自惚れの破線_02







きっと、私は好きな人を見つけた。

一晩でこんなに誰かを好きになるなんて思ってなかった。

それでもなかなか勇気が出なくて、でもあの夜からの日常がつまんなくて。



















自惚れの破線

















2.







「素敵だったでしょ、彼」

「すっごく素敵だった…」


「伊織ちゃん、酔ってるね」

「え!?飲んでないよ私!?」


「違うよ、彼…跡部くんに!ま、無理ないかあの顔じゃ」

「う…顔…別に顔だけじゃないよぅ…」


「わかってるわかってる、人を惹きつける魅力があるもんね、彼は」

「そ…うん…うわー…どうしよう、好きかも…」


いいじゃんいいじゃん!押しちゃえ!と言った千夏ちゃんは、帰りのタクシーの中でかなり盛り上がっていた。

きっと彼女も忍足くんとかなりラブラブな時間を過ごしたんだろう。

それが一ヶ月前のこと…暑くなってきた日差しに、私はすんなり起きることが出来ない…けど何が何でも明日は…









ピピピピピピピピピ!という大きな音で飛び起きた。

デジタル時計は午前6時を表示している…ああ、やっぱり寝ていたい…。

それでもむくっと私は起きた。彼に会いに行くために。

丁度今頃、彼はテニスコートですでに練習を始めているんだろうか。

毎朝早起きな彼に感心する…それがスポーツマンというもの…?

先週買った洋服を身に着けて、髪を何度もセットして、お気に入りのバッグを出した。

出かける前に、千夏ちゃんから誕生日プレゼントにもらったうなずきんに話しかけてみる。


「行ってくるね!」


うん、と頷く。

よし!とドアを開ける前に、小心者な私はそろっと一歩下がってもう一度話しかけてみた。


「……びっくりするかな…?」


いや、いや、と首を振っている。


「…喜んで…くれるかな…?」


うん、うん、と頷いた。

ぱあ!と元気になった私は、今度こそ家を出た。




土曜日の朝、人通りの少ない電車に乗ってやってきたのは閑静な高級住宅街。

その一角に出来立てのようなテニスコートが堂々と構えていた。

そっと近付くと、入口は完全に閉まっている。

それでもどこからか、テニスボールの音が聞こえてきた。

景吾だ!

思わず声に出してしまいそうなほど舞い上がる、私の身体。

そっと携帯を出して、コールしてみた。

ルルルルル、と鳴る音と同じくらいドドドドド、と胸が高鳴る。

本気にしてここまで来た私に、彼がひいてしまったらどうしよう。

一ヶ月も前のことだし、もう忘れているかもしれない。

それに、ああいうとこは嘘でも誘う席なんだよ、とか、思われたらどうしよう。

で、でもそうだったら携帯教えたりしないよね…あ…でも私携帯聞かれなかった…無理強いはしないって言ってたのってもしかして、遠回しに本気にするんじゃねぇぞって意味だったらどうし…


≪もしもし≫

「あっ!!」


いろいろ考え事をしているとコール音がぱたっと止み、彼の声が耳元で聞こえてきて私は咄嗟に声をあげていた。


≪あーん…?≫

「あ…あの…えっと…」

≪…≫


いたずらだと思われているのかもしれない。

無言になった彼に一瞬不安を覚える。

だけどそれはすぐに、彼の声によって消滅した。


≪くくっ…伊織だろ?ちゃんと名乗れ≫

「あ…!ご、ごめん!伊織です!えっと…本気にして…来ちゃったんですが…」

≪ふっ…遅いんじゃねぇ?俺が誘ったのは一ヶ月前だぜ?≫


一ヶ月でこんな決心をした私を褒めて欲しいとこだったというのに、遅いと言われてしまった…そんな、翌日にじゃあ早速って言えるほど…

私は積極的になれない!千夏ちゃんじゃあるまいし!!


「や、その…すいません…」


なのに何故か謝ってしまった。

とりあえず彼のセクシーな声を耳元で聞いているだけで暴れ出しそうだ。

私はそんな自分を抑えるようにその場で足を騒がしく動かし、同じ場所を何度もゆらゆらと回っていた。


「フラれたのかと思ったぜ」

「!」


その時、電話から聞こえるのと同じ声が背後から頭に降り注ぐ。

ゆっくりと、ゆっくりと振り替えると目の前にスポーツウエアが見えて。

それからまたじっくり時間をかけて上を見上げると、太陽の日差しを浴びながらニヤッと笑って、パンッと携帯を閉じた景吾が言った。


「おはよう」





* *





念のためにスポーツ用の衣類を用意してきておいて本当に良かった。

景吾に会うためかなりのおめかしをしてきたものの、もしも教えてやろうかと言われたら、それを断ることは絶対に出来ない。

早起きしてスポーツ…私の今までの生活では考えられなかったこの状況。

誰に誘われてもきっと絶対しなかっただろうことを、私は彼に会いたいというそれだけで、今、このコートの上に立っている。


「流れるように、打つ」

「流れるように…打つ…」

「腕だけじゃなくて全身で打つ感じだ…いや、そうじゃねぇ」


テニス、というスポーツを初めてする私に、景吾は苛立つことなく優しく教えてくれている。

でもこの人、プロの選手のはずだ。どこまでも運動音痴な私に呆れているだろう。

そしてテニスファンならたまらないこの指導を、私は違うたまらない理由に置き換えている。

とっても不純な理由だ。


「伊織」

「はい!ごめんねうまく出来なくて…」


たじたじと謝った。

熱心に教えてくれている彼に申し訳なくなってしまう。

テニスよりも何よりも、ただ貴方と一緒に居たいだけで、だからきっと一向に私はテニスの打ち方さえ覚えれないんだと思う。

とでも言ったら引かれるだろうか。


「…エロオヤジとか言うなよ?」

「は?」


謝る私を見て、少し考えた後に景吾はそう言った。

私がとぼけた声をあげると、それを無視して彼は私の背後に回る。

その瞬間、これから何が起こるのかは私にでもわかった。

ドキン、と胸が高鳴る。

触れられる前から高鳴る私の胸は、触れられたらどうなってしまうのだろう。


「こう…腰はこう…足の曲げ具合はこの程度」

「な…なな、なるほど…」


いきなり腰に手を当てられて、ラケットを持つ手の上に大きな手が重ねられた。

そしてそのまま、ゆるやかに体が動いた。

まさに、流れるように打っている素振り…すごい、こういうことなんだ。


「どうだ、掴めただろ?」

「うん…すっごい解りやすかった!」


嬉しくて笑った私を見て、景吾も微笑んだ。

男性と、こんないい感じの雰囲気になることなんて何年ぶりだろう。

しかも相手は、今までの人はなんだったの?ってくらい、とびきりのイイ男で。


「よし、じゃあ軽く打ち合うか!」

「えっ…えーっ!無理!!無理無理!」


「あーん?打ち合いしねぇと帰れねぇぜ?」

「えーーーーっ!?」


強引に決まった打ち合いで、私は10分後にはヘトヘトになっていた。

テニスって結構激しいスポーツで…しかも空振りの連発。

私の中で勝手に決めてた爽やかというイメージは、簡単に崩れ去っていた。









「伊織、それは食べないのか?」

「え…あ…これ…嫌いなの」


「こっちは?」

「こっちも…」


テニスの練習に付き合ってくれたお礼にランチをごちそうすると景吾に言われた。

私が勝手に来ただけだから!とは言ってみたものの、内心は行きたくてしょうがなかった。

そんな私の気持ちを見透かしているような景吾は、すぐに私を捕らえて「誘ったのは俺だ、いいから来い」とタクシーに乗せた。


結局あの後、すぐにバテた私は11時までベンチで座っていた。

10時には彼のマネージャーなのかトレーナーなのか、誰かが来て、本格的な練習が始まってから1時間、私はずっとそのプレイに見入っていた。

2時になったらまた戻ると、そこにいる人達に告げた景吾。

休憩が3時間なんて贅沢だと思いながら、この3時間は私のためかと思うと顔がニヤける。

それを悟られないようにしながらタクシーで彼と会話していると、いつのまにか目的のお店についていたようだ。


「あれ…ここ…」

「今日はここの1階だ」


そのお店は景吾と私が出会った、千夏ちゃんに強引に連れて来られた、高級そうな、入るのに躊躇した、あの思い出のお店だった。

景吾に会うためだったとは言え、おめかししてきておいて本当に良かった。

今日は自分の服装についてほっとすることの多い日だ。

彼は黒のパンツに白いシャツで軽くキメている。

何を着ても彼なら高級そうに見えるところがすごい。


「いらっしゃいませ跡部様」

「コース」

「かしこまりました」


このボーイさんとのやり取りがすごくさまになっていて…というか常連さん…?

ああ、そういえばまだまだ、私って彼のこと知らないな…。

そう思ったのは、ほんの30分前のこと。


「好き嫌いはよくねぇぜ?子供の頃言われただろうが」

「だって嫌いなんだもん…これも…これも…」


お皿の上に乗っている嫌いなモノをフォークで端に端にと除ける。

ご馳走してもらっているのに、きっと高級なお店なのにこんなの良くない。

すごく良くないのはわかってても食べれない。

申し訳ないなと思いながら彼の表情をチラッと見ると、小さなため息をついて完全に呆れていた…どうしよう、嫌われちゃう…。


「しょうがねぇ奴だな」

「え…あっ…!」


私と視線が合った後、景吾は苦笑すると私が除けていた嫌いなモノをさっとフォークで刺して自分の口の中に放り込んだ。

こんな、クラシックが穏やかに流れていて、どこのテーブルを見ても予約席のようにナプキンがタワーの如く立てられていて、ずらっとフォークとかスプーンとかナイフが並んでいて、つまり、すごくマナーが要りそうなこんな高級なお店で…!

絶対にそんなこと、しそうにない景吾が…!


「お前が食べれねぇなら俺が食べてやるよ」

「ごご…ごめんなんかあの…!」


「次は大衆食堂にでも行くか」

「へ?」


「緊張してんだろ?全然旨そうじゃねぇぜ?さっきから。くくっ…」

「う……で、でもすごい美味しいよ!こんなお肉食べたことない!」


本当に美味しいのだ。それは嘘じゃない。

だけどすっかり緊張しきっていた私をすんなり彼に指摘されてしまった。

こういうとこなら、私も何度かデートで…くらい、気取ったフリをしてたのに。

彼に見合うように、頑張っていたつもりだったのに…。

だってもう24歳…こういう場所で慌てるに相応しくない年齢じゃない?


「食事が終わったら、散歩でもするか」

「え…?」

「のんびり出来る場所で…気が休まるぜ?」


ふっと笑った彼の、その魅力に、私は虜になっていた。









人は、少なくもなく、多くもなく…休日の昼間に相応しい数でとても綺麗な公園にそれらしい子供の声もちらほら。

緑いっぱいの空気を吸いながら、景吾と私は緑の上に腰を下ろしていた。


「景吾、あの…ごめんね、せっかくなんか、連れてってもらったのに…」

「あーん?…なにが?」

「あいや…ご馳走になったのに、あんないいとこで…いろいろ残しちゃったりして…申し訳なくて…」


じめじめと、注がれる太陽とは間逆に私の言葉は出されていく。

景吾はそんな私の謝罪を子供達を見ながら笑って流した。


「食べれねぇもんはしょうがねぇだろ、気にしてんじゃねぇよ」


そして最後に、らしくねぇな、と付け加えた。


「らしくないって何ー!私ってそういうの気にしなさそう?」

「ビンゴ」

「ひどい〜〜〜!」


笑いながら私が返すと、あははっと綺麗な顔して笑う。

こんな少しのことだけで、どんどん彼を好きになる。

でも、好きになるってことは、同時に私に不安をもたらす。

なんせ相手が、良すぎる…。


「景吾…って…彼女いないの?」

「あーん?」

「いや、あの、いいのかなって…絶対彼女いるでしょ?私とここでこやって二人でいて、いいのかなって…いや、私らは、ただの友達同士だって、お互いわかってるからいいけど!」


なんという誤魔化しだろう。心にも思ってないことを言ってしまう。

でもフリーには見えない。とてもじゃないけど。

こんな下手くそな詮索をして、大丈夫だろうか…。

少しだけ積極的になってしまった自分に後悔する。


「ああ…自称彼女なら腐るほどいるぜ?」

「えっ…!」


「まぁそういうのは、片っ端から排除してくけどな」

「うわー…」


つまりどうしょうもなくモテるんですね、と言いたくなってしまった。

私もいつか排除されてしまうんじゃなかろうか。

でも自称彼女と思わせるからには…思わせぶりな態度を取ってるってこと…?


「冗談だ。なに真剣にひいてやがる」

「冗談に聞こえないんですけど…」


「お前こそどうなんだ?」

「私!?いるわけない!」


「いるわけないってどういうことだ?変な女だな」

「いや…いないのよ、つまり…」


「まぁそういうことだろうな…」

「そう…そういうこと…」


ここにして、変な沈黙が流れた。

景吾が今、何を考えているのかすごく気になる。

それと同時に、結局、彼女はいないってことで解釈していいのかな、

と、淡い期待を抱いている私もいる。

そしてなんとかこの気まずい沈黙を破ろうとしている中、景吾が突然、ごろんと芝生に横になった。

ぎょっとしてみるも、自然と目を瞑っている彼に声をかけることが出来ない。

そして彼も特別、何も言わなかった。

一度、正面を向く。深呼吸をする。遊んでいる子供達を見る。

それからたっぷり1分は過ぎた後、やっぱり気になって、彼の顔を覗き見た。


「……」


私が彼の顔をどれだけじっと見つめていても、彼はびくともしなかった。

これは…寝てしまって…いるんだろうか。

というかあまりに綺麗なそれに、私の血がどんどん上っていく。

長いまつげ、綺麗な髪、凛々しい眉、すべすべの肌、少し高めの鼻、淡い色の…唇…

ドクン、ドクンという私の中の爆発寸前の音に苦しくて堰をしてしまいそう。

その時だった。


「伊織」

「えっ!!」


眠っていたはずの彼から、名前を呼ばれて。

だけど彼はその状態のままで、寝言かと思ってしまうほどに優しい声で。


「今俺がお前の立場だったら、襲うぜ?…」

「…え…っ…」


どういうこと…?

そう言おうとした時、私の手の上に、彼の手が重ねられていた。


「こういう休日も、たまにはいいだろ…?」

「………うんっ…」


それから1時間、景吾は横になったまま私の手を握って、私はされるがままに、飽きもせず彼の顔を見つめていた。









「で?」

「でって…」


「それだけ?」

「そ…それだけ…あとたまに夜、食事行ったり…」


「なんか微妙すぎないそれー!?」

「そうなんだけどでも…!!でももうね、その日私、寝れなかったの!!」


更に二ヶ月後、久々に千夏ちゃんと夜に食事をしようということになった。

そして私は案の定、彼とのこれまでの事を話していた。

今日はちょっと聞いて欲しいことがあると言ったら、明日から三連休だしいいよね!と言って、彼女はわざわざ話しやすいように自宅に招待してくれたのだ。

久々に彼女の家に泊まることになった私は、どんな反応をするのか楽しみで、やっとそこまで話した後だった。


「よし、じゃあその後のデートの話を聞こうじゃないの。それが先々月のことでしょ?」

「うん、でも景吾って忙しいみたいで。会おうと思えば朝そのテニスコートに行けば会えるけど、もうそんな、ねぇ?誘われてもないのに…」


「まぁね、そこで誘われても行きにくいわな。練習なわけだし一応。社交辞令だと受け取るよね普通」

「そう…だからその公園事件の後は、ほんとにたまに、二週間に一度とか、誘われたら食事行く…みたいな。普通に、ほんと普通に食事して、送ってもらって、終了…」


「……じゃあなに?一番どきばくだったのは初回のその公園?」

「そう!そうなのよ…っ!」


なんだそれ、と彼女はつまらなそうに呟く。

メールとかは?と来る質問に、3日に1回くらいはしたりする、という返事をするとまた、なんだそれ、と言われた。


「何その反応ーっ!」

「いや、だっていい大人なんだから二人ともさぁ…まぁいいけど。跡部くんって意外に奥手なのかしら?」


「普通だよー!普通!それに…脈アリだって決まったわけじゃ…」

「またまたそんな心にも思ってないこと…ね、明日もデートなんでしょ?そろそろ彼から交際の申込みがあるんじゃない?期待してるんでしょ〜?」


にやにやとこっちを見ている千夏ちゃんの顔が憎たらしい。

確かに私、こんな自分のどこにそんな自信があったんだってくらい、景吾との関係に期待してる…だって、あれから何度か夜にデートして…ただ、食事して会話して帰るだけだけど、すごく、充実してて。


「そんなこっ…!」


千夏ちゃんへの反抗で、そこまで私が声にした時、携帯が鳴り出す。

二人してバッとその方向を見た。

千夏ちゃんはすかさず、「きゃー!噂をすれば!」とにやける。

私はひやかされたことで顔が真っ赤になりながら、おどおどと電話を取った。


「も、もしもし?」

≪…どうした?≫


「えっ…」

≪声がおどけてるぜ?大丈夫か?≫


ふっと笑って耳元で囁かれる大好きな人の声。

電話で彼の声を聴くのは久々だった。

貴方の噂話を友達としてたからなの、なんてこと言ったら景吾はどんな声を出すだろう。

だけどそんなこと言えるわけない私は、大丈夫だよ、と返す。


≪ならいい。さて、明日の夜だが…空いてるよなぁ?≫

「うん!大丈夫」


実は昨日、メールで明日電話する、ともらっていた。

景吾はマメな人だ。電話をする前に電話をするというメール報告がある。

電話の内容は、大抵、デートのお誘い。しかも決まって翌日に誘う。

つまり予定を空けとけってことと、ダメなら今のうちに断ってくれという意味が含まれている。

それなのに、電話で明日の夜の予定を聞く景吾。

彼の優しさが滲み出ているようで、私はそれだけで胸が熱くなる。


≪こないだいい店を見つけた。鉄板焼きの店だ。気取らなくてもうまい肉が食える。行ってみたいだろ?≫

「わぁ!行きたい!お肉大好き!」


≪ふっ…よし、じゃあ決まりだ。明日、夜8時でいいか?≫

「うん!」


≪場所はまたメールする。じゃあな、おやすみ…≫

「おやすみ〜」


私がおやすみと言って、電話を切るまで景吾は電話を切らない。

暗黙の了解で、そうしようと決めたわけじゃないけどそうなっているこの関係が嬉しい。

そんな中、すっかり千夏ちゃんのことも忘れてほくほくしていた私に、彼女は冷蔵庫から出したての、とびきり冷えた缶ビールを頬にぶつけてきた。


「ぎゃああああ!」

「ほらほら、お熱冷まさないとねー」


「冷たいよ千夏ちゃん!!」

「だってほら、湯気出てたもん」


ケタケタ笑いながら、明日のデートはどうなるだろう、なんて二人で夜通し話した。

私の久々の恋愛に、千夏ちゃんは自分の事の様に盛り上がっている。

彼女が指摘したように、私はすでに期待をしていた。

しょっちゅうメールをして、たまにこうしてデートに誘ってくれる景吾。

明日は友達として、最後のデートになるのと同時に、大事な記念日になるかもしれない。

そう誰もが予感するような関係で…勿論それは、私が一番強く信じていた。


……翌朝、テレビをつけるまでは。





to be continue...

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