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 今も変わらず

2年前の今日、あたしの恋は終わりを告げた。
なんとなく、手が届かなくなった、と思ってたんだけど、好きだったから。

「簡単には、消えないよ」

背中にある傷を抱き締めるように自分の肩を抱く。
あたしがマルコを守れた唯一の傷、いつも守ってもらってばっかだったから、嬉しかったのを覚えてる。
部屋には未だにマルコが好きだったお酒があって、あたしはみんなが寝静まった頃、月をツマミにグラスを二つ持って甲板で少しずつ飲む。
これがあるから忘れられないのかもね。
マルコが戻ってくる、なんて信じてたあの頃は、というよりそう信じてないと崩れてしまいそうだったあたしは、本当にバカだよね。

「ねぇ、貴方が言ってくれた愛してる、は信じてもいいんだよね。あたし、愛されてたって思っても、良いんだよね」

ほんの少しだけ注がれた、減ることのないグラスに話しかける。
いつまでこんなこと続けるんだろう、あたし。
視界が歪む、もう枯れたと思ってたんだけどなぁ。

「ふっ、うぅ…っ、も、やだ…」

嫌いになれたらどんだけ楽だろう。
いつになれば、そういえばあんなこともあったなぁ、と思い出に変えられるんだろう。
インスパイアされた言葉も貴方があたしに向けた笑顔も、焼き付いて離れない。

「…好き、なの、今でも…マルコ…」

闇は無情にもあたしの心を支配する。
閉じ込めていたあの日の痛みが疼き始める。
別れよう、とただ一言だけ。
何の曇りもない瞳に捉えられ、どうして?なんで?なんて、聞けなかった。
迷いがないその瞳を否定することが出来なかった。
今になって聞けば良かった、否定したら良かった、と後悔する。
2年も経つのに、あたしはあの時から動けないでいる。

「マルコォ…」

飽きずに愛しい人の名前を呼ぶ。
なんだよい、なんて幻聴まで聞こえてきて、自分はどんだけだ、と思った。

「ははっ、あたし重症、ほんと、バカみたい。全然進めてないじゃん…」
「ハチ公?」

あの頃と同じ、優しい声。
きゅっと胸が締め付けられる。
拭った涙はポロポロと止まることはなく流れ落ちる。

「も、やだ…戻り、たいよォ…独りに、しないでっ、」

今まで蓋をしていたものが一気に溢れ出す。
言葉が、止まらない。
言えば抑えられないのに、次から次へと狂ったように出てくる言葉は、自分を苦しめるものばかりで。

「ハチ公!!」

背中から伝わる温もり、回された腕からふんわり香る匂いはまさに今想っていた人のもの。

「マ、マル、コ?」
「なんだよい」

精一杯首を回して振り返ると、やっぱりマルコで、なんでここにいるの?とか、いつから聞いてたの?とか聞きたいことがあるはずなのに、言葉が詰まる。

「ごめん」

回されてる腕に力が入る。
ごめんってなに?なんで抱き締めるの?
こんな事されたらあたし、期待しちゃうじゃん。
どういう状況かまだ把握出来ていなければ、マルコの言葉の意味も理解しきれていない。

「あの時、守ってやれなくてごめん」
「マル、コ?」
「背中、見るたび怖くて、また同じ事があったらって思うと、よい。ハチ公を失いたくなかったんだよい。海賊だからいつ死ぬかわからねェのは分かってるよい!でも、それでもやっぱり…ハチ公だけは…っ!」

顔は見えないけど、マルコもきっと目にいっぱい涙を溜めて、流すのを我慢してると思う。

「失う前に手放せば…なんて思っちまったんだ、よい」
「なに、よ、それ…」

あたしはマルコの方に向き直して、グッと抱き締める。

「マルコを残して死ぬわけないじゃん!!」
「ハチ公…」

ギュッと精一杯力を込めると、張り詰めていた糸が切れたのか、静かに涙を流した。
マルコの手が背中に触れる。
この傷はあたしの誇りだよ。
初めて大事な物を自分で守れたような気がしたんだ。

「ハチ公、好きだ、よい。やっぱり忘れられねェ」
「ばか。ばかマルコ」

もう離さないで、あたしが守るから。
守られてばっかりじゃなくて、あたしもマルコを守れるように強くなるから、だから。


今も変わらず
繋いだこの手を、しっかり掴んでてね。





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