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 ち・よ・こ・れ・い・と

毎年バレンタインは市販の物を買っていた。
特にあげる相手もいなかったし、義理如きに手作りなんて重すぎる。
ただ今年はちゃんと本命がいて、自分でもびっくりするくらいには好きな相手だ。
たまには手作りでもいいかなーなんてペラペラとレシピ本を見ていたのが一週間前。
周りの人みたいに器用に出来ないから簡単なのがいいなって思って、私でも作れそうなレシピを貰い練習し始めたのが3日前。
練習に練習を重ねたが硬かったり焦げていたりして焦っている今現在。
ローが家にくるまであと1時間。
完全にアウトな気がしてならない、どうしよう。

目の前には朝から作っては失敗した残骸達、もといクッキーが並べられている。
硬い、苦い、不味いと三拍子揃ったクッキーなんて渡せるわけがない。
料理は並程度に出来ているからお菓子作りも並程度に出来るなんて思ってた自分を刺してやりたい。

「げっ、もうこんな時間…っ!」

凹んでる暇はない。
そう思ってラスト一回生地を作って型取りしてオーブンで焼き、その間に自分の準備をする。

バタバタと家の中を駆け回っていると、玄関のチャイムが鳴った。

「はーい!」

返事をしてドアを開けるとマフラーで口元を隠し寒そうにしているローが立っていた。

「なんでいるの?!」
「なんでって…約束してただろ?」

ズイ、と携帯の画面を見せられると時刻は約束の時間になっていた。
とりあえずローには上がってもらい準備が出来るまで待っててもらった。

「何か飲む?」
「コーヒー」

ホットで、と付け加え口角を上げるローにわかってるってば!と緩む頬を堪えながらキッチンから叫んだ。
普通にしてたら格好良いな、ちくしょう。

コーヒーを用意しているとオーブンが焼きあがった事を知らせた。
ローにコーヒーを渡して、今度こそちゃんと出来てますように、と願いながらオーブンを開けた。

「……まじか」

取り出したそれは真っ黒に色がつけられていて、とても人に渡すような代物ではない。
てゆーかナニコレ、炭?

「え、どうしよ…」

もうローは来てるし、これ以上待たせられない。
かと言って今更市販のっていうのも…

シンクに手をつき、ごちゃごちゃした頭を整理するもどうしようもなくて、お菓子ひとつも満足に作れないなんて…。

視界がグニャリと歪む。目頭が熱い。
頑張ったのに全然上手く出来なくて、初めての手作りだったのに失敗ばっかりで不甲斐ないやら悔しいやらでポタポタと涙が零れてくる。

「見た目の割になかなか美味いな」

声に反応して振り向くとローが真っ黒なクッキーらしき物を幾つか手の平に乗せ、ひとつずつ口の中に放り込んでいた。

「ちょ、何してんの?!」
「は?何って…食って」
「だから!…あーもうっ!失敗したの!不味いから、出せ!吐き出せ!」
「無茶言うな!」

平然と食べるローの手を止め無理難題を押し付ける。
ローにはちゃんとしたのあげたかった。
美味しいのを食べてほしかったのに。

「ローのばか!クソッ!変態!」
「うわっ、ばかっ!やめろ!変態は関係ねェだろ!」

ポカポカとローを叩いていた手を掴まれ、グイッと引かれきゅうっと抱き締められた。

「失敗したのに」
「焦げただけだろ」
「不味いのに」
「美味いって」

ぽんぽんと頭を叩くローの優しい手にまた涙が溢れる。

「練習…したんだけど、出来なかった。ごめん」
「気にするな。俺は…ハチ公が俺のためにちゅ、ちゅ…作ってくれたならなんでもいい」
「…こんな時まで噛まないでよ」

普段こんな事言ってくれないくせに。
ぷ、と吹き出せば、笑うな、と頭を小突かれた。

「まだ材料はあるのか?」
「もうないよ。あ、でも板チョコが2枚あったっけか。溶かして固めようか」

出来れば使いたくなかった最終手段。
だって溶かして固めるだけだよ?
板チョコを溶かして板チョコ型にしたらそれはもう板チョコじゃん。

冷蔵庫からチョコを取り出すと、ローにそれを取り上げられた。

「ちょっと。何すんのよ」
「溶かすんだよ」
「いや、私やるから」
「不器用は黙って待ってろ。すぐ済む」

ローの言葉にカチンときて不貞腐れながらチョコをトロトロに溶かしていくローを眺めた。
溶かし終えたローはチョコの入ったボールを片手に私の腰に腕を回して寝室の方に歩き出した。
この時点で嫌な予感しかしないのは多分きっと私だけだと思う。

「…一応聞くけど、なにすんの?」
「バレンタイン、チョコレート、とくればヤる事はひとつだろ」
「変換違う!!ちょ、待て隈野郎…っ、」

ローに押されボフンとベッドに倒れ込む。

「おい!布団汚れるから!ヤるならそのチョコ食べてからにしよ?ね?」
「俺はそんなヘマはしない。気を楽にしろ。すぐ良くなる」
「ならない!ならないから!ちょ、待っ!あァッ!」

ち・よ・こ・れ・い・と
「ローのばか!変態!ベポマニア!」
「ククッ、ホワイトデー楽しみにしていろ」
「するかボケェエ!!」





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