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 七夕な話

連日雨が続き漸く空に太陽が顔を出した今日。
朝起きた時から、雨は降るなよ。と念を送り続けた結果、夜になっても期待通り雲一つない空。
この日の為に取っておいたお酒を片手に甲板に出る。

「わ、すごい…」

空を見上げれば無数の星。
そう、今日は七夕で年に一度織姫と彦星が再会を果たす日。
キラキラと光り輝く星を眺めながら甲板の隅に座りお酒を煽る。
皆でどんちゃん騒ぎしながら飲むお酒も良いけど、こうして静かな夜に星を眺めながらのお酒もまた格別だ。

「…晴れたから、きっと会えたよね」

織姫と彦星は。
私も、会いたいな…。
指が交互になるように胸の前で手を組む。
いつもは隊も違うし接点なんて少しもないけど、今日は…今日だけは一目でいい、声を聞くだけでいいから、私とあの人の距離を縮めて下さい。
キュッと目を閉じ何度も何度も繰り返し心の中で唱える。

「なにしてんだ?」

声に反応して心臓がドクンと跳ねる。
だって、まさか。この声は…。
恐る恐る振り返るとやっぱり、私の想い人の姿があった。

「イ、イゾウ隊長!!どうなさったんですか?!」
「酒の匂いに釣られて、な」

視線をイゾウ隊長の手元に落とすとロックグラスが二つ。
え、酒の匂いって…これ?そんなに匂うかな?
クンクンと鼻を啜ればクツクツと隊長に笑われてしまった。

「隣、いいかい?」
「はっ!はい!もちろんです!」

思わぬ展開に胸が高鳴る。
願い事をした途端に叶ってしまった。
これは夢?なにか罰でも当たるんじゃないかと思うくらいだ。
目の前にグラスが置かれ、慌てて持っていたお酒を注ぐ。

「お疲れさん」
「お、お疲れ様、です」

夜の静寂した空間にカチンという音が鳴り響く。
気不味い。それはもうとてつもなく。
何度か話をさせてもらったことはあるとはいえ、書類に関するとこだったり、所属している一番隊のマルコ隊長の伝言を伝えたりするくらいだし、世間話なんてしたことない。
何を話せば良いのか全くわからない。
うだうだとそんな事を考えているとイゾウ隊長が口を開く。

「今日は七夕か」

空を仰ぐイゾウ隊長の横顔が綺麗すぎて、胸がきゅうと締め付けられる。
男の人なのに、この人はどこまでも美しい。
そんな人と今こうして隣り合わせで居られる私は本当に幸せだと思う。

「お前さんは願い事とかしたのか?」
「え、あ、まぁ…一応は…」

イゾウ隊長に会いたいってお願いしました。なんて言えるわけが無い。

「俺も願い事をしたんだが…叶うかねェ」

ふわりと笑いながら遠くを見つめるイゾウ隊長。
イゾウ隊長の願いってなんだろう。
気になる、けど私のような下っ端には言っても意味はないだろうし。

「叶いますよ。きっと」

何の根拠もないけれど、いつも周りの事を考えて、親父を思い、こうして下っ端の私にも気を使ってくださく隊長を神様はきっと見てるはずだから。

「ククッ、じゃァ叶えてもらおうか」
「へ?」

どういう意味で言ったのか、イゾウ隊長の方へ視線を向けると、同時に隊長の顔が急にドアップになりちゅ、という可愛いリップ音が聞こえてきた。

「俺のものになりな、ハチ公」

放心状態のまま夢じゃないかと思い自分の頬をつねりながら、小さくはい、と頷いた。

七夕な話
「痛い…夢じゃない」
「当たり前だろ」






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