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 惚れたもん負け

会社でバリバリと仕事をこなしていたとは思えないほどの豹変ぶりに社内の女子達はどう思うのだろうか。

「ハチ公喉渇いた」
「はいはい」

イゾウの一声で私は冷蔵庫まで走る。

「座りな」
「はいはい」

コップにお茶を注ぎ戻ると、ソファに座るよう促される。
素直に従い腰を下ろすと私の膝に頭を預けて横になる。
所謂膝枕だ。

慣れというのは怖いもので初めは戸惑いもあったが今となれば、座りな、と言われれば膝枕の合図となっている。

テレビを見ながら横になるイゾウの綺麗な黒髪を撫でてやると、気持ち良いのか頬を太ももに摺り寄せてくる。
こうやって甘えてくるイゾウが可愛くて仕方がない。

会社のモテ男が家だとぐうたらになるなんて誰も想像しないだろうな。
少しの優越感と私にしか見せない姿に小さな幸せを感じる。
それもすぐに崩されるんだけど。

「ハチ公、リモコン」
「私うーごけなーい!それに絶対イゾウの方が近いじゃん」
「いいから、さっさと取りな」

こんな発言さえなければいいのに。
もう何度思ったことか。

渋々テーブルの上にあるリモコンに手を伸ばす。
取れそうで取れないのが少しイライラする。
完全イゾウが手を伸ばせば取れる場所にあるのに。

イゾウを落とす覚悟で少しお尻を浮かしてリモコンを取る。
っしゃ、取れた!

「はい、どーぞ」
「ん、さんきゅ」

こっちをチラリとも見ずにリモコンを受け取りパチパチとチャンネルを変えていく。
あー、今のドラマ見てたのに。

なにか気になる番組でも見つけたのか大して面白くなさそうなバラエティ番組のくだらない話がテレビから流れてくる。

イゾウは面白いのか時折肩を揺らしながら笑っている。
そんな顔を見てたら、まいっか。なんて気持ちになるから不思議だ。


夜風が窓を潜り抜け気分も段々と心地良いものに変わる。

風が気持ち良い

仕事の疲れもあって段々と重くなっていく瞼。
テレビに飽きたイゾウは起き上がりウトウトと船を漕ぐ私に声を掛ける。

「ハチ公、そんなところで寝たら風邪引くぞ」
「んー…」
「ったく、」

夢か現実かも判断が出来ないとこまで来ている私はイゾウの言葉に曖昧な返事しか出来ない。

ふわふわと揺れる感覚、温かい体温とイゾウの匂いに包まれて私は完全に意識を落とした。

「おやすみ、ハチ公」

そう言って私にキスをして、ぎゅっと抱き締めながら眠りにつく。

ぐうたらで甘えたなイゾウも私が寝落ちしてしまった後は、ちゃんとベッドまで運んでくれる優しい一面もあったりするんだ。
私がそれに気付くのは次の日、眠りから覚めた時の話しなんだけどね。


惚れたもん負け
「イゾウー!朝だよ!それと昨日はありがと」
「んー…いいさ別に」



by モノクロメルヘン




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