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 ここから始まる恋心

「あーあ!ほんっと最悪!」

仕事ばっかりの毎日から少しでも解放されたくて誘われた合同コンパ。
息抜きになるかな、と思いきや友達は幹事だというのに私に任せきり。
一緒に来ていた友達の職場の同僚は絡み酒だし、その同僚の友達は私が中心じゃないと無理っていうタイプだったし。
なんで私が取り仕切らなきゃならないんだ。
相手の男性人だってドン引きだったし。
絡み酒(心の中でそう呼んでる)なんて何っ回も同じ話ばっかり。空気読めっつーの!

「クソッ。全然楽しくなかった。どっか寄って帰ろうかな」

私が話を振って、注文してってしてたから全然飲めなかったし終電までまだまだ時間はある。
逃してもタクシーを使えばすぐだし、明日は休み!
もう条件は揃ってるし飲んで忘れるしかない!
思い立ったら即行動派な私は取り敢えずお金を下ろそうとコンビニへ入った。

「あ、」
「あ…」

レジに並んでいた人と目が合う。
えーっと、確かイゾウさん、だったっけ?

「ハチ公、だったよな?」
「はい。さっきはどーも」

面白くない女共のフォローばっかりで私の事もわからないと思ってたけど(実際私もうろ覚えだし)名前くらいは覚えてるもんか。

「何やってんだ?」
「あ、いや…飲み足りなくて…」
「あれじゃァ飲んだ気がしねェよな」

何かを思い出したのかクツクツと声を殺して笑う。
確か一番人気だったよなーこの人。
綺麗な顔してるし、笑顔が可愛い。いや、年上だけどさ。

「ちょっと待ってな」

そういうとパパッとレジを済ませ、行くぞ、と肩に手を置かれる。

「は?どこに?」
「飲み直し。飲み足りねェんだろ?」

奢ってやる。と言ったイゾウさんに遅れを取らないように後ろを追いかける。
え、いいの?タダ飲みは嬉しいけど、ほぼ初対面なのに。

「お前さん、焼き鳥は好きかい?」
「え?ま、まぁ…」
「よし、美味い店教えてやるよ」

スタスタと狭い路地へ入って行く。
こんなとこに焼き鳥屋なんてあるの?
薄暗いしなんか怖い。

「大丈夫かい?足元気を付けな」

ナチュラルに手を差し伸べられ躊躇いなく手を取る。
女慣れしているのか、そらそうか。こんだけイケメンなら女の方がほっとかないだろう。
そんなイゾウさんの優しさにドキドキしながら目的のお店に到着した。

「サッチ、空いてるか?」
「おう、イゾウ珍しいな。女連れてくるなんて」
「こ、こんばんわ」

今時珍しくリーゼントをばっちり決めたお兄さんがクシャッとした柔らかい笑顔で迎えてくれた。
イゾウさんの友達かな、随分タイプが違うような気がする。

「このリーゼントは学生時代の同級生だ」
「サッチってんだ!初めまして!」
「あ、ハチ公です」

見た目の割にやたらノリのいい兄ちゃんだな。
案内されたカウンターに腰を掛け取り敢えずビール。
イケメンをツマミに飲んでも罰は当たらないだろう。
私はよく頑張ったんだ。
と自画自賛しながら隣に座るイゾウさんと乾杯してビールを一気に飲み干した。

「良い飲みっぷりだな」
「今日は頑張りましたから」

違いねェ!と笑うイゾウさんはやっぱり女の私よりも数段綺麗だ。

「ハチ公は何で今日来たんだ?」
「数合わせですよ。ていうか、合コンだなんて知らなかったし」

いつもの癖で適当に返事をしてしまったから来ざるを得なくなっただけなんだけど。
まさかここまで疲れるなんて想像出来ないでしょうよ。
誰だよ。息抜きにパーっとなんて言ったやつ。
新しいビールを貰い、さっきまでの事を水に流すかのように喉に流し込む。

「なに、イゾウ合コンだったの?」

珍しいと言いたいような感じでサッチさんが話に入ってきた。

「まぁな。興味ねェけど」
「お前昔っから女っ気ねェもんな」
「え?そうなんですか?」

サッチさんの発言に少し驚いた。
こんなにも整ってる顔だからモテるだろうし、女なんか選びたい放題だろうに。

「お前さん、今俺の事チャラそうとか思っただろ」
「えっ」
「顔に書いてる」

心の中読まれたのかと思って私はただただ苦笑いしか出来なかった。
いや、でも実際チャラそうだし?
否定はしないけどさ。

「ハチ公ちゃん。こいつは俺らの中でも相当一途な方だぜ」
「まぁ、サッチやマルコに比べたら、な」
「おい。俺も一途だろ」
「目の前にいる女に、だろ」

ひどーい!なんて女口調になるサッチさんを軽くあしらい、楽しそうにグラスに口を付けるイゾウさん。
仲良いんだなぁ。
なんかほっこりする。
イゾウさんは一途なのか。イケメンで一途とかサイコーだね。
なんて口には出さずに頭の片隅で思った。

「俺は気に入った女にしか優しくしねェさ」
「…今日はいなかったんですか?」

その言葉にふと疑問が過った。
まぁあの中は居ないだろうけど、もしかしたらいたかもしれないし。
そうなれば私とこうして飲んでいるのは何か申し訳ないというか居た堪れない気がした。

「居たからこうして飲んでるだろ?」
「ん?」

投げかけた質問に返ってきた答えはどういう意味なのか。
気に入った子がいた、だから今飲んでる?
ん?ということは?

「えぇぇえ?!わ、私?!」
「他に誰が居るんだ?」

こういった経験があまりない私はただテンパっていて、それを見てイゾウさんはクツクツと喉の奥を鳴らす。

「俺ァあの店に居た時からお前さん以外眼中にねェよ」
「な?!」
「わーお。ハチ公ちゃん目ェつけられたな」

お兄さんは退散しまーす!と言い残し奥へと消えて行った。
この状況で残していきますか。そーですか。
それで私にどうしろっていうんですか?!
告白された訳でもないのにバクバクと高鳴る心臓を紛らわすためにビールを口にするが味が全くわからない。

「ククッ、安心しな。いきなり取って食うつもりはねェさ」
「は、はい…」

そりゃそうだ。
いきなりそんなことされたらたまったもんじゃねぇ。

「俺もお前さんもここからだ。取り敢えず、連絡先教えてくれるかい?」

言われるがまま携帯を取り出し、連絡先を交換する。
ここから、何か変わっていくのだろうか。
私とイゾウさんの間に新しい感情が芽生えたりするのかな。
それはそれで少しドキドキする。

「今日は兎に角飲みな。お前さんは頑張ったんだから」
「う、うん。ありがとう」

ぽんぽんと頭を撫でられて更に心臓が早くなる。
私絶対顔赤いよ。
お酒のせいか、イゾウさんのせいか。出来れば前者であってほしいと願うばかりだ。

「よし、乾杯し直すか!」
「何に乾杯します?」
「んなもんテキトーでいいんだよ」

見かけによらずアバウトな人だ。
なんだか気があいそうな予感がする。
仕事ばかりな毎日が少し刺激的になりそう。
今はまだ何の感情もないけれど、ここから始まればいいな、なんて柄にもなくそう思った。

ここから始まる恋心
「じゃあ、イゾウさん友達になれたって事で」
「「乾杯!」」






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