▼ いつもと違うキミ
やらなければならないことが、やっとひと段落。
くっ、と背伸びをし、窓の外に目をやる。
「今日も雨かよい」
ここ最近降り続いていた雨は船の中を大人しくさせる。
「なぁ!ハチ公!聞いてんのか?」
「んー、聞いてるよ」
ダメだ、と額に手を当ててサッチと何か相談しているエースを見つける。
「なにしてんだよい」
「おーマルコちょうど良かった!あれ、見てみろよ」
顎で指された方を見ると、静かな原因はこれか、と思う程にボケーっとしてるハチ公の姿が。
何してんだよい、ハチ公は。
雨で遊べねぇのが不満なのか、単に腹が減ってるのか。
珍しく大人しいハチ公は外を眺めては定期的に溜息をつく。
「何か悩みでもあんのかよい」
「マ、ルコ、隊長…」
人の顔を見るなり吃るたァどういう事だ。
首を傾げて見ると、ボンッと音が聞こえそうな勢いで顔が赤くなった。
可愛いっつーか、おもしれぇっつーか。
「なんだよい」
「あ、や、別に…」
よく分からねぇけど、元気ねェのは調子が狂う。
ハチ公の向かいに座り持っていた本を開く。
「何かあったら話せよい、聞くからよい」
そう言うと、ハチ公は普段見せない様な表情で頷いた。
なんていうか、大人っぽいとうか、赤らめた頬や長い睫毛、熱を帯びて少し潤んだ瞳とか、不覚にもドクン、と心臓が跳ねた。
「あ、雨の日は…気持ちが、下がります、ね」
いつもの可愛いハチ公とは違って見えるのは、さっきの表情を見たからか。
甲板でエース達と馬鹿騒ぎしてる元気なハチ公もいいが、こっちのハチ公もそそられる。
「そうだな」
何も悟られない様に視線は本に向けたまま。
小娘相手に、なんて、エースとサッチに笑われるだろうな。
「こういう時は、どうしたら良いんでしょうかね。雨だけど、隊長がいるから、その、気持ちは晴れというか…」
モジモジしながら、話す姿が可笑しくて、思わずクックッと喉をならした。
「た、隊長?」
「いや、可愛いなァと思ってよい」
本を閉じて視線を向ければ、茹蛸みたいに顔が赤くて、潤んだ瞳が俺を捉えた。
そっと手を伸ばしハチ公の頬に触れると、ピクッとハチ公の体が小さく跳ねる。
「ハチ公」
「あ、マルコ、隊長…」
顔を近づければ、ハチ公も目を閉じる。
ぷるんとした唇に触れるだけのキス。
「いいのかよい。こんなおっさんで」
そう問い掛けると、頬に触れてる俺の手に自分の手を重ねて
「マルコ隊長がいいんです」
と言ってくれた。
「好きだよい」
「あたしも、好き、です」
いつもと違うキミ
今度は深く、長く、自分たちの気持ちを確かめあうようにキスをした。