love._13
「伊織」
「…………」
「……なんだ、なに黙って見てやがる」
「だってなんていうかその…………な、なんでもない」
love.
13.
景吾がご両親に今日の顛末を話しつつ、わたしのことも適当に話してくれているんだろう間に、わたしはここぞとばかりに彼の部屋にあるバスルームに飛び込んだ。
そりゃあ一応、昨日、ああいうことがあったわけだし準備をしていなかったわけではないのだけど、やっぱりあの跡部様とそういうことをするなら……いや、もう跡部様とかそういうことは関係ないのだ。
とにかく、大好きな景吾に、綺麗な、ちょっといい香りがするくらいの身で挑みたかった。
念入りに体を洗ってドライヤーで髪を乾かしていたら、景吾がようやく戻ってきた音が聞こえた。
そして、控え目にバスルームのドアを叩いて、「俺も入るから、早くしろよ」と言ってきたのだ。
もう、その言葉に何故かド緊張してしまった自分がいた。
早くと言われて早く出たわたしは、キングサイズのベッドの中にもぞもぞと入り景吾を待っていた。
脱衣所に何着もあったバスローブを勝手に着て。
あれこれと考えすぎて頭の中はパニックで、頭から布団をかぶってじたばたとしていたように思う。
するとやがて、伊織、と景吾がベッドの中にいるわたしに囁く声がして、わたしはばっと顔を布団から出した。
同じくバスローブを着ている景吾をじっと見つめてしまう。
緊張はさっきの比じゃないくらいになってしまって、このまま心筋梗塞を起こしてしまうんじゃないかと思うほどだ。
何見てやがる、と冷静に言った景吾に、胸元から見えているその素肌に目が釘付けなの、とは言えなくて。
結局、なんでもないと言ったわたしに、ふんと鼻を鳴らした景吾は、何の躊躇いもなくベッドに入ってきた。
入ってきたのと同時に、カーッと顔が熱くなったわたしは、つい景吾に背中を向けるように寝返りを打つ。
「……おいおい、そりゃねえだろ」
「だって……だって……」
「なんだよ。怖いのか?」
「……そうじゃないけど……き、緊張するし……」
「……いいから、こっち向けよ」
「……っ」
「伊織……」
「……は、はい……」
怒るでもなく、面倒臭そうにするわけでもなく。
優しい声で宥めるようにそう言った景吾につられて、わたしはゆっくりと顔を向けた。
額にキス。
目をきゅっと瞑った後にぱちぱちさせて視線を逸らしていたら、無理やり視線を合わせるように顔を覗きこんできた。
目をあった瞬間、ふっと微笑んで鼻にキス。唇に……キス。
そのまま上に覆いかぶさるように体勢を変えて、わたしの手を握り締める。
景吾の優しいキスが、じっくりとわたしを確かめるように何度も落とされていく。
ドキドキが止まらない。体中がじんじんする。
「伊織」
「はい……」
「男に抱かれるのは、初めてだな?」
「え……あ、う……うん……面倒臭いかな?」
自虐的に真顔で返したら、景吾も負け時と真顔で「バーカ」と返してきた。
「俺以外の男で済ませてやがったら承知しねえと思っただけだ」
「そんなこと言って……景吾は済ませてるくせに」
「ほう?そう思うかよ」
「そうなんでしょ?」
「どうだかな」
「ずる……ッ!……ん」
益々、ずるい。
このタイミングで口を塞ぐようにキスしてくるなんて。
その唇が首筋に落ちて、鎖骨に落ちていく。
やがて、シュルっと紐が解かれていくのがわかった。
咄嗟にぎゅっと目を瞑る。遂に裸を見られるのかと思うと、嫌でも体に力が入った。
だけど。
「……あ、れ」
「お前、めちゃくちゃ怖がってんだろ?」
「……え」
「もっと力を抜け」
わたしの腰紐を解いていた手はいつの間にかわたしの頬を包んで、景吾は心配そうにわたしを見下ろしていた。
体がびびり過ぎてしまっていたせいで、彼を萎えさせてしまったのかもしれないと思うと途端に青ざめてくる。
「ごめ……」
「まあ、緊張してんのはお前だけじゃねえよ」
「え……」
「後ろ向け」
「え!」
「バーカ。うつぶせになれっつー意味だよ」
謝ろうとすると優しく微笑んでくれた景吾が、いきなり真顔で「後ろ向け」は素直にびっくりしてしまって、とんちんかんな勘違いをした馬鹿な反応に、素直に呆れられてしまった。
そしてわたしは言われた通りにうつぶせになる。
すると突然、ぐっとお腹に手が割り込んできた。
「っ!」
「これなら、恥ずかしくねえだろ?」
「景っ……あっ」
「体の奥まで、愛してやるよ」
するすると腰紐が解けて、バスローブを拭って、景吾の手がわたしの胸元あたりを進んできた。
うなじにキスをされながら、次第にバスローブが脱がされていく。
腕を撫でられながら背中が露になったとき、背中のいたるところにキスが降り注がれた。
「景吾っ……んっ……」
背中にぴったりとくっつく景吾の胸板と唇の熱で、彼も裸になっているんだと気付く。
顔を枕に埋めたまま、わたしは景吾の愛撫に溺れていた。
後ろから回ってくる手のひらが胸を包んでも、その流れが自然で、こちらも自然と身を委ねることが出来る。
恥ずかしくない、とまでは言わないけど……いきなり脱がされて胸を愛撫されるよりも、断然いいことは確かだった。
「ぁっ、う……」
「伊織」
「んっ……」
「綺麗だ」
何度も背中に落とされるキスに感じて、愛撫される胸が喜んで。
耳元で囁かれて顔を上げたら、うっとりするような言葉を受けながら何度も熱いキスを繰り返す。
背中から抱かれながらするキスはまるで映画のラブシーンみたいで、そんなことされてる自分にもうっとりしてしまう。
それに、景吾のキスは、どんなに熱くても、驚くくらい優しい。
「少しは……解れただろ?」
「うん……」
言われながら、ゆっくり仰向けに体勢を変えられた。
不思議と、何も恥ずかしくなかった。
景吾は正面を向いたわたしにもう一度キスを落とすと、ようやくその唇をわたしの胸に落としてきた。
手を強く握られて、押さえつけるようにされていたけれど、その重みは歓喜に溢れていた。
初めて味わうその喜びに、体の芯が快感で震えそうだ。
「あっ……ン……ぅ、景吾……」
「ん?」
「や、やっぱり恥ずかしい……っ、ん」
「今更なに言ってやがる」
長いあいだ胸が景吾の口の中で愛されるせいで、堪えようとする声も漏れていく。
そんな自分の声が、恥ずかしいのだ。
「だって……あッ……自分じゃ、ないみたい」
「もっと狂わせてやろうか?」
「えっ……ッ!……あ、ぅ……あ……」
「いい声だな」
ぱっと繋いでいた手が離れたと思ったら、景吾の指が、なんの前触れもなくわたしの体の中に入ってきた。
自分が潤っているのがわかる。
だから景吾の指を抵抗しなかったし、中でうごめく波もやめてほしくないと心が疼くように訴えかける。
現に、その生々しい愛撫の音が、部屋中に響き渡るほど。
「景吾っ……あっ、う」
「そんな泣きそうな顔すんなよ……いいんだろ?」
「う、けど……あっ、ハズカシ……よ……、だって、音……」
「だったら、キスで誤魔化してやるよ」
「んっ……!」
愛液が溢れ出るような音が耳にこびりついて、それが恥ずかしくて、でも、景吾に愛されてるのが嬉しくて。
涙が出そうになってたら、景吾はまた、片方の手でわたしの頬を優しく撫でた。
そして、今までにないくらい、激しいキスをする。
ちゅく、ちゅく、とお互いの唇から出ていくキスの音にすら興奮して、必死で景吾にしがみついた。
景吾は、しがみつくわたしを抱きかかえるように身を起こした。
景吾の腕が背もたれになって包まれて、守られている気がする。
「んっ、んっ……景吾、ハァ……も、もう、いいからっ……」
「あーん?いいかどうかは俺が決める」
「やだっ……も、おかしく、なりそ……っ」
「なれよ……そういうお前も全部俺のものにしたくて、抱いてんだぜ」
「ンッ……、そ、わたしは、景吾のものだよ……ん、ぁっ……」
「まだ全部……見せてねえだろ?」
ぐっと、景吾の指が膣の奥で曲がって、息を大きく吐いた瞬間に、びくん、と体が揺れた。
突然襲ってきた波がはじけたように一瞬にして気持ち良くなって、体が弓のように曲がった。
これが、絶頂なのだろうか……体が熱くて仕方ない。
景吾はそんなわたしに、伊織、と聴こえないくらいの小さな声で呟いてキスをする。
そして抜き取った指を拭うことなく舌で舐め取った。
どうしよう……それがすごくいやらしく見えるのに、すごく嬉しいなんて、病気みたい。
「痛くなかったか?」
「う、うん……大丈夫」
そんな姿をわたしがぼうっと見ていたせいか、景吾は気遣うようにわたしの頭を撫でて、近くにある水を渡してくれた。
体に浸透していく水分が心地良い……熱くなった体に落ち着きを取り戻してくれているようだ。
やがて、水を置いたわたしの体をもう一度ゆっくりと愛撫するように、景吾は頭の先からキスを落としていく。
優しく抱きしめて、爪の先までキスをして、そのまま、今度は景吾が下になるように傾れた。
こちらが押し倒しているような格好になって、何度も景吾にキスをしていると、
彼の頬を包んでいた手を、するっと彼に取られた。
その手が、下へ下へと誘導されていく。
え、と思った時には、すでに景吾の熱い部分に触れていた。
「っ……あ、えっと……」
「そろそろ……入ってこいよ」
「入る……?え、えっ!?そ、景吾、それはいきなり高度過ぎるよ!」
何を言い出すのだ!わたしはヴァージンだというのに!
だけど景吾は冷静だ。
「あーん?なんの為につけたと思ってんだ」
「つけたって……え」
直視をするのはなんだか恥ずかしかったので、探るように触れていくと、確かに下の方に段差がある。
いつのまに装着したんだろうと思っていると、景吾は、こほん、と咳払いを前置きした。
「あのな、医学的にこういう話を聞いたことがある。正常位で男が入れるよりも、女が自分でいいように入れていったほうが痛みは無いってな」
「そ、本当!?」
「ああ……痛いだけで終わらせたくねえだろ?」
「それは……そうだけど……」
「いいから、やってみろ」
「あっ、う……」
子供を抱っこするように、景吾がわたしを股の上に乗せた。
痛いかもしれないとわかっているのに自分からやるのは怖いし残酷のようにも思うけど、景吾がわたしの痛みを軽減しようとしてくれているのは百も承知で……。
わたしは、勇気を出して、まず、ダイレクトに景吾のそれを触ってみた。
「ん、……」
「あ……け、景吾、気持ちいいの?」
「うるせえ。早くしやがれ」
「うー……自分だって恥ずかしいんじゃん……」
顔を赤くしてそっぽをむいた景吾に、景吾だってこんな風に進めたくなかっただろうなと思った。
あのかっこつけの景吾が、ムードを無視してこの方法を選んでくれたということは、わたしはそれだけ、愛されているということじゃないだろうか。
「あ……」
「どうした」
「……痛く、ないかも……ホントに」
「……っ、ん」
じわっと先端を入れると、別に普通に入った。
もちろん、さっきの指よりはちりっとしたものの、思っていたよりもスムーズで、わたしはそのままゆっくり、腰を下ろしてみた。
……あれ。痛くない。
と、思ったのと同時に、景吾が眉間に皺を寄せて、なんとも色っぽい声をあげている。
「景吾……わたし、どうしたら……」
「そのままにしてろ……っ、く……なんだよこれ……」
「ど、どしたの……?なんか、気持ち悪い?」
「……っ……はぁっ……熱いな……吸い付くみてえ……」
「えっ……あっ……!あっ……や、あっ……」
「……はっ……ん、……っ」
ドン、と、突然下から突き動かされた。
景吾が上体を起こしてわたしを抱きしめてきたから、キスをしようとしたら、突然。
わたしの胸に顔を埋めて、時々わたしを見上げるようにして、キスを懇願するように、切ない瞳を向ける。
こんな景吾の顔を見れるのはわたしだけなんだと思うと、そんな心に反応したのか、また快楽の波が押し寄せてきた。
「やっ、はっ……景吾……っ、あっ、……」
「くっ、……んっ……や、じゃねえだろ?」
「あっ……うっ……また、おかしくっ……なりそ……っ」
「なれよ……いくらでも……んっ、はっ……ハァッ……」
「えっ……あっ、ああっ……す、すごい、きもちっ……いっ」
「もっと、良くしてやるよ……はぁ……言っただろ?……ん、……体の奥まで、愛してやるって……っ」
最初は緩やかだった景吾の動きが、次第に早くなってきた。
そうして動いているほとんどの時間、わたしと景吾は舌を絡ませていた。
こんなにしたら、唇が腫れてしまうんじゃないかと思うほど。
だけど長い間そうされていると、自分の腰も自然と動き始めていることに気付く。
恥ずかしい姿などと言っている場合ではなかった。
ひとつになっている快感と、愛されている現実と、言葉では伝えきれない愛情に包まれて、気持ちよくてどうにかなっちゃいそうだ。
きっとこんなにいいのは、相手が景吾だからに違いないと、初めてのくせに偉そうに思う。
「んっ、んっ……景吾っ……い、いっちゃうよ……」
「ほう?もうそんなの覚えちまったのか伊織は」
「あっ、あっ……い、意地悪、い、言わないでっ……」
「意地悪はどっちだ……んっ……俺を……こんな気持ちにさせやがって……っ」
「ッ!」
「はぁっ……伊織……っ……」
今度こそ、押し倒される形になった。
最初が痛くなかったおかげなのか、そもそもわたしはこういう体質なのかわからないけれど、正しい位置になって景吾が強く腰を振っても、痛みは全くと言っていいほど無かった。
片方の太ももを撫でるようにして、膝の下に手を挟んで上げられる。
ぐっと奥に景吾を感じて、景吾もそれがわかったのか、熱いため息を吐いてより強く腰を打ち付けてきた。
「はぁっ……いく……っ、……伊織っ……」
「うんっ……あっ、んっ……あっ……」
「……っ」
果てるのと同時に、景吾はわたしの肩に頭を預けて、息を切らしながら強く抱きしめてくれた。
ひとつになっている部分が、お互いがそれこそ息を整えるように凝縮しているのを感じる。
結婚したらこの余計な隔たりもなく景吾を感じれるのかと思うと、さっさと結婚をしてしまいたくもなった。
とんでもない思考回路だ……快楽というのは恐ろしい。
だけど、こんなに優しい気持ちで、こんなに幸せになれるのだ……溺れてしまうじゃないか。
「景吾は結局、初めてじゃないよね」
「まだそんなこと言ってんのか。寝るぞ」
「さっ……最低!終わったらすぐ寝る男は最低だって聞いたことあるよわたし!」
「くだらねえこと言うからだろうが……ったく、こっちに来い」
水を飲みながらいちゃもんをつけたわたしに、景吾は怒るでもなく呆れるでもなく、手招きをして腕を差し出してくれた。
一時前の景吾からは考えられない甘い優しさに思わず頬もゆるゆるになってしまいそうになる。
いそいそと景吾の腕の中にもぐりこむと、ぎゅうっと強く抱きしめてくれた。
「ねえ景吾」
「ん?」
「なんでいきなりさ、結婚しよって言ってくれたの?」
「あーん?どういう意味だ?」
「だって別にわたし達、高校生なんだし……付き合う、でもいいじゃん。結局さ、結婚は随分後になるわけだし……それにー……リスクとかさ、あるかなって」
「……聞き捨てならねえ言葉だな?リスク?」
「い、いや……だって……もし、別れるとかなったら、面倒臭いでしょ……婚約、してると」
「別れるつもりはない」
「わかってるけど、でも、そういうこと考えなかったのかなって!」
別に甘い言葉を吐いて欲しいとか、そういうことじゃなかったのだ。
だけど不思議なもので、体を共有すると今まで聞きづらかったことが聞きやすくなる。
お互いの知らない部分を知ることが出来るからなのかもしれない。
わたしは、本当に少し疑問に思っていたことを思い切って聞いてみた。
そりゃあ、愛してくれてるから、婚約してくれたんだろうけど……でもそれにしたって、高校生なのだ。
そこまで思い切ってくれたのは何があったからだろうと思いたくもなる。
もしかしたら最初の始まりが婚約だったら、無理矢理、婚約にもっていったんじゃないか、とか……。
「リスクについては考えた」
「ほ、ほらやっぱり!だから、すごい、決断してくれてありがとうって……」
「言っておくがお前が考えているようなリスクじゃねえぞ。婚約の真似事してたからだとか、そんなことは何も関係ねえ」
「え、でも……」
「俺が考えたのは、付き合うだけじゃお前が誰かに取られちまうかもしれねえってリスクだ。人の気持ちなんて一生保障もなにもねえだろうが」
「え……」
「……ならばせめて、表面的にでも俺のものにすればいい。簡単に俺から離れられると思うなよ?この俺様と婚約破棄でもしてみろ……今度はお前が自己破産を選ぶことになるぜ」
「………………」
「くくっ……冗談だ」
「わ、笑えない!!」
ぎょっとしたように身を引くと、本当に離すものかと言わんばかりに腰を抱かれる。
その力がまた強くて、ひー、とこちらも冗談ながら喚いた。
けたけたと笑い合える時間……やっぱり、早く結婚したいと思ってしまう。
「びびんなよ。したくてしたんだ。それで満足か?」
「うん……ごめんね。疑ったわけじゃないんだよ?」
「……伊織」
「ん?」
「俺のお前に対する言動は、すべてにおいて理由はひとつ……」
「え……」
「……愛してる。それだけだ」
「……うん……ありがとう」
それだけが、どんなに嬉しいか。
これからどんなことがあっても、その言葉を信じて、すべて乗り越えていけるだろう。
あなたと永遠に誓った愛は、一生、心に命を吹きかけるよ……きっと。
fin.
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