王?」
「いや、すまん、なんでもない」

バツの悪そうな顔をした仁王に胸騒ぎがして、その視線の先にあったものを見るために、急いで振り返る──こんなことなら、遠くても空いている焼肉屋に行くべきだったと後悔しても、もう遅かった。
仁王の元カノが店に入ってきていた。スーツを来た平凡そうな男と、一緒に。その腹は、大きくせり出ていた。





仁王の視線か、わたしの視線か、気づいた彼女は軽く会釈をしながら近づいてきた。仁王は顔色ひとつ変えずに、穏やかに彼女を見上げた。

「仁王先輩、お久しぶりです」
「おう、元気か?」
「元気です」
「それは良かった。先生も、お久しぶりです」

彼女の隣に居た元講師に、軽く頭を下げる。仁王につられて、わたしもためらいがちに会釈をした。

「久しぶりだね。仁王と佐久間は、相変わらず仲が良いんだな」
「先生もお元気そうでなによりですね。お仕事は順調ですか?」

相変わらず能天気そうな顔をしていると思いながらも、彼の着ているスーツを眺めつつ、わたしは問いかけた。嫌味のつもりだったのに、相手は頬を緩ませた。

「今ね、塾の講師をしているよ。俺なりに頑張ってるところ」
「充くん、わたしお手洗いに行くね」
「ああ、僕も行こうかな」
「仁王先輩も、佐久間先輩にも会えてよかったです」
「本当、会えてよかったよ。ふたりとも、またな」
「はい、また」
「先生も、若奥さんの為に頑張ってください」

仁王の言葉を聞いて、充くんと呼ばれた元講師は微笑んだ。わたしたちからは見えないテーブルへと去って行く。若奥さんと言われた彼女は、一瞬、切なそうな顔をしてから仁王を見て、もう一度軽い会釈をして、旦那の背中を追っていく。

「……幸せ、そうだね」
「そうやの」

あんな男のどこがいいのか、と口に出して言ってしまいたくなる。仁王を傷付けてまで彼女が手に入れた幸せを、素直に祝福などできない。その反面、仁王から離れてくれたことに感謝の念もあった。醜くても、それが本音だ。

「出よう、仁王」
「なに言うか。そんな気使わんでいい」
「違うの、食べる気失せた。あの腹見て」
「……佐久間」
「ごめん、今の最低だった。ねえ、海行かない? コンビニでなにか買って食べよう? テンションあがったら海に飛び込んでもいいじゃん」
「おいちょっと、待ちんしゃい」

仁王の困惑に気が付かないフリをして、わたしは席を立った。注文もせずに出て行く客を恨めしそうに見ていたレジの店員に「すみません」と声をかけている仁王を背中にして、どういうわけか、涙がこぼれそうだった。





彼女は、1つ下の可愛らしい後輩だった。彼女と仁王と付き合い始めて半年後、「先生が好きになった」と、突然告げられた仁王。当時から、元講師は仁王と彼女の関係を知らない。彼女はなにも言っていないのだ。ただの後輩マネージャーとそれに所属するテニス部の先輩だったとしか、思っていない。その卑怯さに何度も胸やけがした。あげくそこから1ヶ月経たないうちに、彼はクビになった。彼女が妊娠したためだ。よっぽどあの女を引っ叩いてやろうかと思ったけれど、怒るわたしの傍でつぶやくような声を絞り出した仁王が、そうさせてはくれなかった。

「ほかの男に抱かれとることくらい、気付いとったよ」

彼女はすぐに高校を辞めた。どうしてあんな、いつも笑って、生徒の機嫌を取ることしか出来ないような、平凡な男に。でもそんな人間だからこそ、仁王以上に惹かれたのかもしれない。人の心は気まぐれだ。わたしがそう感じたくらいだ、仁王には痛感するものがあっただろうと思う。

「お前は、いろいろ気にしすぎだ」
「だから違うってば。ただ……あんな場所で食事はしたくないと思っただけ」
「ありがとな」
「仁王のためとかじゃないって」
「そうか」

本当にそうだった。仁王の気持ちを考えなかったと言えば嘘になるだけど、あのふたりを見て、胸くそが悪かった。よくもいけしゃあしゃあと声を掛けてきたものだと、その図々しさに感服する。この怒りをなんとか静めようと、海に来たようなものだった。
初夏の日は長い。まだわずかな明かりを残した空を映す海は、赤色を漂わせていた。黄昏の浜辺であぐらをかいて座る仁王の背中が、わたしには酷く切なく映って。わたしは彼の背中にそっと近付き、うなだれているような両肩に、自分の両手を乗せた。

「ん……慰めか?」

ほんの少しだけこちらに顔を向けて、すぐに正面へと向き返る。
ねえ仁王、いま、どんな顔してる?

「なんとなく」

本当は思い切り抱きしめてしまいたい。その想いがこの手から仁王に伝われば、どんなに楽だろう。自分の気持ちを押し殺して、彼の心の傷を慰める。それはわたしに課せられた役目なのだと、いいように解釈してしまいそうになったときだった。
わたしの右手の上に、そっと彼の左手が重ねられた。

「もう少し、しっかり慰めてほしいんだが」
「えっ、わっ!」

そのまま前のめりに突っ伏すかと思うほど、仁王がわたしの手を引っ張った。油断していたわたしの体が、思い切り仁王の背中にぶつかる。両腕はぎこちなく彼の両腕に重なるようになり、仁王を後ろから包み込むようにして、わたしはぴったりとくっつく形になっていた。

「な、びっくりする!」
「抱きしめてくれんのか?」

仁王の言葉に、心臓が跳ねた。

「……抱きしめて、欲しい?」
「抱きしめて欲しい」

胸の奥にあるなにかがギュッと縮まる。込み上げてくる想いを振り切るように、わたしは仁王を抱きしめた。震えるほど愛しくて、切なくて、苦しい。

「残酷よの」
「ほんとだよ、酷い」

あなたは彼女に対してそう感じる。わたしはあなたにいつもそう感じる。いまなんて、すごくね。それでも、好き。
心はわたしのものじゃなくても、いま、仁王の体はわたしの中にある。

「な、佐久間」
「うん?」

仁王がゆっくりと、横にあるわたしの顔を見つめた。
こんな至近距離は初めてで、彼は妖艶な光を目に宿していた。ああどうしよう、また、好きになる。

「お前、唇カサカサやの」
「……ほっといて」

弱った自分を見せたことが照れくさいのか、ふざけた言葉にわたしはむっとしながら、唇を内側に閉じて潤した。たしかに、ちょっとガサガサしている。仁王もこんなに近くでわたしを見たことがなかったから、いつもは見えない綻びについ口を出したくなったのかもしれない。ようやく、微笑みを見せてくれた。

「な、佐久間」
「今度はなに? 肌が汚いとか言ったらぶっ飛ばす」

仁王の表情が穏やかになったから、わたしも軽いノリを発揮する。彼が笑ってくれたから、少しだけ安心した。仁王には、やっぱり笑っていて欲しい。でもその期待を裏切るかのようにふっと笑みを消して、わたしをじっと見つめてた。

「キス、するか?」
「……」

ズキン、と胸が痛む。突然の提案に、言葉に詰まってしまった。

「本気で言ってる?」
「本気で言うとる」
「キスしたら、唇うるおうのかな」
「さあどうだろな、試してみるか?」

全く表情を変えず、仁王は私を唇に目を落とした。本当に本気で言っているんだと、わかった。

「後悔しても、知らないから」

右頬を、仁王の左手がそっと包む。彼を抱きしめるわたしの手は、そのシャツをギュッと握りしめた。耳の下をすべる長い指がわたしの顎を引き寄せて、唇が触れ合うとき──仁王は静かに目を閉じた。まるでこうなることが最初からわかっていたかのように、微笑んで。

「……どうだ?」
「どうって、なにが……」
「唇、うるおったか?」
「そんなの、わかんないよ」
「じゃあお前の心は?」
「へ?」
「うるおったか?」

ああそうか、バレてたんだ、とっくに、わたしの気持ち。
そりゃそうか、と思う自分と、もう女友達のままではいられないのかもしれないと思う自分が、頭の中で混乱している。

「わたし……」返事をしなきゃと思うのに、言葉が続かない。
「なんだ? 俺のことずっと好きだったか?」
「……」
「だんまり決めこまんでも……」
「……」
「じゃあ、もう1回してもええ?」
「だ、だめだよ」
「これは即答か」
「だって……」

だってこのままじゃ、仁王のこと忘れられなくなる。もう絶対忘れられないってわかってるけど、まだ引き返せるかもしれないのに。

「な、佐久間」
「……なに」

いつものようにわたしを呼ぶ声が、吐息まで触れて届いてくる。胸が張り裂けそうで、目を伏せたときだった。

「俺も好きだ」

伏せた目を追いかけて覗き込むように、仁王が首をかしげた。あっさりと吐き出された言葉に、現実味がないとさえ思ってしまう。

「う、嘘ばっかり」無理に笑う。
「本当だ。あいつに未練もない」仁王は真顔だ。

さっきまでその「あいつ」のことで切なさ全開だった仁王に言われても、はっきり言って信憑性がない。あんなに辛そうに、彼女の背中を見つめていたくせに。だいたいそんな嘘を付かなくたって、わたしはあなたの思い通りになるっての。
なんて、やるせない想いがぱらぱらと頭の中に舞い降りてくる。

「信用ならん?」
「だって」
「じゃ、タネ明かしするしかないか」
「え、タネ……?」
「焼肉屋の定休日なんか、知っちょったぜよ」
「……はい?」

舌を出して、ケロッとしている。急にはじまったタネ明かしに、わたしの思考はなかなか追いついてくれない。

「……あの、じゃあなんで誘っ」
「あと、毎週水曜にあの夫婦があそこのイタリアンレストランで食事するのも、知っちょったぜよ」
「はい?」

もしかしてだけど……「全部、計算だった」とか言い出すのだろうか、このペテン師は。

「俺が弱ったフリしたら、佐久間、俺のこと慰めてくれるんやないかと思っての」

ニヤッと笑って、また、いたずらに舌を出してきた。
どうしよう、めちゃくちゃかわいい。憎たらしい。それってわたしに、好きって言わせるため?

「まわりくどい……」
「俺は好きな女には臆病なんよ。確信もほしけりゃ、卑怯な手を使ってでも落としたいって、それなりに悩んだ結果なんだが」
「アンタほんと……!」
「そういう俺が、好きじゃろ?」
「もう、もう、信じられない!」
「想定通りのお前の優しさが、俺は好きだ」

チュッと頬に音を立てて、じゃれるように額を寄せてきた仁王を怒る気にもなれなくて。

「くやしい……けど、好きだよ、ずっと、好きだった」
「おお、やっと聞けた、その言葉」
「うー、くやしい」

笑いながら言うと、仁王はニッコリ微笑んで。

「俺は愛しい」

もう一度目を閉じて、ねだるようなキスを落としてきた。





fin.



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[levelac]




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