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 恋の方程式

高校2年、16歳の夏、人生で初めての恋をした。
相手は儚くもクラスの副担任兼数学教師のマルコ先生で接点はほぼなし。
副担任なんか担任が不在の時だけだし、数学は少人数制で、あたしの担当はサッチ先生だしね。
担任にこき使われていた時に一緒になってこき使われてくれて、その時の笑った顔が凄く素敵で、完全にやられたのがきっかけ。
でもあたしは俄然ただの生徒。辛い。
先生名前覚えるの苦手っぽいから名前だけでも覚えてもらいたい。
でも接点ないんじゃ意味ないよー!!

「ハチ公?聞いてる?」
「へ?」

い、いかんいかん。妄想の世界にぶっ飛んでて話聞いてなかった。

「現国、自習だって」
「え、まじか!屋上で数学やってこよっかなー」

あたしはいつも自習の時は屋上で数学の勉強をする。
教室って集中出来ないし、ついお喋りしちゃうし、夏休み補習で潰れるの絶対嫌だし…。それにマルコ先生の教科だし?
勉強出来なくても、数学だけは頑張りたいという乙女心。

数学の教科書とノート、それからおやつを持って屋上へ向かった。
夏と言えど春との中間くらいだし、暑くもなく寒くもなく、天気も良いし、頭が冴える気がするんだよね。

「よし!始めよう!!」

教科書やらを広げて勉強体制に入った時、屋上の扉が開いた。

「ん?」
「あ、」

やって来たのは煙草をくわえて、ライターを片手に持ったマルコ先生。

「なにやってんだよい、サボり?」
「げ、現国が自習なんで…数学を、と」

やばい、緊張してうまく喋れない。
マルコ先生らカチカチとライターで煙草に火をつけ煙を吐く。

「先生も…サボりですか?」
「も、ってなんだよい。忠犬もサボりかよい」

墓穴掘った!でも、名前、覚えててくれてたんだ。
可笑しそうに笑うマルコ先生のせいで二つの意味で恥ずかしさが増す。
サボりといえばサボりかもしれないけど、一応勉強してるし!
と自分の中で突っ込んでみる。

「…問3間違ってるよい」
「えぇ?!」

問題に目を向ければ、どこが間違ってるのか自分ではわからないけど、先生が言うのだから間違ってるのだろう。
消しゴムを取り出し、書いてある方程式を消して計算し直す。
苦手な問題だったから解けて嬉しかったのに間違ってただなんて。
先生と二人きりというこの状況に緊張しつつもペンを走らせると上から、違うよい、と言う声が何度か聞こえてくる。

「方程式が間違ってるよい」

何度目になるだろう先生からのお言葉で、あたしの心は折れかけている。
もうわかんないから後でやろうかな、と思っていたらタバコを吸い終えたマルコ先生が隣に腰を掛けた。

「ここはこの方程式を使うんだよい。で、これがこうなるから…」

ち、近い!
丁寧に教えてくれるマルコ先生の顔はあたしのすぐ横にあって、耳元で低く色っぽい声が頭の中に響く。
もちろん集中出来なくて、でもこんなチャンスないかもしれない。
ドキドキしながらも必死でマルコ先生の言葉に耳を傾ける。

「ほら、な?解けただろい?」
「わ、ほんとだ…」

先生の教え方は本当にわかりやすくて覚えやすい。
サッチ先生とは大違いだ。
そらマルコ先生担当のクラスは成績がいいわけだ。

「サッチの授業はわかりにくいだろい?」
「ま、まぁ…」

正直に答えて良いものかと思い視線を泳がすと先生は本日2本目のタバコを取りだり火をつけた。

「あいつは馬鹿だからねェ。わからねェとこあったらいつでも言えよい」

頭を撫でて、優しく笑ったマルコ先生に胸の奥が締め付けられる。
あたしの心臓は聞こえそうなくらいの音を立て、顔には熱が集中する。

「忠犬?どうし、」

目が合えば先生は少し見開いて、すぐに広角を上げて悪戯に笑った。
先生は頭の回転が早いから、こんな顔してたら絶対ばれてる!

「どうした?顔が真っ赤だよい」

それでもとぼけた風に聞いてくる先生はずるい。

「わかってるくせに…っ!」
「言わねェとわかんねェだろい」

タバコをもみ消し、言えよ、と言わんばかりに近くなるあたしと先生の距離。
目線を反らせば、頬に先生の手が触れた。
心臓は破裂寸前、頭はショート寸前。
もう何も考えられない。
先生の瞳からも、逃れられない。

「す…す、き…です」

表情を崩さず、でもどこか満足そうに笑うマルコ先生を余所にあたしは経験した事のないこの状況に対応するのでいっぱいいっぱいで。
どうにかして落ち着かせようとするも、告白してしまった手前、先生の次の言葉が気になって仕方がない。
なんの接点もなかったのだ、断るなら断るで何か発してほしい、と言うのが今の気持ちだ。

「一年半」
「は?」
「だから、一年半待ってやるよい。卒業までに惚れさせてみろい」

今日から忠犬の課題だよい。
と先生は言った。
え、なにそれ。期待していいってことですか?
てか、課題って…

超難問なんですけど
「可能性は、あるんですか?」
「そりゃ、忠犬次第だよい」

そう言って笑った先生はどこか楽しそうだった。








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