dream | ナノ

 10/5 Happy Birth Day

…悪い夢でも見ているのだろうか。
書類に追われて自室に篭りすぎたのが原因か?
それとも忙しくて構ってやれなかったハチ公からの嫌がらせか?
どちらにせよ達が悪い。
何のために俺の部屋の前にバナナが置いてあるのか。
しかも道標かのように点々と落ちているバナナはどこに繋がっているのか。

「チッ…めんどくせェよい」

漸く書類から解放されたと思ったら今度はバナナかよい。
勘弁してくれ、いろんな意味で。
深く溜め息をつき、怠い体を動かしてバナナを一本ずつ拾っていく。

まじでどこまで繋がってんだよい。

そんな事を考えながらもやけに静かな船内に違和感を感じた。
いつもならこの時間は騒がしく宴が行われていたり、それがなくともあちこちで賑やかな家族の声が聞こえているはずなのに。
寝てる…なんて事はねェだろ。
少なくともイゾウやサッチあたりはまだ起きてるはずだ。
もちろんハチ公もまだ寝るには早いだろう。

「なんだかねェ…」

こんな静かな船内でバナナを両手いっぱいに抱えている自分が虚しいやら悲しいやら複雑な気分になってきた。
あっちへ行きこっちへ行き他人の敷くレールを歩かされているようで溜め息の回数が増える。

バナナが切れたのか今度はご丁寧に小分けにされたパイナップルが皿の上に待機していた。
さすがに俺もイラついてくる。
誰の嫌がらせかだいたい予想はつくが…。

漸くゴール地点に辿り着くと目の前には食堂に繋がる扉。
時刻は日付が変わる頃だろう。
腹を空かした俺は空腹と今までの作業とでイライラがピークだ。
船大工には申し訳ないがガンッと食堂の扉を蹴破った。
完全に八つ当たりだ。
少しスッキリしたところで食堂に踏み込むと至る所からパーンとクラッカーの音が鳴り出した。

「誕生日おめでとーーう!」
「ぎゃはは!マルコ!絵になってんなァ!」
「ぶふっ!傑作!!」
「おめでとうございます!マルコ隊長!」

あちこちからおめでとうと言われるおれはただ目を見開いて驚くしかなかった。

「マルコ?どうしたの?」

反応を示さない俺の顔を心配そうに覗き込むハチ公。
あぁ、そうか。今日は俺の誕生日か。
その記憶がすっぽりと抜けていた俺はなかなか反応出来ずにいた。

「あのね、これ皆で準備したんだよ!」

飾り付けは私がしたんだ、と豪語するハチ公。
そこで漸く反応出来るまでに回復した。

「あぁ、ありがとよい」
「なんだマルコ!反応薄いな!」
「驚いてんだよい」

なんだ、年か?と失礼極まりない発言をするエースを小突いて抱えていたバナナとパイナップルをテーブルに置く。
とりあえず、サッチはシメる。

「ぐぇッ!ちょ、マルコ!やめっ!いでででで!!ギブ!ギブ!」
「あはは!バレバレだったねサッチ!」
「こんなくだらねェ事するのはお前くらいだろい」

必死に助けを乞うサッチに満足し解放してやる。

「さーて!とりあえず飲みましょう!」

ハチ公の一言で乾杯しいつも通りの宴が始まった。
ひとつ違うといえば、順番にプレゼントを持ってきておめでとうと言われることくらいだ。

「これ、俺たちからです!」
「ありがとよい」

中はまだ開けてねェが大きいものや小さいものがあり、年甲斐なく開けるのが楽しみだと感じた。

「モテモテだなー!マルコ隊長様は!」
「野郎にモテても嬉しくねェよい」

プレゼントをある程度受け取るとサッチやハチ公、イゾウといつもの面子が揃って俺の周りに座った。

「俺たちからはこの高級な酒をプレゼントだ!」
「イゾウチョイスなんだよ!」

どうりで高そうな訳だ。
コルクを開けグラスに注いでくれたのはいいが、周りに座る全員がそれぞれのグラスにそれを注ぐ。

「おい。俺の酒じゃねェのかよい」
「堅いこと言うんじゃねェよ」

俺より先に飲んだイゾウを見て自分が飲みたかったから買っただろ。と言いたくなった。
まァ、別にいいけど。

まさかこいつらがこんな風に祝ってくれるなんて思ってもみなかったしな。
たまにはハメを外して騒ぐのもいいだろ。

「あ、ケーキもあるんだよ!」
「サッチ様特製スペシャルなケーキだぞ!」

美味い酒に美味い飯に美味いケーキ。
こんなに楽しい時間を家族と過ごせて俺は本当に幸せ者だと感じた。

どんちゃん騒ぎが終盤に差し掛かると周りには生き残った者たちだけがちまちまと酒を嗜んでいた。

「マールコ」
「ハチ公…」

隣いい?と聞かれ頷けばお酒のせいか頬を赤らめたハチ公はヘラッと笑いながら隣に座る。

「ハチ公からはプレゼントねェのかよい」

酒を貰ったが、それは皆からで。
こいつの事だから個人で別に用意してるはず。
催促するように手を出せばパチンと手を叩かれた。

「私を今まで放ったらかしにといて強請るつもり?」
「悪かったよい」

素直に謝れは悪戯が成功した子供のような笑顔でハチ公は笑った。

「ふふっ、嘘。ちゃんと部屋に置いてあるよ」
「じゃァ早いとこ部屋へ行くとするか」
「どんだけ欲しいのよ」

笑いつつも立ち上がり一緒にハチ公の部屋に向かう。
ゴソゴソを棚を漁り取り出してきた縦長の箱を俺に差し出す。

「誕生日おめでとう。マルコ大好き」
「ありがとよい。開けていいか?」
「ん、いいよ」

綺麗に結ばれたリボンを解き蓋を開けるといつどこで買ったのか、いかにも高そうな万年筆が入っていた。

「これ…」
「マルコ、欲しいって言ってたでしょ?だから奮発しちゃった」

へへへと笑うハチ公を思い切り抱き締めた。

「マルコ?」
「ありがとよい、ハチ公」
「喜んでくれて良かった」

ポツリと独り言のように呟いた言葉を覚えてくれていたなんて思ってなくて普通に嬉しかった。

「はぁー…お前どんだけ良い女なんだよい」
「なにそれ。すーっごい今更なんだけど」

声を出して笑うハチ公に愛しさが込み上げてきて抱き締める腕に力が入る。
俺はこんなにも愛おしい女を今まで放ったらかしにしてたのかと思うと罪悪感でいっぱいになった。

「構ってやれなくて、悪かったよい」
「そんなんで我が儘言ってたら一番隊隊長の彼女なんて務まらないでしょ!…でも」

ちょっと寂しかったな。って言ったハチ公は照れてるような申し訳なさそうなそんな声色で俺の胸板に顔を埋めた。

俺はハチ公の名前を呼んでわざとリップ音を鳴らしてキスをした。

「そんなに寂しかったのかよい」
「へ?いや、ちょっとね、ちょっとだけだよ?!」

スイッチが入ったのを察したのかハチ公は俺の言葉に慌てて訂正する。

「そーかそーか。なら今まで構ってやれなかった分埋め合わせするよい」
「ちょ、マルコ?!」
「俺の部屋かハチ公の部屋かだけ選ばせてやるよい。それ以外の提案は全部却下」

意地悪く笑えば顔を真っ赤にして小さくバカ、と呟かれた。
今日は俺の誕生日なんだ。
プレゼント以外にも俺の欲しいものを強請ったってバチは当たらねェだろ。

「あと10秒で答えろい」


10/5 Happy Birth Day
「10…9…」
「わーっ!待った!言うから数えるのやめて!!」






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