Clash xxxx









「国光ーーーーーーーーーーーっ!」


俺の背後からそこら中に響き渡る大声…。

それを聞いてすぐに、俺の隣でのんびりと歩いていた不二が微笑む。


「大きな声だなぁ、相変わらず…クスクス」

「…………久々にこの時間に聞く声だな」

「…佐久間の確率、120%」


















Clash xxxx



















後ろから聞こえてくる幼馴染の声に、少々うんざりといった顔をしたくなったがそこは自然と我慢し、俺は眉間に皺を寄せたまま小さく息をついた。


「国光ってばーーーーーーーーーーーっ!」

「聞こえている。大声で俺を呼ぶな」

「久々じゃないか佐久間。こんな時間に会うとは珍しいな」

「そういえば…伊織に会うの久々かもしれないな。ふふ」


時刻は19時を過ぎたところだった。

帰宅部である伊織がこの時間まで学校にいることは珍しい。

練習で少し疲れた筋肉をクールダウンさせる為、俺は不二と乾と軽いジョギングを終えて帰るところだった。


「なんか久々に友達と話し込んじゃって!今、その子と門で別れてこっち見たら、見覚えある後ろ姿を見つけてね…」

「それで、大きな声で手塚を呼んだってわけだね」

「そういうこと♪最近国光と一緒に帰ってないし、寂しいかなって思って」

「要らぬ心配だ。自意識過剰とも言うが」

「これだもん…かわいくない男…」


ぶすっとそういう伊織の隣で、不二はクスクスと笑っていた。

何がおかしい。


「いや、そういえば一年の頃は手塚と伊織、一緒に帰ってたかなぁって…思い出してね。今じゃ考えられないから。ふふ」

「…?どしたの不二くん?何も聞いてないのにいきなり」

「俺が聞いたんだ、恐らくな」

「…?」

「まぁ、よくある光景だよ、佐久間」

「はぁ…?」


俺の考えが手に取るように不二に理解されたそのすぐ後に、俺と伊織は、不二、乾と分かれ道に手を振り、そして黙って歩き出した。

しばらく黙って歩いていると、その沈黙に耐えかねたかのように伊織が話しかける。

昔から伊織は、黙る事が苦手な女だった。


「…ねぇ国光、もうすぐ、試合なんでしょ?確か関東大会だっけ」

「それがどうかしたのか」


「私、今回は応援に行くよ」

「来なくていい」


「ちょっと何それ!?」

「だいたい、テニスに微塵の興味も示さなかったお前が、一体どういう風の吹き回しだ?」


本当に、今までスポーツをやることもなく、かと言って勤勉に励むこともなく、ただ遊ぶことだけが得意な伊織の口から…テニスの試合を観に行くと言い出したことに対し、俺は冷たく言い放った。


「何その言い方。別にいいじゃん。観に行きたいんだよ」

「ルールひとつわからずにか?」


「ルールくらい…!…み、見てればわかる」

「………回りくどいのは好きじゃないんだが…」


「う…だってなんか国光が、最近楽しそうなんだもん」

「………お前は俺の母親みたいなことを言うんだな」


ついこないだ、朝食時に母に言われたことをふと思い出した。

女性というのは、観察力が鋭いのだろうか。


「特に、関東大会決まってから、なんかすごい、熱くなってる気がして…!」

「…そうか」


関東大会…表情には出してないつもりだったが、確かに俺は熱くなっている。

全国を決める大事な大会であると共に…光栄なことだ、第一試合からあの男と戦える…その時が迫ってきている…なんとしても、勝たせてもらうぞ…。


「そんな国光見たことなかったから…余程、強い人とやるに違いないなって」

「…………好きにすればいいんじゃないのか」


「本当は応援に来て欲しいくせに〜」

「………」


いじらしい顔をして、俺の腕を突付きながらそう言った。

俺はその伊織の言葉に無反応に、歩く速度を早めていった―――。














「国光ーーーーーーーーーーーっ!」


関東大会初日、私は会場へ到着してしばらく歩き回った後、ようやく見つけた背中に向かって叫んだ。

それを聞いた、隣に居た不二くんがクスクスと笑ってこちらに手を振っていた。

あれ…?これってなんか、デジャヴ?


「……本当に来たのか」

「手塚ってば素直じゃないね。さっきから気にしてたくせに」


「…誰がだ」

「だから手塚がね…ふふ」


私を見て冷静に対応する国光も、不二くんの言葉にピクッと眉を動かした。

多分、他の人にはなかなかわからない程度の動きだけど…。

幼馴染の私にはわかる。ちょっとムッとしてる…。


「でしょ〜?国光って昔から照れ屋さんなの」

「誰がだ…!」


私がそんな彼を見て、不二くんと一緒になって国光をいじり倒していると、後ろに人の気配がして、私は自然と振り返った。

その時、初めて彼を見た…最初の感想は…


「よう手塚。こんなとこで女とママゴトか?あーん?」

「!?」

「……」

「跡部…」


何コイツ。

今、不二くん、跡部って言った…?なんかどっかで聞いたな…跡部?


国光のテニスは全国区で、こうして挑発されることは多いっていうのくらいは知ってる。

だけど女の私が傍にいるだけで、それをひやかす様な挑発をする男はガキだと思った。


「お前らデキてんのか?」

「お前は男と女が一緒にいるとそういう解釈しか出来ないのか?」


冷静に言い返す国光に、彼はふんと鼻で笑っている。


「ああ…そういえば跡部、こないだ桃にも同じこと言ったでしょ?」

「うるせぇ不二。俺様は手塚に用があって来たんだよ」

「はいはい、ごめんね。クスッ」


自分に突っ込んできた不二くんをキッと見て、彼は国光に近付いた。


「今日はお前らには悪いが…勝たせてもらうぜ、手塚。いや…お前には悪いが…か…」


何を偉そうに…。

二人が至近距離で話し合っている隙に、私はすかさず不二くんに寄った。


「ねぇねぇ不二くん、あの人誰…?」

「ん…?伊織知らない?氷帝学園テニス部部長、跡部景吾だよ」


「あぁ…!聞いたことある!あ、そっか!だから…!」

「ふふ。跡部との試合は初めてだからね」


私が言わんとすることを、不二くんはすでに理解していた。

最近、国光が熱かった理由はこれなんだ、と私はすぐに判った。

この偉そうな男との試合に、最近の国光はちょっとワクワクしていたってことか…。


「無論、こちらもそのつもりだ。あまり派手にして恥をかくなよ、跡部」


「…もう彼らの中で試合は始まってるみたいだけどね。クスッ」

「みたいだね。でも今の会話からすると、もう国光の勝ち…ぷむぐっ」


その時、こそこそと私と不二くんが話していた内容が聞こえたのか、跡部という男はこちらをチラッと見た…それに合わせて、私は咄嗟に口を閉じた。


「あーん?……言うようになったじゃねーの手塚…だがテニスより女のセンス磨いた方がいいんじゃねーのか?くくっ…」

「なんですって!?」


跡部のその言葉に、私のビリビリセンサーが反応した。


「ふっ…威勢がいいじゃねーのメス猫…俺様をバカにしたことを、手塚との試合…いや、青学との試合で後悔させてやるよ。完膚無きまでにな!」

「バッカじゃないの!?たったいま国光に派手にするなって言われたのにもうデカイ口叩いちゃって、しかも今時『完膚無きまでに!』ってうわっ…サムッ!」
 

「なんだと!?貴様…!!」

「負けるのはアンタの方よ!!誰がブスよ!!」


「お前の耳腐ってんじゃねーのか!誰がブスって言った!!性格は超ド級のブスみたいだけどな!!」

「なんですってー!?アンタなんかに言われたくないわよこのナルシスト!!」 


国光を挑発しに来たはずの跡部の矛先は、すでに私へと向けられ、ぎゃーぎゃーと罵り合っていると、国光と不二くんはそっとその場から歩き出していた。


「なんだと…!気品に欠けすぎているお前のような女に暴言を吐かれる筋合いは…っておい手塚!!どこ行きやがる!!貴様、本当に女のセンス磨いたほうがいんじゃねーのか!!」

「なっ…!!あ…国光!!本当にどこ行くのよ!!」


その事に跡部が気付き、ふと振り返った私の目にも止まり、そして私達の呼びとめに、国光はぴた…と立ち止まって静かにこう言った。


「………その場にいるとお前達と知り合いと思われるだろうと思ってな」

「なっ…しっ…知り合いじゃない…!」


がーんという言葉がピッタリな程、私は国光のその言葉に身を引いた。

ひ、ひどい!だからって置いていくことないのに!

 
「そして跡部…その女が俺の恋人であるならばそうだが、ただの幼馴染だ…心配は無用だ」

「なっなんですってくにみ…!!」


跡部の女のセンスを磨けという言葉に思い切り賛同している国光にあまりのショックを受け、私は言葉を詰まらせてしまった。

ひ…ひどい…。


「行こうか手塚。そろそろ戻らないと竜崎先生が…大石もまだみたいだし」

「ああ…そうだな」

「ちょ、ちょっと待ってよ不二くん…国光も!!」


そしてそれをサラリと無視した不二くんが、にっこりと笑ってそう言った。

……なんか不二くんの行動が、結構一番傷付くんですけど…。

そんな彼らの背中を追って走っていく私に、跡部は言った。


「おいメス猫!!」

「誰がメス猫よ!!佐久間伊織よ!!」

「佐久間伊織…貴様だけは絶対に後悔させてやる…」

「アンタに会ったことがもう後悔よ!!」

「なんだと!?口の減らねぇ…!!」

「ばーかばーかおたんこなーす!」

「あーーーん!?!?」


跡部が言い終わる前に、絶対に口では負けたくない私はそう言い放って走って逃げた。

負けず嫌いな私達、強烈な、出会い…。













会場が、静まり返っていた。




あの後、青春学園ではレギュラーの大石くんが右腕を痛めて変わりに2年の桃城くんが大石くんの代わりを務めることになり、青春学園はのっけから小さなハンデを背負っていた。

そして二勝一敗、ノーゲームの結果となった今、いよいよ国光がS1で登場した。

そして、会場は静寂に包まれたのだ。


「…国光…やっぱりスゴイんだ…」

「手塚の近くに居ながらそれを知らないのはお前くらいのものだよ、佐久間」


「う…乾くん…一体どこから…ていうか…なんか人が増えた…」

「当然だ。あの跡部と手塚の頂上対決、見逃せないよ」


乾くんらしくもなく、少し興奮気味になっている気がする。

そこに、あの跡部が登場した。


「おい手塚、ウデなまってねーよなあ。あーん?」


そこでまた、ざわつき始めた会場が静かになり、跡部がスッと手をあげた瞬間…!


『勝つのは氷帝!!負けるの青学!!勝つのは氷帝!!負けるの青学!!』

「うるさっ…!!」


相手コートから、凄まじい応援が繰り広げられ、跡部はそれを指揮するように、手を広げている。

彼が両手を広げた時、その声援の内容が変わり…


『勝者は跡部!敗者は手塚!!勝者は跡部!敗者は手塚!!』

「な…なんなのコ…」

『勝者は…』

「俺だ」

『うおおーーーっ!氷帝っ氷帝!!跡部っ跡部!!』


…………何アレ。

や、ごめん、なんかめちゃくちゃにサムいんですけど何アレは。

バサってジャージ脱いだよあの人…。


「もういいのか?」

「ああ満足だ」


国光はそれに冷静な対処をし…もしかして結構仲が良かったりするのか、跡部と拳を合わせて勇姿を称え合っているかのようだ。


「なんかアイツ、超派手だよな…目立ちすぎちゃってイヤな感じ」


すると、コート内をぽかーんと見ていた私の前方で、近くにいる1年生が、割と大きな声でそう言った。


「確かに…跡部ってそんなスゴイの?」

「そうっスよ、乾先輩、アイツ本当に強いんスか?」


氷帝学園の声援の中、思わずその意見に賛同した私と、その1年生が同時に乾くんに向かって聞いた。

そう…だいたいああいう男っていうのは、口先だけで弱かったりする。

特に漫画だと、そういうキャラが多い気がする…。

だけど…乾くんは、かなりの間をあけて答えた。


「…見てればわかるよ」









『ゲームセットウォンバイ氷帝学園跡部!!ゲームカウント7−6!!』




………跡部……礼を言うぞ…。

お前が俺を気遣うことなく、最高の力で俺と戦い抜いてくれたことで俺は最高の試合が出来た。


「国光…」

「………どうした」


氷帝との全試合が終了し、コートから出た俺を伊織は涙目で見つめていた。

…感動、したのか?


「すごかった…感動した。肘、大丈夫なの?」

「ああ…今から病院へ行く…跡部に挨拶してからな」


俺を心配そうに見ている割に病院という言葉よりも、伊織は跡部という名前に反応した。


「あ…挨拶…私も行っていい?」

「………なぜだ?」


俺から目を逸らして気まずそうにそう言った伊織は、しばらく黙ってから、別に、と小さな声で答えた。


「跡部、手塚やで」

「あーん?」


俺が氷帝のメンバーが集まっているところに顔を出すと、忍足がそう言って跡部の肩を叩いた。

跡部は振り返り、唇の端を上げてニヤニヤとしている。

………礼を言おうかと思ったが、やはり来るんじゃなかったか…。


「やっぱりお前らデキてんのか?」

「断じてそれは無い」

「……断じて無いけどそんなにピシャリと言うことな…」

「今日はいい試合をさせてもらった。礼を言う」

「ふんっ…お前があんなに熱い男だとは思わなかったぜ…手塚…」

「…無視ですか、と…」


俺と跡部のやり取りに、伊織は何が気に入らないのかむすっとした顔をしてぶつぶつと何か言っていた。


「俺の用はそれだけだ。お前と試合が出来て、本当に良かったと思っている」

「ああ…手塚…次はベストコンディションで俺と戦え。今日の勝利は本当の勝利じゃねぇ。俺にとっての勝利は、いずれ来るその時…お前に勝った時だ」


そしてまた、試合前のように俺達は拳を重ねた。

性格は合わないだろう跡部だが、テニスプレイヤーとしては一流。

今日の試合…俺にとって大きな成長へと繋がる…。


「………で?」

「ん?」

「このメス猫は何しに来やがった」

「ああ…伊織は……………何しに来たんだ?」

「う…メ、メス猫って言うな…」


跡部が気が付いたように伊織に目をやりそう言ったことで、俺は自分がすっかりとその存在を忘れていた事に気が付いた。


「ふん…さっきとは違って威勢がねぇじゃねーの。伊織ちゃんよ」

「伊織ちゃん!?気持ち悪い…」


「なんだと!?」

「だってアンタみたいな…!!…アンタみたいな俺様に…ちゃん付けとか…」


先ほどのように喧嘩が始まるかと思ったが、急に伊織の勢いが小さくなり、それに合わせたかのように声が小さくなり、どうしたことか伊織は俯いてしまった。

…ここに来る前もそんな顔をしていたな…一体どうしたんだ…。


「…なんだよ、勢いねぇな」

「…あの…私…貴方の事…」


「貴方!?そ、そっちの方が気持ち悪りぃじゃねーか…」

「う…私、なんか跡部のこと誤解してたのかもしれない…いろいろ、ひどいこと言って、ごめんなさい…」


伊織が跡部に向かって貴方と言ったことで、跡部は目を見開いて後ずさりした。…無理もないだろう。


「なんだてめぇはいきなり…まじで気持ち悪りぃぞ…」

「失礼ね!!2回も気持ち悪いとか言わないでよ!!こっちだってこんな風にアンタに謝るの、なんか腑に落ちないんだから!!」


「なんだそりゃ、ああ?じゃー謝んなきゃいいだろーが」

「でもっ…でも…貴方の…貴方の試合に感動したんだもん!」

「………あーん?」


伊織の言葉に、俺は自然と眉に皺を寄せていた。

あの涙目は、俺に感動したんじゃなくて跡部に感動したのか。

いや、俺達の試合にか…いや、俺の肘はもういいのか…?

なんにせよ複雑な気持ちだな…別に構わないが。


「国光、肘痛めてて…それ知ってて、わざと持久戦に挑んで…ひどい遣り方だと思ったけど…国光はそれでも…青学の勝利を選んで普通、あんな死闘を見せ付けられたら、国光の肘のこと気遣って…」

「お前、それは俺様のことを褒めてんのか?それとも非難か?結局、俺様に文句を言いに来ただけかよ」


「違う!!…それでも国光へ対する貴方の敬意に感動したの!!」

「…!」


何故か、跡部と目が合った。

それが妙に、お互い気まずかったせいか、俺と跡部はすぐに目を逸らした。

…だが、伊織の言っていることは…的を得ている。

俺が跡部に礼を言いたいと思った理由も、それだった。


「手加減なしで国光に挑む、国光への敬意が…素晴らしいって、思った」

「…………ふん…なんか勘違いしてんじゃねーのか?」


「え…」

「俺様は手塚の腕を本気で壊してやろうと思った。別に敬意じゃねー。本気で手塚を潰したかっただけだ。お前…俺様に惚れて、自分のいいように解釈してんじゃねーのか?あーん?」

「なっ…違っ!!」


いや、違いはしないだろう…。

伊織の顔は俺が見た事の無いような表情をし、跡部を見ていた。

顔を真っ赤にして…気持ち悪くは…ない。


「別にいーぜ?」

「えっ…!」


その時、跡部はふっと笑い、伊織に一歩近寄った。

他の氷帝のメンバーは、やっていられないといった表情をし、バラバラとどこかに消えようとしている…

俺は…ここに居ていいのだろうか…。


「お前のことは嫌いじゃねぇ」

「べ、別に私は好きだなんて言ってな…!!」


そこまで伊織が言うと、跡部はもう一歩伊織へ近付き、右手の人差し指を立て、伊織の唇に当て、小さくシッと呟いた。


「但し…」

「…!!…な…何…」


至近距離に跡部の顔があるせいか、伊織はまるでリンゴのようになり身体はピクリとも動かせずにそのまま固まっていた…が、それでも意地を張って必死に言葉を発する。


「次に手塚との試合の時には…俺を応援することが条件だ」

「……ば…ばっかじゃないのぉ!?だから好きだなんて…!!」

「まぁ一目惚れも悪くねぇだろ?あーん?伊織よ…」

「誰が一目惚れ!?私は試合見て惚れ――――!…はっ…」

「くくっ…試合見て誰に惚れたって…?」


なんでもかんでも正直に思ったことを口にする…伊織の昔から見てきた癖が、今、跡部によって引き出されている…なんなんだこれは…俺はここに居ていいのか…?


「手塚…席、外したほうがええんとちゃう?」

「……そのようだな」


いつの間にか背後に居た忍足に、ぽんと肩を叩かれそう言われた。


「だ、だから…別に惚れたわけじゃ……」


だが…いつも溌剌としていた伊織の段々と小さくなっていく声に、俺は気になって目をやった。

伊織も…あんな顔することがあるんだな…。


「俺は嫌いじゃねーって言ったろ?お前のこと」

「う…ぁ…」


さすがの俺も、もう見ていられないな…。

声にならない声を出し、顔を真っ赤にして跡部の視線から目を伏せる。

伊織…お前の両親に、このことは黙っておいてやる。


そして…

全国大会の時、氷帝側に身を隠すようにしていたお前を見つけた時のことは、青学の奴等には黙っておいてやろう…。




fin.
Count Number 12021:Request from たーぼん藍様



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