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 10/13 Happy Birth Day

「先輩、俺今日誕生日」
「…うん、だから?」

ニコニコと笑いながらそう言うのは後輩のイゾウくん。
放課後わざわざ三年の教室まで来て言うことか。
そして私にどうしろと言うんだ一体。

「プレゼント下さい」
「お金ないよ」

事前に言ってくれれば用意はしたが、そんな急に言われても何もしてあげれない。
私のバイト先はまさかの15日が給料日だ。
まさに金欠状態。

「チッ、じゃあデートでいいですよ」
「今舌打ちしたでしょ」

プレゼントをせがんどいて舌打ちってどうなの?
今時の子はみんなそうなの?
そして私には拒否権というものは存在しないのか。

「ところで何してるんですか?」
「見てわからない?日誌書いてるの」

もう一人の奴がさっさと帰ったから私がやる羽目になった。
明日ぶん殴ってやるんだから。
適当に書いてしまいたいが担任はスモーカー先生。
次の日もう一回日直をやらされてしまう可能性が高い。

「俺バスケで得点王だった」
「そう」
「俺の連れにバナナとフランスパンがいるんだ」
「そう」
「そいつら今同じ奴が好きなんだって」
「そう」

覚えてない授業内容を必死に思い出しながら日誌を書いている私はイゾウくんの話を適当に聞き流していた。
それが気に食わないのかとんでもない爆弾を投下してきた。

「俺、先輩が好き」
「そう…って、は?」
「先輩が好き」

顔を上げれば真っ直ぐな瞳のイゾウくんと目が合う。

好き…ってなに。

いきなりの告白で頭の中が真っ白になる。

「だから、先輩が好き」
「え、なに、本気で言ってんの?」
「当たり前じゃないですか」

なにそんなにサラリと言っちゃってんのこの子。
本気ですよ。とあまりにも真剣な表情で言うから急に私の心臓が暴れ出した。

「先輩」

ふわり、イゾウくんの綺麗な指が私の頬に触れる。
顔に熱が集中し、音を立てて立ち上がり思わずカーテンに包まってしまう。

「ち、ちょっと待って!え、急になに?!」

とりあえず落ち着け私。
まだ状況が理解出来ずにいる私に追い打ちをかけるようにイゾウくんがカーテン越しに抱き締めてきた。

「気付いてなかったのかよ」
「そ、そんなの気付くわけないでしょ?!」
「鈍すぎ」

懐いてくれてるな、とは思ってたけどまさか好意を持ってるなんて思わないでしょ。
そんなの自意識過剰じゃん。

私の心情とは裏腹にイゾウくんは小さく息を吐いて抱き締める力を強くした。

「好きだ、ハチ公」
「え、あの…イゾウくん?」
「誕生日プレゼント、ハチ公が欲しい…」

イゾウくんの言葉が私の心臓を加速させる。
カーテン越しにとはいえ、耳元でそんな事を囁かれ彼の容姿を加えてしまえば落ちない女はいないだろう。
実際、私も少し落ちかけた。

ゆっくりとカーテンから顔だけを出してイゾウくんを見る。

「…本気で言ってんの?」
「本気じゃなきゃこんな事までしねェだろ」

少し小馬鹿にされたような言い方で、少し落ち着きを取り戻した。
私一応年上なんだけど…。

「いつも女の子と一緒にいるくせに?」

移動教室とかでいつも違う女の子と一緒にいるのを見かけたりする。
もちろん、女の子が群がっているだけっていうのは知ってる。
けど、やられっぱなしも悔しいし少し焦れ。と思いながら言ったつもりだったが逆効果だったようだ。

「ヤキモチか?」

ククッと笑いながら私の肩に顔を埋める。
どうやら彼の方が一枚上手だった。
違う、と否定しても、はいはい、なんて軽くあしらわれる始末。

「ねぇ、とりあえず離してよ」
「やだ」

やだって…子供じゃないんだから。

「日誌書かないとだし離してよ」
「…デートしてくれるか?」

交換条件とはいい度胸してるな。
でもまぁ、誕生日だっていうし今日は特に予定もないしいいか。

「わかった。デートしてあげるから」

あくまでもして"あげる"
私の小さな仕返しだ。

それでもイゾウくんは嬉しそうな表情を見せて抱き締める腕の力を緩めてくれた。
やっと解放された、と思い包まっていたカーテンから出ようとした時に唇に何か柔らかいものが触れた。
それがイゾウくんの唇だということに気付いたのは唇が離れてイゾウくんと目が合った時だった。

「そんな顔すんなよ。止まらなくなるだろう?」
「イゾウく、んんッ」

ちゅっ、ちゅっとキスの雨が降る。
短く、触れるだけの可愛いキス。
軽い女だなんて思われたくない、けどもっともっとって求めてしまいそうになる。
だめじゃん、私完全落ちてるじゃんか。

「早く俺のものになりな」

私の頬を撫でながら眉を下げ小さく笑うイゾウくんはオレンジの夕日に照らされて、凄く綺麗だった。
さっきまで激しく動いていた心臓は段々と心地いいものに変わっていく。
無意識にイゾウくんの頬に手を伸ばした。

「ハチ公?」
「そんな悲しそうな顔しないでよ。まだ好き…とかわからないけどさ、イゾウくんの事嫌いじゃないよ、私」

そう言うとフッと優しく微笑んで私のおでこにキスをした。

「今日中に俺が好きだって思わせてやるよ」
「すっごい自信ね」

お互いに笑い合って小さな幸せを感じる。
デートが終わる頃、今度は私から言ってあげようかな。
イゾウくんが欲しいって。


10/13 Happy Birth Day
デートが終わり家まで送ってくれたイゾウくんに「私もイゾウくんがほしくなっちゃった」と告げれば、彼は至極嬉しそうに私を抱き締めた。

「誕生日おめでとう」
「やべ…嬉しすぎる」





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