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 03/24 Happy Birth Day

「こんなところにいたのか」

ドンチャン騒ぎをしている家族達とは反対に人がいないであろう場所で船の縁に座り海に足を投げ出して夜風にあたっていると聞こえてきたいつもこ声。

「……なんでいんのよ」

顔を見なくてもわかる、なんて思いたくないがわかってしまう現状に舌打ちをした。
主役でしょ。と言えばサッチはいつものようにへにゃりと笑いながら私の隣まできて縁に背中を預けお酒を煽った。

「ちょっと休憩。あいつら飲み比べ始めてよ。トーナメントだーつって俺の相手初っ端からイゾウだぜ?勝てるわけねェ」
「あー…だね。イゾウに勝てる奴いたら見てみたいわ」

御愁傷様、なんて大して思っても無いことを口にし煙草を取り出して火をつける。
昼間ではわからない、真っ白な煙がゆらゆらと揺れて消えていく。

今日はサッチの何回目かになる誕生日。
そんな日の朝、私はなぜか告白をされた。
この主役様に。
毒舌だ生意気だと言われる私の事を好きだと言ったサッチに正気?と言った時のサッチの顔は少し悲しそうだった。
なぜ私なんだ。サッチのタイプはもっとボインでスレンダーな人だと思っていたのに。
夏島が近くて暑くなってきたから頭がいかれたのかと心配になるぐらい驚いた。

返事はまだいい。と言われてそこから話をしないまま宴が始まって、どこか少し気まずくなったのでこうして避難したわけなのだがその主役が来てしまえば避難した意味がない。

今朝の事を思い出しては顔に熱が帯びていく感じがして、そんな時に現れるものだから余計に、体が熱い。

「ハチ公?」
「は?え?なに?」
「元気ねェな。なんかあったのか?」

まるで何事も無かったかのように言うサッチに私は少し苛立ちを感じた。
誰のせいでそうなってると思っているんだ。
そう言ってやりたいのは山々だが、それを言ってしまえば今朝の事を気にしていると思われかねない。
気にしてないといえば嘘になるが少なからず私にもそういった乙女心があるわけで、だから何かあったか?という質問はサッチの中で無かった事になっているような気がしてズキンと心が痛んだ。

「別に」
「あっ!俺の酒…」

持っていた酒瓶を奪い一気に胃の中に流し込む。

「飲み比べで嫌ってほど飲んだでしょ。ケチケチすんな」
「それとこれとは別だろーが」
「知らん」

一口分だけ残してサッチに酒瓶を突き返すと至極残念そう眉を下げた。

「もう一本取ってこよ」

ハチ公もいる?と聞かれ首を縦に振ると頭をポンポンと撫でちょっと待ってろ。と言って今頃いい感じに出来上がってるであろう家族がいる輪の中に向かっていった。

そう言えば…おめでとうって言ってないや。
月の光が反射してキラキラと光る海をぼんやりと見つめながらそんな事を思う。
プレゼントなんて小洒落たものは用意してないけどいいよね。サッチだし。
帰ってきたらまずおめでとうだけでも言ってやるか。

うんうんと一人で納得していたらひんやりと冷たい何かが頬に触れた。

「ひゃっ!」

何事かと思い頬を抑えながら振り向くと口元を抑え下を向いたサッチが立ってた。

「…何してんの」

向きを変えて座り直しサッチを見るとハッキリとはわからないが顔が赤い、ような。

「え、なに」
「…今のは、反則だろ…くそっ」

私の隣に両手を付いてトンと頭を私の肩に預けた。
その行動に私の心臓は大きく跳ね、おめでとうとお祝いするはずが言葉が詰まって何も言えなくなった。

「なぁ…俺じゃダメか?」

蚊の鳴くような声でそう言ったサッチの言葉はしっかりと私の耳に届いた。

だめ、じゃない。私も、私だって…。
そう思うのになかなか言葉に出来ない。

「幸せにしてやりてェんだよ、お前を」

ダメか?ともう一度言ったサッチと視線が交じり合う。
そんなの、ダメなんて言えなくなる。狡い言い方だ。

「あ、たしは…」

不安と期待が入り混じったような視線に目が話せない。
このまま爆発しちゃうんじゃないかってくらいに顔が熱い。

「私も…すき…」

自分でも吃驚するほど小さな声で伝えた言葉はちゃんとサッチに届いていたらしく、まじで?なんて何度も聞き返された。

「嘘だと思うならこの話は無かったことに…」
「わーー!うそうそ!嬉しくて吃驚したんだってんだよ!」

そんな事言うなよ!と言いながらぎゅぅぅっと私を抱き締めて喜びを表現するサッチは子供みたいで可愛い

「誕生日までに告白出来なかったら諦めようかと思ってたんだよ。だからマジで嬉しい」
「…そんなカミングアウトいらないよ、ヘタレッチ」
「ひどっ!」

本当は嬉しいのにこんなことしか言えない。
それでもサッチは嬉しそうに笑ってくれたから、サッチの背中に手を回しキュッと力を込めた。
私なりの精一杯の愛情表現。


03/24 Happy Birth Day
「あ…」
「ん?」
「…誕生日おめでとう。プレゼント用意してなくてごめん」

申し訳なさそうに言えば、ハチ公が俺のになったからいい。なんて言われて私はまた顔を赤くした。





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